
新城市長の穂積さんの新著『自治する日本』(萌書房)が発刊された。
萌(きざす)書房といえば、哲学の出版社であるが、最近は、政治学のラインナップも充実してきた。私が運営する市民力ライブラリーシリーズもどんどんと充実してきている。今回の穂積さんの本も、地方自治の現場から、とりわけ市長から見た地方自治論なので、大変興味深い。
市長本と言えば、たいていは職員が書いて、市長は名前を貸すだけというものが多いが、これは、正真正銘、ご本人が市長職の激務の合間を縫って、書きあげたもの(当たり前だが)。全国に出かけ、魅力的な市長さんにお目にかかることがあるが、そのなかでも、穂積さんは、真正面から、どっしりとした四つ相撲を取る市長さんである。その分、この本も、本格的な自治論となっている。
過日、新城市で、出版を祝う会があり、声をかけていただいたが、用事でいけなかった。代わりに、次のようなメッセージを送った。
『自治する日本』(萌書房)の刊行によせて
この度は、『自治する日本』の出版、おめでとうございます。本日は、所用があって、出版を祝う会への出席はかないませんが、遠方からですが、エールを送ります。
枕詞のように繰り返されていますが、地方自治を取り巻く状況は厳しく、今後もその困難さは、増すばかりです。そういう時代だからこそ、全国の自治体を導き、あるいは自信を取り戻せるような、光明のようなものが必要です。新城市は、若者政策を初めてとして、全国の自治体をリードする政策を次々に打ち出し、全国の自治体に希望を与えてきました。
私が注目するのは、その体系的な取り組みです。まず自治基本条例で、今後の自治経営のあり方として、行政のほか、市民、地域団体、NPO、企業等がその持てる力を発揮して、自治の諸問題に立ち向かっていくことを明確にしました。
そのうえで、次世代の担い手として期待されながらも、これまで地域とは疎遠であった若者の出番をつくる若者政策や若者議会、男性優位社会の中で、出番が少なかった女性の出番をつくる女性議会、身近な自治を実践する仕組みとしての地域自治区、企業や事業者の奮闘を期待する地域産業総合振興条例など、種々の政策は、この理念を具体化したものです。
つまり、従来型の、お役所依存、お役所への要求であった自治を大きく転換し、地域のそれぞれの人や組織が存分に力を発揮することで、自治の課題を乗り越えていこうという実践を行ってきたのが新城市の自治だと思います。
新城市において、こうした取り組みができたのは、二つの要素が必要です。一つは、それぞれのフィールドで、その力を発揮する市民、地域、企業の存在です。私も新城市との長い付き合いの中で、地域のために頑張っている何人もの顔がすぐに浮かびます。
もう一つが、市長のリーダーシップです。最近では、住民に迎合するポピュリズムが地方自治にも蔓延し始めましたが、自治に対するゆるぎない理念に基づき、かといって教条的にならずに、その理念を着実に具体化する穂積市長の手腕には、敬意を表しています。
今回の『自治する日本』では、リーダーとしての穂積市長の考え方や実践が、わかりやすく書かれています。新城市とは、長い付き合いがある私でも、「そうだったのか」と合点するところもありますが、何よりも、自治を取り巻く困難な状況の中で奮闘している全国の自治体にとっては、頼りがいのある指針になると思います。
最後になりますが、穂積市長におかれましては、本書で述べた自治の理念や提案をさらに具体化、充実させ、新城市のために、さらには、自治する日本全体のために、奮闘されることを大いに期待しています。そのうえで、『自治する日本・パート2』が出版されることを願っています。
平成28年4月16日
相模女子大学 松下啓一