こんばんは。
先週行ってきた、四谷シモンさんの講演会のメモを公開します。
すごい良かったです。
四谷シモンさん、ぽつりぽつりと話される感じが、とても印象的でした。
――――――
武蔵大学 第11回大学図書館セミナー 「人形人生」
講師:四谷シモン氏(人形作家)
聞き手:香川檀(武蔵大学人文学部教授)
日時:平成29年9月16日(土) 16:00~17:30
場所:武蔵大学8号館7階 8702教室
――――――
□四谷シモン氏講演会、まで。
はじめに香川檀先生のほうから、四谷シモンさんをお呼びすることになった経緯を説明。
以前公開セミナーをするときにポスターに四谷シモンさんのお人形の写真を使用し、またそれを本(『人形の文化史―ヨーロッパの諸相から』水声社、2016年)にするときにも表紙にそのお人形の写真を使用したこと。その許可をお願いするために連絡したことがきっかけとなって、つながりができたことなど。
□人形を作り始めたきっかけ。
そしていよいよ四谷シモンさんのお話です。「人形人生」ということで、初めて人形を作った子どもの頃の話から。
小4の時に紙粘土でお面を作ったのが、人形を作り始めたきっかけ。小5~6年生の頃には、布でぬいぐるみの人形を作っていた。
14歳の時に、就職とも進学とも決まらず、じゃあどうしようか、となったときに、「人形で生きていきたい」と思った。
なぜ人形なのかは分からない、また人形でどうやって生きていくのか見当も付かなかったが。
□「人形って何?」
いい人形を作りたい。でもいい人形って何?、と思った。
人形作家のところに習いに行ったこともあるが、でも月謝が続かなかった。
□ベルメールとの出会い。
そしてベルメールの人形(の写真)と出会い、「これだ」と思います。
ベルメールの人形には、人形しかない。人形だけ。
そして、「動く」ということに衝撃を受けた。日本の江戸時代の人形でも、みんな動く。
その後何を作ってもベルメールの真似になってしまう、ベルメールの真似ではダメではないか、と葛藤します。
□女形時代、初個展。
その後「状況劇場」の女形などをやりますが、役者を辞めた時、ベルメールを真似するしかない、他にはない、と思います。
そして初個展。初個展では12体の女性の人形を展示します。
初期の人形は基本直立で、ケースに入れた少年人形がありました。
「何となく高級感が出る」程度の意図だった、とシモンさんは説明しますが、香川檀先生が、ハンスベルメールの人形の「動く」ところに衝撃を受けたとおっしゃっていたが、ケースに入れた人形は、見る人は触って動かすことができない、と指摘すると、「ああほんとうだ、どういうことだろう…ちょっと考えてみます」とシモンさん。
□これまで制作されたいろいろなお人形の説明。
・「機械仕掛けの少年」
…澁澤の『夢の宇宙史』に載っていた自動人形に感銘を受け、何としてでも動く人形を作りたいと思って作ったもの。
動かすのはぜんまい仕掛けでないといけない、電気は嫌。電気だと外部とつながっている。
動く人形はこれ一体だけ。あとは実際には動かなくてもいい、機械が中にあって、見た人の想像の中で動けばいい。
人形を作るときは何も考えずに手を動かしているだけ。
(顔に)何となくさみしげな感じが出たらそれでいい。愁いとか。静かな人形しか作れない。
何もないものを作りたい。
・「解剖学の天使」
…言葉からインスピレーション。レオノール・フィニの作品に、「解剖学の天使」というタイトルのものがある。
ぽかーんとした顔がいいと思って、これと同じ顔を作りたいと思ったけれど、同じ顔は作れない。顔は心で作るもの。
・「天使―澁澤龍彦に捧ぐ」「キリエ・エレイソン」
…小4で勉強しなくなってまっさらな状態だったものに、澁澤の影響を受けた。だから亡くなったときはしばらく何も作れないくらいの状態になって、そんなときに中沢新一さんから『ギリシャ正教』を読めと勧められる。そして作ったもの。
ギリシャ正教のイコンのイメージ。「キリエ・エレイソン」はギリシャ語の「主よ、我に憐れみを」。
・「目前の愛」
…たった今のこと、目前に目に見えるものへの愛情が、大事なもの。
・《ナルシシズム》《ピグマリオニスム・ナルシシズム》
…人形教室で作るものを見ていると、それぞれ当人に何となく似ている。それを見て人というのはナルシシズムがある、と思って制作したもの。こういう仕事は体力が必要。何年かかったか分からない。
□これからのこと。
(やめようと思ったことはあるか、何が人形制作のモチベーションなのかとの質問に対して)
やめようと思ったことは一度もない。(モチベーションは)人形とは何か、ということには答えがないこと。
何か作りたい。人形とは何か、と、ずっと思っている。
――――――
会場で本を売っていたのですが、講演会終了後にその本にサイン下さる時間がありまして、私もいただきました。
私が買ったのは、『四谷シモン ベルメールへの旅』(菅原多喜夫、愛育出版、2017年)という、2010年に四谷シモンの展覧会がベルメールの故郷であるカトヴィツェで開催された時の旅の様子をつづったエッセイ。ピンク色のきれいな本です。
講演会にはこの本の著者で旅に同行された菅原多喜夫さんもいらしており、この時の旅のことにも触れられていました。
他には、中公文庫で出た『人形人生』の新しいバージョンとか、いくつかの人形の写真集が売られておりました。
四谷シモンさんというと、わりと初期の頃のイメージが強かったのですが、通してみると作風も変化していることが分かります。
そして、今もずっと作り続けたい、「人形とは何か」とずっと思っている、というのが印象的でした。
先週行ってきた、四谷シモンさんの講演会のメモを公開します。
すごい良かったです。
四谷シモンさん、ぽつりぽつりと話される感じが、とても印象的でした。
――――――
武蔵大学 第11回大学図書館セミナー 「人形人生」
講師:四谷シモン氏(人形作家)
聞き手:香川檀(武蔵大学人文学部教授)
日時:平成29年9月16日(土) 16:00~17:30
場所:武蔵大学8号館7階 8702教室
――――――
□四谷シモン氏講演会、まで。
はじめに香川檀先生のほうから、四谷シモンさんをお呼びすることになった経緯を説明。
以前公開セミナーをするときにポスターに四谷シモンさんのお人形の写真を使用し、またそれを本(『人形の文化史―ヨーロッパの諸相から』水声社、2016年)にするときにも表紙にそのお人形の写真を使用したこと。その許可をお願いするために連絡したことがきっかけとなって、つながりができたことなど。
□人形を作り始めたきっかけ。
そしていよいよ四谷シモンさんのお話です。「人形人生」ということで、初めて人形を作った子どもの頃の話から。
小4の時に紙粘土でお面を作ったのが、人形を作り始めたきっかけ。小5~6年生の頃には、布でぬいぐるみの人形を作っていた。
14歳の時に、就職とも進学とも決まらず、じゃあどうしようか、となったときに、「人形で生きていきたい」と思った。
なぜ人形なのかは分からない、また人形でどうやって生きていくのか見当も付かなかったが。
□「人形って何?」
いい人形を作りたい。でもいい人形って何?、と思った。
人形作家のところに習いに行ったこともあるが、でも月謝が続かなかった。
□ベルメールとの出会い。
そしてベルメールの人形(の写真)と出会い、「これだ」と思います。
ベルメールの人形には、人形しかない。人形だけ。
そして、「動く」ということに衝撃を受けた。日本の江戸時代の人形でも、みんな動く。
その後何を作ってもベルメールの真似になってしまう、ベルメールの真似ではダメではないか、と葛藤します。
□女形時代、初個展。
その後「状況劇場」の女形などをやりますが、役者を辞めた時、ベルメールを真似するしかない、他にはない、と思います。
そして初個展。初個展では12体の女性の人形を展示します。
初期の人形は基本直立で、ケースに入れた少年人形がありました。
「何となく高級感が出る」程度の意図だった、とシモンさんは説明しますが、香川檀先生が、ハンスベルメールの人形の「動く」ところに衝撃を受けたとおっしゃっていたが、ケースに入れた人形は、見る人は触って動かすことができない、と指摘すると、「ああほんとうだ、どういうことだろう…ちょっと考えてみます」とシモンさん。
□これまで制作されたいろいろなお人形の説明。
・「機械仕掛けの少年」
…澁澤の『夢の宇宙史』に載っていた自動人形に感銘を受け、何としてでも動く人形を作りたいと思って作ったもの。
動かすのはぜんまい仕掛けでないといけない、電気は嫌。電気だと外部とつながっている。
動く人形はこれ一体だけ。あとは実際には動かなくてもいい、機械が中にあって、見た人の想像の中で動けばいい。
人形を作るときは何も考えずに手を動かしているだけ。
(顔に)何となくさみしげな感じが出たらそれでいい。愁いとか。静かな人形しか作れない。
何もないものを作りたい。
・「解剖学の天使」
…言葉からインスピレーション。レオノール・フィニの作品に、「解剖学の天使」というタイトルのものがある。
ぽかーんとした顔がいいと思って、これと同じ顔を作りたいと思ったけれど、同じ顔は作れない。顔は心で作るもの。
・「天使―澁澤龍彦に捧ぐ」「キリエ・エレイソン」
…小4で勉強しなくなってまっさらな状態だったものに、澁澤の影響を受けた。だから亡くなったときはしばらく何も作れないくらいの状態になって、そんなときに中沢新一さんから『ギリシャ正教』を読めと勧められる。そして作ったもの。
ギリシャ正教のイコンのイメージ。「キリエ・エレイソン」はギリシャ語の「主よ、我に憐れみを」。
・「目前の愛」
…たった今のこと、目前に目に見えるものへの愛情が、大事なもの。
・《ナルシシズム》《ピグマリオニスム・ナルシシズム》
…人形教室で作るものを見ていると、それぞれ当人に何となく似ている。それを見て人というのはナルシシズムがある、と思って制作したもの。こういう仕事は体力が必要。何年かかったか分からない。
□これからのこと。
(やめようと思ったことはあるか、何が人形制作のモチベーションなのかとの質問に対して)
やめようと思ったことは一度もない。(モチベーションは)人形とは何か、ということには答えがないこと。
何か作りたい。人形とは何か、と、ずっと思っている。
――――――
会場で本を売っていたのですが、講演会終了後にその本にサイン下さる時間がありまして、私もいただきました。
私が買ったのは、『四谷シモン ベルメールへの旅』(菅原多喜夫、愛育出版、2017年)という、2010年に四谷シモンの展覧会がベルメールの故郷であるカトヴィツェで開催された時の旅の様子をつづったエッセイ。ピンク色のきれいな本です。
講演会にはこの本の著者で旅に同行された菅原多喜夫さんもいらしており、この時の旅のことにも触れられていました。
他には、中公文庫で出た『人形人生』の新しいバージョンとか、いくつかの人形の写真集が売られておりました。
四谷シモンさんというと、わりと初期の頃のイメージが強かったのですが、通してみると作風も変化していることが分かります。
そして、今もずっと作り続けたい、「人形とは何か」とずっと思っている、というのが印象的でした。