松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆熟議の市長選挙72・公開政策討論会条例の問いかけるもの(6)市民の知る権利

2020-09-17 | 1.研究活動
 この条例は、市民の知る権利から立論している(第1条)。

 告示前に、立候補予定者がうち揃って、自分の政策を市民の前で開陳する論理は、2つある。
 一つは、これは選挙活動ではなくて、政治活動であるという行き方、他の一つは、市民の知る権利に応じるものであるという行き方である。

 JC等がこれまで行ってきた公開討論会は、前者の政治活動という立場からである。政治活動は、公選法で許されている。いわば公選法の土俵に乗っての公開討論会である。

 他方、新城市の公開政策討論会は、市民の知る権利から構成されているが、これは公選法の枠外からのアプローチである。すでに公選法があるのに、その枠外からアプローチして条例ができるかどうかは、徳島市公安条例判決の判断基準で考えることになる。
 
 この昭和50年の大法廷判決によれば、条例ができる場合は3つである。ここでは、この3ケースのうち、この条例は「目的が違う」→「法律の目的、効果を阻害しない」のケースである。結論は、市民の知る権利は、法律の目的・効果を阻害しないゆえ、この条例は合法ということになる。

 それゆえ公開政策討論会は政治活動の自由を阻害するという議論も当たらない。政治活動は自由にすればよい。この公開政策討論会は、市民の知る権利を一つ増やす仕組みである。市民の聞きたいことに応える機会という趣旨に賛同したら、公開政策討論会に参加すればよいし、賛同しないならば、参加しなければよい。

 なお、新城市の論理でも、公選法の規定の順守、つまり事前の選挙運動にならないような運営は、当然のことである。

 政治活動の自由から立論するか、市民の知る権利から立論するかでは、実際に、どこが違ってくるのか。

 この条例の検討の際に懸念したのは、明らかに混乱しか及ぼさない候補者が、参入してきて、混乱するような主張をし始めたらどうするかである。私が、聞いた選管の担当者たちは、いずれも、この点を懸念していた。現実的に、「NHKを・・・」という政党が、あちこちの市長選挙にやみくもに立候補していたからである。

 もちろん、政治的主張は自由であるから、市長選挙で、[NHK・・・」を掲げて選挙を行うのは、自由である。しかし、公開政策討論会で、そんな主張ばかり聞かされたら、地元の人は迷惑である。

 公開政策討論会の参加者が知りたいのは、自分たちの町の未来や自分の暮らしの行く末はどうなっていくかである。若者が残れるような働き場所はどのように確保しようとしているのか、通っていた病院はこのまま存続するのだろうか、買い物に出かける交通手段は、どのように確保しようとしているのか等、日々の暮らしに関することである。

 この制度を候補者の政治的自由で構成したら、候補者が好きなことを言うのを妨げられない。他方、市民の知る権利で構成したら、この市民が知りたいことを中心に、立候補予定者に語ってもらうように運営できるということになる。「NHK・・・」は、おそらく、市長選挙で、市民が聞きたい論点には上がってこないし、実際の運営のなかで、「NHK・・・」という大演説になったら、「ここでの論点とは違う」と言って、司会者が、注意ができることになる。

 このように考えると、公開政策討論会の実行委員会の役割が、重要ということになる。前回の選挙では、各候補者から推薦された市民(3人×3候補者)が、各候補者の損得を離れて、市民全体の立場から、市民の知りたいこと(公開政策討論会で議論すること)を決めていった。

 この成功体験を継続しつつ、市民の知りたいことを聞ける公開政策討論会を安定的に作り上げるためにはどうしたらよいか、実施までの1年、注力して検討すべきことだと思う。
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