松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆マスゾエ問題が残したもの(三浦半島)

2016-07-02 | 地方自治法と地方自治のはざまで

 元総務事務次官の桜井さんは、都知事に出るのだろうか。

 報道では、固辞しているということである。そうだと思う。でも、まだ分からない。安部総理が捨て身の説得をすれば、これまでの貸し借りの中で、決断せざるを得ない場合もあるからである。

 桜井さんが、固辞する理由はよくわかる。一たび選挙に出て、公人になれば、プライバシーはあっという間に剥がされる。マックの割引券の愛好者かどうかも晒されるのである。本人や嵐の桜井さんは、ある程度覚悟できるが、奥さんや他の子どもたちには、まったくの迷惑である。

 おそらく桜井さんの家では、何度も家族会議が開かれていて、「お父さん、絶対に出ないでくださいね」と何度も念を押されているだろう。もし、安部首相の説得に負けて、出馬を引き受けて、家に帰ってきたら、しばらく誰も口を聞いてくれないだろう。

 さて、マスゾエ問題であるが、最大のポイントは、公人ならば、あらゆるプライバシーが晒されても許されるというルールが作られたことである。これが私たちの代表民主制を危機に陥しいれる。

 少し詳しく説明しよう。

 まず、私たちは親から、あるいは親として、明示的か黙示的かは別にして、いい大学に入り、そのうえで、一生勤められる大会社か役所に入り、安定した生活を送ることがよいと教わってきた。その結果、優秀と評価されればされるほど、安定した職業を選ぶことになる。

 むろん、若者らしい純粋さから、こうした「安定」に反発を感じ、抵抗を試みるが、しかし、結局、多くの若者は、「安定」に落ち着くことになる。私の周りを見回してみても、結局、みな大会社や役所に入り、さらには社会的評価の高い仕事(弁護士や大学教授)についている。学生時代の言動とは大きく違っている。

 これに対して、政治はリスキーな仕事である。それは4年の任期制で、次の選挙に落ちれば無職になるからである。安定とは縁遠い仕事である。安定を刷り込まれた若者にとっては、魅力の乏しい業界であり、それゆえ実際の参入者は極めて少ない。

 参入者が少ないということは、要するに、選択するパイが小さく、選択肢の幅が狭いということである。しかし、私たちは、この中から、私たちの代表者を選ばなければならない。むろん、なかには安定など求めないという傑出したリーダーがいる場合もあるが、実際には、パイが小さければ小さいほど、そうした人の絶対数は少なくなる。これは確率の問題であり、私たちの民主主義が持つ構造的な限界である。

 こうした狭い業界に、わずかながら風穴を開けてきたのが、現代の名望家たちである。つまり、組織や社会で成功をおさめ、それゆえ金の心配はなく、一定のポストも獲得したので、残りの人生は、社会のために捧げようと考えて、政治に出てくる人たちである。桜井さんもその一人だろう。

 ところが、マスゾエ問題では、このように考える人たちの新規参入を阻む大きな障壁を作ることになってしまった。公人ならば、どんなプライバシーでも晒してよいというルールである。思い出したくない過去をえぐり出され、しかも、自分だけでなく、妻や子どもですらインタビューされて、好奇の目に晒される。

 そもそも脛に傷を持たない人などはいないし、仕事をすればするほど、脛の傷は増えてくる。適切・不適切の境目は、限りなく曖昧である。それを針小棒大に書かれたら、たとえ裁判に勝ったとしても後の祭りである。マックの割引券を使うかどうかは、その人の勝手で、ほかの人がとやかく言うことではないが、そんなことも、面白おかしく書き立てられる。これでは、せっかく人生の後半を社会のために活かそうと考えた人も、出鼻をくじかれ、たじろいでしまうだろう。

 マスゾエ問題では、多くの人は、他人事として、面白がってきたが、今、それがブーメランとなって、自分たちのところに戻ってきた。しかも、そのブーメランは、ただでさえ脆弱な民主制に向かって、何倍もの威力を持って向かってきた。

 私たちは、押され気味であるが、今こそ踏ん張り時なのだろう。こういう今だからこそ、一発逆転の返し技をかける準備をし、機を見て大外返しを掛けようではないか。

 

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