松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆市民まちづくり集会(新城市)

2013-08-25 | 1.研究活動
  新城市で市民まちづくり集会があり、参加させてもらった。
 
 市民まちづくり集会は、この春から施行された自治基本条例に基づくもので、市民、市長、議員が一同に集まって、地域の課題やまちの未来について、情報を共有し、話し合う場である。何かを決定をする組織ではない。

 これまで、私たちは、まちのことを人任せにしてきたのではないか。知らぬ間に、お任せ民主主義、依存民主主義になってしまったのではないか。しかし、それでは、私たちの未来は、もはや覚束ない。もう一度、自治の原点に戻って、市民一人ひとりが、他者のことを思いやり、まちのことを自分の問題として考えることで、私たちの未来を持続可能なものにすることができるのではないか、それが自治基本条例であり、その具体化が、この市民まちづくり集会である。

 第一回目であるが、とても良い集まりとなった。大成功だと思う。参考にしようと考える自治体のために、ポイントを紹介しておこう。
 ①司会も運営も受け付けも、市民の人たちがやった。ポイントは、自治基本条例を一緒に考えてきた市民がやったという点である。要するに、この会議の意味も十分分かっていて、しかも、長い間一緒に検討してきたので、お互いが、それぞれの得手、得意分野を知っていることである。だから、司会はAさん、説明はBさんという適材適所になる。行政だけでやっていたら、相変わらず、行政質問型の会議になってしまっただろう。
 ②市民と行政が、運営にあって、たくさんの知恵とアイディアを出し、それを実践したことである。特に良かったのは、会議に参加した市民同士の意見交換である。同じ列に座った3人で、話し合う機会がつくられた。新城市の市民会館という場所は、前に舞台があり、階段状のイス席という、およそ話し合いにはふさわしくない会場であったが、隣に座った市民同士が話し合う工夫が施された。運営の詳細は、書き切れないないので、是非、市役所に問い合わせてほしいが、私は、これを見ながら、となり3軒両隣という言葉を思い出した。
 ③若人たちの参加と活躍の舞台である。はじめはやや緊張気味であったが、シナリオのない場面になると、実にのびのびとやっていた。若い人も、出番があれば、どんどんと力を発揮する。枠に抑え込み過ぎないようにするのがポイントだろう。②の意見交換で、議論の経過をラインで画面に映すなどという工夫があったが、これなど、若い人ならではのアイディアだろう。
 ④新庁舎建設という政治課題を逃げずに取り上げたことである。この問題は、11月に行われる市長選挙の最大争点である。そんな重要な問題をあえて避ければ、地域の重要課題について情報共有するという、市民まちづくり集会の存在意義を失うし、他方、取り上げたとしても、一方的なPRの場とすれば、これまた市民まちづくり集会の意義を減殺する。これまでの経緯をきちんと説明することを重点に、同時に、反対の人の意見も発表されることで、情報共有をはかるという趣旨が活かされた。市民会議の人たちは、ずいぶんと気を使ったのではないかと思うが、でも、やってしまうところがすごい。
 ⑤こうした市民の思いやアイディアを許容・後押しする行政の姿勢や力量もポイントである。それができたのは、市民と行政が、一緒に自治基本条例をつくってきたという信頼感があったからだろう。市民の思いを大事にしつつ、できること、できないことをきちんと説明する姿勢がこの日につながったのだろう。担当者の力量もあるが、こうした「協働」ができる素地を育んできたということが重要である。

 市民集会のような試みは、これまでなかったわけではない。かつて横浜市では1万人市民集会があった。ただ、今回の市民まちづくり集会は、これまでの市民集会とは質的な違いがあることに注意すべきである。
 従前の市民集会は、政府の決定や方向付けに、市民が意見を言うという「参加」の理念に基づく仕組みである。たしかに参加は重要であるが、それが反転して、行政への要求や依存に転化してしまったというのが、これまでも地方自治の反省である。
 ところが、今回の市民まちづくり集会は、協働の理念に基づくものである。何度も書いているが、協働とは、市長や議員だけでなく、市民も公共の担い手となるということであるが、市長、議員、市民のそれぞれが、その得意分野や特性を存分に発揮して、まちをつくっていくのが協働である。やや大げさに言えば、18世紀からずっと続いてきた統治の理論(それはおそらく国家の理論)を乗り越え、21世紀にふさわし新しい自治の理念を具体化するもの(地域の観点から考えた理論)である。それが実践されたのが、今回の市民まちづくり会議だと思う。

 自治基本条例をあわてずに、じっくりと創ってきてよかったと思う。
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