去年の私の記事「やっぱり出始めてきた「合併無駄遣い祭り」」で取り上げましたが,群馬県伊勢崎市で10億円かけて観覧車を作るという事業に対し,住民の反対運動が勃発し,署名活動が繰り広げられてきましたが,今回総務省から「合併特例債を利用する理由をちゃんと説明せよ」ということで難色を示したことから,市は契約を延長するとのことです。
大観覧車の建設を凍結 市民反発で群馬・伊勢崎市(共同通信) - goo ニュース
あくまでも契約中止ではありません
これにより,反対派住民は一安心でしょうが,総務省も別に「使わせない」とは言っていないことや,建設契約も解除したわけではないため,まだまだ不安は残ることでしょう。
ただ,この問題,私個人的には,次の点が非常に気になりました。例によって,誰も報じていないため,問題点を指摘しておきたいと思います。
1 契約を解除するにはお金がかかる
今回は,契約の延長と言うことで,おそらく「契約開始日と工事完了日」を延長した変更契約を締結したものと思われます。そして,業者側の好意で無償による延長を認めたものと思われます(有償であれば原則議会の承認が必要であるため。)。
しかし,この建設については,そもそも議会の議決を経て正式契約をしているため,外資系など契約にうるさい会社が請け負っていたとしたら,変更契約自体でも追加費用が発生した可能性があります(契約書では納期自体は当事者協議で調整できますが,工事期間は変更できない場合が多いため。)。
もっとも,このような「融通さ」が,談合のメリットである,と豪語する首長もいますが,逆に契約は透明にするべきである以上,変更契約をするのであれば,それなりの対価は当然必要となるでしょう。
ところで,住民運動が勝利して,建設計画を白紙撤回するとしたらどうなるでしょうか。
すでに契約した建設契約を解除します。そして,これは市の一方的都合によるものです。この場合,普通の契約書では,「解除違約金」と「解除までの損害の賠償金」が発生するのです。
違約金は事業規模にもよりますが,行政機関の契約書の場合,自分からの解除よりも業者からの解除をおそれていることから,かなり高額な違約金規定となっています。おそらく,伊勢崎市の場合も,違約金は数千万円規模の契約書となっていると推測されます。
また,損害賠償は,業者が材料等を購入していた場合,それに対する対価を支払わなければなりません。観覧車の場合,鉄骨を工場で加工してからもっていくスタイルであり,コンクリートや鉄筋などと違って他の工事に流用できないため,もしも工場内の作業が始まっていたとすれば,数億円規模の損害賠償が想定されます。当然,損害賠償に合併特例債は使えませんので,全額市が自腹で払います。
結局,伊勢崎市の場合,「作ったら実質3億円程度の負担」となりますが,「作らなかったとしても,3億円程度の負担」というオチが待っている可能性が高いです。
もちろん,作ってしまうと,その後のランニングコストがかかるが,作らなければランニングコストはかからないと言う大きな違いがありますが。
2 総務省は認めていたはず
合併特例債を利用する場合,必ず事前にお伺いをとり,金額もほぼ固めています。
具体的には,都道府県の地方課が窓口となり,市町村担当者は県の担当者とやりとりをして合併特例債にふさわしいか否か,金額は妥当かどうか等を調整します。
そして,大丈夫となった段階で,県から総務省にあげて,今度はそこで調整を行い,最終的に大丈夫となった時点で内定した旨とその金額が提示されます。
当然,伊勢崎市の観覧車も,同じルートでやっていますので,総務省は「一度OK」しているはずなのですが,あたかも「今聞いたけど,そりゃまずいよ」というスタンスに出ています。
これは,総務省側の責任逃れに他なりません。完全に,伊勢崎市のハシゴを外した状態になっています。
3 他の事業はどうなのか
合併特例債問題は,実は他の自治体でもかなり問題となっています。
総務省は,全事業を洗い直しているのでしょうか。それとも,署名が来たから仕方なく洗い直したのでしょうか。
以上です。例によって「事業がなくなりそうでよかったね」的な面しか報道されませんが,もっと裏側にはこうした問題が控えている,ということを知っておく必要があるでしょう。
果たして,伊勢崎市長がどう決断するか,議会はどう対応するか,県や国はどう釈明するか,この点にも関心をよせましょう。
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TB先一覧
http://blog.goo.ne.jp/sunafukin-0101/e/d857be202634ba59200fc9ba626e3e64
http://tedium.seesaa.net/article/32178649.html
大観覧車の建設を凍結 市民反発で群馬・伊勢崎市(共同通信) - goo ニュース
あくまでも契約中止ではありません
これにより,反対派住民は一安心でしょうが,総務省も別に「使わせない」とは言っていないことや,建設契約も解除したわけではないため,まだまだ不安は残ることでしょう。
ただ,この問題,私個人的には,次の点が非常に気になりました。例によって,誰も報じていないため,問題点を指摘しておきたいと思います。
1 契約を解除するにはお金がかかる
今回は,契約の延長と言うことで,おそらく「契約開始日と工事完了日」を延長した変更契約を締結したものと思われます。そして,業者側の好意で無償による延長を認めたものと思われます(有償であれば原則議会の承認が必要であるため。)。
しかし,この建設については,そもそも議会の議決を経て正式契約をしているため,外資系など契約にうるさい会社が請け負っていたとしたら,変更契約自体でも追加費用が発生した可能性があります(契約書では納期自体は当事者協議で調整できますが,工事期間は変更できない場合が多いため。)。
もっとも,このような「融通さ」が,談合のメリットである,と豪語する首長もいますが,逆に契約は透明にするべきである以上,変更契約をするのであれば,それなりの対価は当然必要となるでしょう。
ところで,住民運動が勝利して,建設計画を白紙撤回するとしたらどうなるでしょうか。
すでに契約した建設契約を解除します。そして,これは市の一方的都合によるものです。この場合,普通の契約書では,「解除違約金」と「解除までの損害の賠償金」が発生するのです。
違約金は事業規模にもよりますが,行政機関の契約書の場合,自分からの解除よりも業者からの解除をおそれていることから,かなり高額な違約金規定となっています。おそらく,伊勢崎市の場合も,違約金は数千万円規模の契約書となっていると推測されます。
また,損害賠償は,業者が材料等を購入していた場合,それに対する対価を支払わなければなりません。観覧車の場合,鉄骨を工場で加工してからもっていくスタイルであり,コンクリートや鉄筋などと違って他の工事に流用できないため,もしも工場内の作業が始まっていたとすれば,数億円規模の損害賠償が想定されます。当然,損害賠償に合併特例債は使えませんので,全額市が自腹で払います。
結局,伊勢崎市の場合,「作ったら実質3億円程度の負担」となりますが,「作らなかったとしても,3億円程度の負担」というオチが待っている可能性が高いです。
もちろん,作ってしまうと,その後のランニングコストがかかるが,作らなければランニングコストはかからないと言う大きな違いがありますが。
2 総務省は認めていたはず
合併特例債を利用する場合,必ず事前にお伺いをとり,金額もほぼ固めています。
具体的には,都道府県の地方課が窓口となり,市町村担当者は県の担当者とやりとりをして合併特例債にふさわしいか否か,金額は妥当かどうか等を調整します。
そして,大丈夫となった段階で,県から総務省にあげて,今度はそこで調整を行い,最終的に大丈夫となった時点で内定した旨とその金額が提示されます。
当然,伊勢崎市の観覧車も,同じルートでやっていますので,総務省は「一度OK」しているはずなのですが,あたかも「今聞いたけど,そりゃまずいよ」というスタンスに出ています。
これは,総務省側の責任逃れに他なりません。完全に,伊勢崎市のハシゴを外した状態になっています。
3 他の事業はどうなのか
合併特例債問題は,実は他の自治体でもかなり問題となっています。
総務省は,全事業を洗い直しているのでしょうか。それとも,署名が来たから仕方なく洗い直したのでしょうか。
以上です。例によって「事業がなくなりそうでよかったね」的な面しか報道されませんが,もっと裏側にはこうした問題が控えている,ということを知っておく必要があるでしょう。
果たして,伊勢崎市長がどう決断するか,議会はどう対応するか,県や国はどう釈明するか,この点にも関心をよせましょう。
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