松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆附属機関条例主義を考える⑧附属機関設置条例のもたらしたもの(まとめ)

2019-01-03 | 1.研究活動
 附属機関設置条例は、役所を守ったが、地方自治を守れたのかというのが私の問題意識である。

 政策の立案過程で、要綱をつくり、市民に集まってもらって、市民サイドから提案をもらう。そこに、交通費を支払うと、それは地方自治法138条の4に違反するとして、裁判が起こされ、違法判決が出るようになった。そこで、裁判にならないようにと、附属機関を一覧表にした附属機関設置条例がつくられる。

 一覧表に乗るのは、限定的な審議会等であるから、こうした市民参加の検討会は、陰に隠れた存在になる。

 こんなような知恵が絞らたこともある。訴訟を免れるために、コンサルタント等に一括して委託し、コンサルタントの経費で交通費を出すという方式である。これならば、裁判にはならないが、コンサルタントが取る事務費等は、明らかに必要のない経費である。

 附属機関ならば、市長からの委嘱があり、座長や定足数を決め、何よりの会全体としての提言ができるが、懇話会だと、市長の辞令はない(市長から辞令をもらうことで、よしがんばるぞ、という誘因になる。その気になってもらう方法として、安いし、簡単にできる。辞令を渡すときに、市長から一言あればなおさらよい)。

 懇話会だと、座長等も決められず、何よりもみんなで知恵を絞って、提言をまとめることもできない(そこには自分の主張だけでなく、相手の主張も認め、妥協するという作業が入る)。

 何度も書いているが、もはや役所に任せ、税金で何とかする時代は終わっている。これからの時代に合った、新しい自治の運営方法が、求められる。その答えはいろいろあってよいが、私が考えるのが、市民も,NPOも、企業も、そして、行政も議会も、それぞれが自分の得意分野で存分に力を発揮することで、この難局を乗り越えていこうというものである。協働である。

 その協働の一つが、知識、経験がある市民に集まってもらって、自らの得意分野を活かして、公共課題を克服する道を探る方法である。そのひとつが、市民参加型の懇話会である。提言をまとめる過程のなかで、民主主義の実践が行われる。妥協や協力である。シチズンシップを養う機会が市民参加の懇話会でもある。

 法は、そもそも政策実現のために存在するが、「それぞれがその得意分野で、存分に力を発揮して、次世代に続く社会をつくっていく」というのが政策目的だと認識できていたら、附属機関設置条例を作る場合、この政策目的を実現するためという目標を頭に入れて、制度設計できる。

 他方、「裁判を避ける、市民からの批判を受けない、あるいは文理に忠実な業務を行う」のが、政策目的ならば、一覧表を作って、これで訴えられることはないという発想にとどまる。

 要するに、自治体職員は何のために仕事をしているのかという基本が、問われているということだと思う。とりわけ条例づくりをする職員については、(なまじ法的知識がある分)法の持つこうしたダイナミックさを見失っているように、昨今、感じることがある。

 むろん、守りに入る理由もわかる。本来、民主主義の実践場であるはずの市民参加の懇話会であるが、市民自身が従来の要求、要望型から、脱却できていないという現実もある。しかし、だからこそ、それを乗り越える知恵を絞るのである。無作為抽出やポストイットなどもその一つだし、座長の心がけや会議の運営についても、たくさんの工夫がある。この難局を乗り切るには、それぞれが得意分野を発揮するしかないと覚悟が決まれば、こうした課題を乗り越える知恵はいくらでも出てくる。

 指定都市で見ると、約3分の1の自治体で、一覧表に加えて、臨時の附属機関を認める条例を作っている。私は、これが十分の規定だとは思わないが、少なくとも、一覧表だけでは、自治が進まないという問題意識があって、附属機関条例主義との折り合いを模索しようという試みであることは、高く評価する。

 「仕事を見て、知恵を絞る」という仕事の基本を大切にして、自治体職員の人たちは、大いに頑張ってもらいたいと思う。
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