松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆住民自治は本当に住民自身が求めているものなのだろうか

2023-12-24 | 地方自治法と地方自治のはざまで

「住民自治は本当に住民自身が求めているものなのだろうか」。地方財務に提出しようとしている元新城市長の穂積さんとの対談の最後に、穂積さんが提起した言葉である。

私は、「この問いに向き合うのを避けてきましたが、それでは済まない時代になったように思います」とかろうじて答えた。

SNSの時代になって、誰でもが、メッセージを発信できる時代になった。それまでは、それなりの立場の人以外、一般の人に向けて、メッセージを発するツールがなかった。

それまでなら、公共領域にいる人は、例えば、新城の人たちのように、きちんとした理念を持ち、しっかりと行動している人ばかりである。だから、私は、自信を持って、日本の市民力は凄いと言ってきた。

ところが、SNSの時代、ベットに寝ころびながら、スマホで公共領域に入り込めるようになった。不思議なもので、文字になったメッセージは、いっぱしの影響力を持つ。そして、多くの人が、そのメッセージを受けることができる。その結果、劇場型の情報発信であればあるほど、たくさんのフォロワーがつき、いいねの声が、社会の声になっていく。だから、最近は、私は、自信を持って、日本の市民力は凄いと言えなくなった。

言うまでもなく、民主主義における市民像は、自分で考え、他者を尊重し、自ら行動する市民であるが、SNSの市民は、このあるべき市民像とは大きく乖離している。今までならば、公共領域に登場できない市民が、スマホによって、公共領域へ登場することで、民主主義の市民像が揺らいできたと言うことだろう。

いままで、オミットされていた「市民」が、公共領域に登場できるよう人なったということは、本来ならいいことであるが、あまりに一気に、まるで準備なく、しかも大量に登場したことが、混迷の原因なのだろう。

SNSの時代は、元には戻らず、さらに進むわけだから、今の状況を取り込みながら、民主主義を再構築していかなければいけないが、そのために知恵を出すのが、私たちの仕事なのだろう。

以前、「自治の旅」に書いた、「民主主義はゆるぎないものか」というフレーズをあらためてあらためて思い出した。20年以上前に考えたことであるが、だから、とっさに、「この問いに向き合うのを避けてきましたが、それでは済まない時代になったように思います」とかろうじて答えたのだった。

『自治の旅』(萌書房)

民主主義は揺るぎないものか(大阪府枚方市・長尾)

大阪は暑いまちである。真夏日などは、私が住む三浦半島の2倍になる。

大阪国際大学枚方キャンパスは、大阪府の北部、枚方市長尾にある。キャンパスへは、JR学研線長尾駅からのバスもあるが、私はバス通りを通らずに、いつも船橋川沿いの緑道をゆっくり上って行っていく。夏の暑い日は、途中の大池で一服するが、池では水鳥もゆっくりと羽根を休めている。長尾は自然と歴史のあるまちである。

「民主主義は揺るぎないものか」。大阪国際大学教授でルソー研究の山本周次先生のゼミテーマである。民主主義は、当たり前のことと思っていた私は、少しの反発とともに、こんなことを何十年も考え続けている山本先生に大いに興味を持った。そして、あらためて民主主義を考え直してみようと思った。

50歳を過ぎて、はじめて暮らす関西。大学教授という仕事。期待と不安が入り混じる人生の再出発となった。

市役所を辞めて、初めて勤めた大学が、大阪府枚方市にある大阪国際大学である。私は、ここで大学というものの枠組みを学んだ。

大阪国際大学は、1988年創立という新しい大学である。もともとは幼稚園を母体に、高校、短大と積み上げて大学がつくられた。大学の創立にあたっては、京大や阪大を退職された著名な先生方が集められたが、私が、大阪国際大学に移った2003年には、まだ創立当初の先生方が残っておられた。

私の研究室の3つ隣が、経済学の新開陽一先生である。2004年には文化功労者になられた。廊下ですれ違うと、いつも先生の方から穏やかに会釈され、後からノーベル賞を取ってもおかしくない先生だと聞かされて驚いた。そのほか、刑法・刑事訴訟法の井戸田侃先生、行政法の高田敏先生、商法の川又良也先生という大先生たちがおられた。いずれの先生も、私が学生時代に教科書や論文で学んだ大先生であるが、どの先生も、新米教員の私に、あれこれと声をかけてくれ、気を使ってくれた。教授会の雰囲気も、京大、阪大の雰囲気をそのまま体現していたのだろう。

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