暇な弁護士の暇つぶし日記

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相続解説

2015-01-29 18:13:35 | 法律
遺言書の作成
1.遺言とは
  遺言とは,人の最終の意思表示について,その死後に効力を生じさせる制度を言います。
2.遺言事項
  遺言の内容は自由である。ただし,法律的に意味を持つのは,法律に定められた事項に関する遺言のみである。
2.遺言を残す意味
 ⑴ 相続人の中に相続させたくない者がいる。
   子どもや兄弟の中に自分の財産を相続させたくない者がいる場合など。
⑵ 相続人の中に特に多くの財産を相続させたい者がいる。
   妻又は夫に多くの財産を残したい場合など。
 ⑶ 相続人以外の者に財産をあげたい。
   子どもではなく兄弟やお世話になった人に財産を譲りたいなど。
 ⑷ 財産を寄付したい。
   相続人がいない場合や,将来相続人となる者が高齢で自分が死ぬ頃には相続人はいないことが予想される場合など。
 ⑸ 誰にどの財産をあげるかを決めておきたい。
   配偶者に今の土地・建物をあげたい。何もしなければ,法定相続分に従い,相続されることになる。
 ⑹ 贈与との違い
贈与だと,生前の生活費との調整が必要であるが,遺言であれば,死亡時に残っている財産が移転するから,生前に生活費の心配をする必要がない。
 ⑺ 税金対策
   財産の処分は贈与でもできるが,相続税は贈与税も安いため,遺言により財産を移転させる方が税金は安くすむ。
3.遺言書の種類
  遺言には,自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言があります。
  年間8万件程度の遺言制度の利用があり,そのうち1万件強が自筆証書遺言で,7万件程度が公正証書遺言となっています。
  なお,遺言書を作成する際には,法定相続分とは異なる定めをすることができますが,遺留分については理解しておく必要があります。



4.自筆証書遺言
 ⑴ 自筆証書遺言とは
   遺言者が,自分で遺言内容を自書して作成する遺言書です。
 ⑵ 自筆証書遺言の良い点・悪い点
  ア 自筆証書遺言の良い点
   ・自分1人で作成することができる。
   ・遺言の存在及び内容を秘密にすることができる。
   ・費用がかからない。
  イ 自筆証書遺言の悪い点
   ・方式不備,内容不備により,無効になったり,遺言者の想定したとおりの効果を生じさせることができないおそれがある。
    →作成した遺言を弁護士に確認してもらうことで,このリスクは回避できます。
   ・遺言書が発見されない可能性や,発見されても破棄・隠匿される危険がある。
    →銀行等の貸金庫に預けるなどの手段によりこの危険を一定程度回避できます。
   ・代筆ができない。
   ・遺言書の保管者が検認の手続をとらなければならない。
 ⑺ 自筆証書遺言の作成にあたって
   自筆証書遺言には,破棄・隠匿や偽造・変造のおそれがあり,方式不備により無効となるおそれがある上,遺言者が死亡した際に遺言書の保管者は検認という手続きを取らなければならないという手間もかかるため,遺言書を作成する場合には,自筆証書遺言ではなく,後述する公正証書遺言を作成するべきです。
   それでも,自筆証書遺言を作成したい場合は,自分の希望に沿った結果が生ずるようにするために,遺言書をどのような内容にすればよいかなどについて,弁護士に確認すべきです。
 ⑵ 自筆証書遺言作成の流れ
  ア 法律相談
    どのような内容の遺言を作成したいかをお聞きします。相続人や財産などの事情も聞かせていただきます。
    具体的には,以下の事項について,予め考えておくと良いと思います。
   ①遺言者の有する財産は何があるか。
   ②将来相続人となる者は誰か。
 ③誰にどの財産を相続させるか(割合でも可。相続人以外に対しては遺贈)。
   ④誰を遺言執行者として指定するか。
    遺言執行者は,遺言者死亡後に遺言の内容を実現する者であり,遺言者が信頼できる人を予め探しておく必要があります。
    遺言作成に立ち会う証人,相続人,受遺者も遺言執行者として指定することができます。
   ⑤誰を祭祀主催者として指定するか。
    祭祀主催者は,祭祀財産を引き継ぐ者を言います。
    祭祀財産とは,系譜(家系図など),祭具(位牌,仏壇,仏具など),墳墓(墓石,墓碑など)を言います。
  イ 委任契約の締結
    弁護士との間で遺言作成の委任契約書を作成し,委任契約を締結することになります。
  ウ 調査
    遺言書作成の前提として,相続人や財産の状況について調査します。
    具体的には,戸籍謄本などの書類を用意していただくことになります。
  エ 遺言書案の作成
    上記で調査した内容及び依頼者からお聞きした希望を踏まえて,遺言書案を作成します。
  オ 自筆証書遺言の作成
    自筆証書遺言は全文を自書する必要があるので,ご本人に遺言書を書いていただきます。
    なお,遺言書はご本人に保管していただくことになります。
 ⑵ 遺言書に書くべきこと(遺言の内容)
   一般的には,誰にどのような財産を相続させるか(相続人以外に財産を与える場合は遺贈),遺言執行者の指定,祭祀主催者の指定について書くことが多いです。
   遺言では,相続人の法定相続分とは異なる定めをすることができますが,遺留分を侵害する部分については実現されない可能性があり,遺留分については理解しておく必要があります。
   なお,遺言によってできることには制限があり,以下の事項については,遺言によって定めることができます。
   ・子の認知
   ・未成年後見人・後見監督人の指定
   ・法定相続人の廃除・廃除の取消し
   ・相続分の指定・指定の委託
   ・特別受益の持ち戻しの免除
   ・遺産分割方法の指定・指定の委託
・遺産分割の禁止
・遺産分割における共同相続人間の担保責任に関する別段の定め
・遺贈
・遺言者の指定・指定の委託
・遺留分減殺方法の指定
・生命保険金の受取人の指定
 ⑵ 自筆証書遺言の方式
   民法で定められた一定の方式を満たさない遺言は無効となります。
   遺言者の死亡後に遺言書が発見された場合,遺言書を書いたとされる本人はすでになくなっているため,その遺言が本人の意思で書かれたものかを本人に確認することはできません。もっとも,遺言書が本人の自筆で書かれていれば,遺言に書かれた筆跡から本人が書いたものであるか否か判断することができます。そこで,遺言書は本人の筆跡がわかるように自書で書くこととされ,これを満たさない場合には,遺言は無効とされています。具体的には,以下の方式を満たさない自筆証書遺言は無効となります。
  ア 遺言書全文の自書
    自筆証書遺言の場合は,遺言者が,遺言書の全文を自書する必要があります。
    これは,筆跡から本人が作成したものであることを確認するためです。
    ですので,筆跡がわからないパソコンなどで作成したものは自書とは言えません。
    また,字がうまい人に書いてもらうのも自書にあたりません。
  イ 日付の自書
    自筆証書遺言には日付の記載も必要です。
    これは,遺言書が複数存在する場合に,その優先関係を判断するためです。
    吉日では,特定として不十分なので,具体的な日付を書く必要があります。
    時間まで書く必要はありません。
  ウ 氏名の自書
  エ 押印
    認め印,指印でもよいですが,実印が望ましいです。
 ⑶ 方式違反以外の遺言の無効原因
 ア 遺言能力を欠く場合
   遺言者が,遺言作成時点で,遺言内容及びその法的効果を理解できるだけの能力を有していなければ,遺言は無効となります。
  イ 共同遺言の禁止
    同一の遺言証書で2人以上の者が遺言をすることは禁止されています。これに違反すると,遺言は無効になります。
  ウ 後見人を利する被後見人の遺言
  エ 錯誤
  オ 公序良俗違反
 ⑷ 遺言の取消原因
  ア 詐欺又は強迫
    遺言が,詐欺又は強迫によって書かされたものである場合には,相続人が遺言を取り消すことができます。
    遺言に関する紛争では,遺言は無理矢理書かされたものだと主張されることが多いですが,詐欺又は強迫があったことを立証することは困難であることが多いです。
    詐欺又は強迫により遺言を書かせた者が,相続人又は受遺者であった場合,相続欠格に当たり,その者は,相続人又は受遺者としての資格を失います。
  ウ 負担付遺贈の場合
 ⑷ 自筆証書遺言の加除訂正
   遺言書を書き損じてしまった場合などの訂正方法にも決まりがあります。
   遺言書に加除・訂正を行うには,遺言者がその場所を指示し,これを変更した旨を附記して,特にこれに署名し,変更場所に印を押さなければ効力がありません。
いずれにしろ書き間違えた場合には,別の紙に最初から書き直すべきです。
⑸ 遺言の撤回
  遺言者は遺言を自由に撤回することができます。遺言の撤回方法は以下のようなものがあります。
 ア 遺言書の破棄
   自筆証書遺言の場合は,遺言書を破棄すれば遺言を撤回することができます。
 イ 遺言を撤回する旨の遺言の作成
    遺言を撤回するには,遺言の方式に従って,遺言をする必要があります。
    前の遺言を撤回するという内容の遺言を,方式を守って作成すれば,前の遺言を撤回することができます。
  ウ 前の遺言と異なる内容の遺言の作成
    前の遺言と抵触する内容の遺言を作成すると,抵触する限度で前の遺言が撤回されます。
 ⑹ 遺言を撤回したとみなされる行為
   遺言作成後,遺言の内容と抵触する財産処分行為を行うと,遺言を撤回したものとみなされます。
  

5.公正証書遺言
 ⑴ 公正証書遺言とは
   遺言者が公証人の面前で遺言の内容を口授し,それに基づいて,公証人が遺言者の真意を正確に文章にまとめて作成する遺言です。
   公正証書遺言を作成するには,公証役場に行って,公証人に遺言書を作成してもらう必要があります。
 ⑵ 公正証書遺言の良い点・悪い点
  ア 公正証書遺言の良い点
   ・公証人が作成するため,方式不備,内容不備により無効となる危険が小さい。
   ・原本が公証人役場で保存されるため,偽造,変造,滅失のおそれがない。
   ・検認の手続きが必要ない。
・遺言検索システムを利用することができる。
  イ 公正証書遺言の悪い点
   ・公証役場へ行き,公証人と打合せをする必要があるため,手間がかかる。
   ・公証人に作成してもらうため,費用がかかる。
   ・証人が必要である。
   ・証人から秘密が漏れる危険性がある。
 ⑶ 公正証書遺言作成の流れ
  ア 法律相談
    どのような内容の遺言を作成したいかをお聞きします。相続人や財産などの事情も聞かせていただきます。
    具体的には,以下の事項について,予め考えておいてください。
   ①遺言者の有する財産は何があるか。
   ②将来相続人となる者は誰か。
 ③誰にどの財産を相続させるか(割合でも可。相続人以外に対しては遺贈)。
   ④誰を遺言執行者として指定するか。
    遺言執行者は,遺言者死亡後に遺言の内容を実現する者であり,遺言者が信頼できる人を予め探しておく必要があります。
    遺言作成に立ち会う証人,相続人,受遺者も遺言執行者として指定することができます。
   ⑤誰を祭祀主催者として指定するか。
    祭祀主催者は,祭祀財産を引き継ぐ者を言います。
    祭祀財産とは,系譜(家系図など),祭具(位牌,仏壇,仏具など),墳墓(墓石,墓碑など)を言います。
   ⑥証人になってもらえそうな人を2名用意しておく。
    公正証書遺言の作成には,2名の証人の立ち会いが必要ですので,予め証人になってくれそうな人を検討しておく必要があります。ただし,ⓐ未成年者,ⓑ推定相続人,受遺者,ⓒⓑの配偶者及び直系血族,ⓓ公証人の配偶者,4親等内の親族,書記及び使用人は,証人となることはできません。
  イ 委任契約の締結
    弁護士との間で遺言作成の委任契約書を作成し,委任契約を締結することになります。
  ウ 調査
    遺言書作成の前提として,相続人や財産の状況について調査します。
    具体的には,戸籍謄本で推定相続人を確認したり,不動産を遺贈したり,特定の相続人に相続させたりする場合には,登記事項証明書,固定資産評価証明書を用意していただくことになります。
  エ 遺言書案の作成
    依頼者からお聞きした内容をもとに遺言書案を作成します。
  オ 公証役場への連絡
    公証人に遺言書の作成を依頼し,遺言書案を提出します。
  カ 必要書類の収集・提出
    以下のような書類を収集する必要があります。
    ①遺言者本人の印鑑登録証明書
    ②戸籍謄本(相続させる遺言の場合。遺言者と推定相続人の続柄がわかるもの)
    ③受遺者の住民票(遺贈がある場合。本籍記載のあるもの)
    ④登記事項証明書,固定資産評価証明書(不動産がある場合)
    ⑤通帳(預貯金がある場合)
  キ 公証人による遺言書案の作成
    公証人が,遺言書案を作成するので,内容を検討します。
  ク 公正証書遺言の作成
    公正証書遺言は,公証役場で公証人によって作成されます。
    遺言者は実印を,証人は認印を持参する必要があります。
    証人は,運転免許書等の身分証明書の提示が求められます。
    公証役場において,公証人が遺言書を読み上げ,問題がなければ,公証人,遺言者本人,証人が署名,押印して公正証書遺言が作成されます。
 ⑷ 遺言の撤回
  遺言者は遺言を自由に撤回することができます。遺言の撤回方法は以下のようなものがあります。
 ア 遺言を撤回する旨の遺言の作成
    遺言を撤回するには,遺言の方式に従って,遺言をする必要があります。
    前の遺言を撤回するという内容の遺言を,方式を守って作成すれば,前の遺言を撤回することができます。
  イ 前の遺言と異なる内容の遺言の作成
    前の遺言と抵触する内容の遺言を作成すると,抵触する限度で前の遺言が撤回されます。
 ⑹ 遺言を撤回したとみなされる行為
   遺言作成後,遺言の内容と抵触する財産処分行為を行うと,遺言を撤回したものとみなされることがあります。



6.秘密証書遺言
 ⑴ 秘密証書遺言とは
   秘密証書遺言とは,遺言者が遺言を作成して封じ,その状態で公証人に公証される方式の遺言を言います。
 ⑵ 秘密証書遺言の良い点・悪い点
  ア 秘密証書遺言の良い点
   ・1人で作成することができる。
   ・代筆を頼むこともできる。
   ・遺言の内容を秘密にできる。
   ・偽造・変造の危険がない。
   ・遺言検索システムを利用することができる(但し,保管場所は不明)。
  イ 秘密証書遺言の悪い点
   ・方式不備,内容不備により遺言が無効となる可能性がある。
   ・作成に手間と費用がかかる。
   ・原本が公証人役場に保管されないので,遺言書の紛失,隠匿のおそれがある。
 ⑶ 秘密証書遺言作成の流れ
 ア 法律相談
    どのような内容の遺言を作成したいかをお聞きします。相続人や財産などの事情も聞かせていただきます。
    具体的には,以下の事項について,予め考えておくと良いと思います。
   ①遺言者の有する財産は何があるか。
   ②将来相続人となる者は誰か。
 ③誰にどの財産を相続させるか(割合でも可。相続人以外に対しては遺贈)。
   ④誰を遺言執行者として指定するか。
    遺言執行者は,遺言者死亡後に遺言の内容を実現する者であり,遺言者が信頼できる人を予め探しておく必要があります。
    遺言作成に立ち会う証人,相続人,受遺者も遺言執行者として指定することができます。
   ⑤誰を祭祀主催者として指定するか。
    祭祀主催者は,祭祀財産を引き継ぐ者を言います。
    祭祀財産とは,系譜(家系図など),祭具(位牌,仏壇,仏具など),墳墓(墓石,墓碑など)を言います。
  イ 委任契約の締結
    弁護士との間で遺言作成の委任契約書を作成し,委任契約を締結することになります。
  ウ 調査
    遺言書作成の前提として,相続人や財産の状況について調査します。
    具体的には,戸籍謄本などの書類を用意していただくことになります。
  エ 遺言書案の作成
    上記で調査した内容及び依頼者からお聞きした希望を踏まえて,遺言書案を作成します。

相続
1.相続とは
  相続とは,一般的には,死者の財産をその子孫が引き継ぐことと理解されていますが,正確には,自然人の法律上の地位を,その者の死後に,別の者に包括的に承継させることを言います。
  法律用語では,死者を被相続人といい,死者の承継人を相続人と言います。
2.相続の流れ
 ⑴ 被相続人の死亡
⑵ 死亡届の提出(死亡から7日以内)
⑶ 遺言書の有無の確認
  遺言書が公正証書遺言でなければ,家庭裁判所で検認手続をとる必要があります。
⑷ 相続人の調査・確定
  被相続人の,出生から死亡までの戸籍謄本を調査することで,相続人を確定することができます。
⑸ 相続財産・債務の調査
  預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく,借金などのマイナスの財産も相続の対象となります。ですので,債務も含めて,被相続人の財産を調査する必要があります。具体的には,現金,預貯金,不動産,株式,社債,貸金債権,借金,ローン,保証債務などについて,調査する必要があります。この調査の結果をもとに,相続放棄をするか否かを検討します。
⑹ 相続放棄・限定承認(被相続人の死亡を知った時から3か月以内)
  相続財産の調査に時間を要する特段の事情がある場合などには,家庭裁判所に申し出ることで,3か月の期間を伸張できる場合があります。
⑺ 準確定申告(被相続人の死亡を知った時から4か月以内)
 ア 所得税の準確定申告
 イ 相続財産・債務の調査
 ウ 相続財産の評価
 エ 相続財産目録の作成
⑻ 遺産分割協議
 ア 相続人全員の実印・印鑑証明書が必要
 イ 納税の方法,延納・物納の検討
⑼ 相続税の申告・納付(被相続人の死亡を知った時から10か月以内)
 ア 被相続人の死亡時の住所地の税務署に申告・納税
 イ 遺産の名義変更手続
 オ 不動産の相続登記
⑽ 相続財産の名義変更手続など
3.具体的な対応
⑴ 遺言書がある場合
  ア 遺産分割協議を行うことについて相続人全員の同意がある場合
    遺産分割協議を行います。
イ 「相続させる」旨の遺言である場合
  「相続させる」旨の遺言とは,
ウ 相続分を指定する遺言である場合
エ 遺産分割方法を指定する遺言である場合
オ 遺言の有効性を争う場合
⑵ 遺言書がない場合
   遺産分割協議を行います。
4.遺産分割の流れ
 ⑴ 遺産分割とは
   遺産分割とは,相続共有を解消し個々の相続財産を各相続人に分配してその単独所有とすることを言います。
 ⑵ 遺産分割協議の流れ
  ア 相続人の範囲の確定
  イ 遺産の範囲の確定
  ウ 遺産の評価
  エ 具体的相続分の決定
   ㋐法定相続分
   ㋑特別受益
   ㋒寄与分
  オ 遺産分割方法の決定
  カ 遺産分割協議の成立
 ⑶ 審判分割
5.遺言無効確認請求
6.遺留分減殺請求
7.遺産分割協議
 ⑴ 遺産分割とは
   相続人が複数いる場合,相続財産は相続人の共有になります。
   遺産分割とは,相続共有を解消し個々の相続財産を各相続人に分配してその単独所有とすることを言います。
 ⑵ 遺産分割の時期
   遺産分割をする時期に制限はなく,いつでもできます。
   いつでもよい。相続人の請求・申出等による。
 ⑶ 遺産分割の対象となる財産
  ア 原則
    遺産分割時の相続財産である。
    相続財産には以下のものが含まれる。
 ⑷ 祭祀承継
   墓地など



3.相続人
  相続人となる者は法律によって定められており,法律によって相続人として定められている者を推定相続人(法定相続人)と言います。
  具体的には,以下の者が推定相続人となります。
 ⑴ 配偶者
   配偶者は常に相続人となります。
   なお,相続人となるためには法律婚をする必要があり,内縁の配偶者には相続は認められません(内縁の配偶者については,特別縁故者制度参照)。
 ⑵ 子
   実子だけでなく,養子も相続人となります。また,被相続人の死亡時に胎児であっても,後に生きて生まれてくれば,相続人となります。
   なお,特別養子は実親を相続することができません。
 ⑶ 親
   被相続人に子がいない場合には,被相続人の親が相続人となります。
 ⑷ 兄弟姉妹
   被相続人に子がなく,両親もいない場合には,被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。
4.代襲相続
⑴ 代襲相続とは
  代襲相続とは,被相続人の死亡前に,相続人となるべき子や兄弟姉妹が死亡などして相続権を失った場合に,その者に代わってその者の子が相続することを言います。
 ⑵ 代襲原因
   被相続人の死亡前に,相続人となるべき者が,死亡,相続欠格,廃除いずれかにより,相続権を失った場合に,代襲相続が生じます。
 ⑶ 代襲相続人
  ア 孫
    被相続人の子が相続権を失った場合は,被相続人の孫が代襲相続人となります。
  イ 甥・姪
    被相続人の兄弟姉妹が相続権を失った場合は,被相続人の甥・姪が代襲相続人となります。
  ウ 代襲相続人の相続分
    代襲相続人は,もともと相続人が得るはずだった相続分を取得します。
    代襲相続人が複数いる場合は,それらの者の相続分は平等になります。
 ⑷ 再代襲
   被相続人の死亡前に,被相続人の子及び被相続人の孫が相続権を失った場合には,被相続人の曾孫が代襲相続人となります。これを再代襲と言います。
   被相続人の曾孫には代襲相続が認められますが,被相続人の甥・姪の子には代襲相続は認められません。
5.相続分
 ⑴ 相続分とは
   法律によって定められた,相続人の相続割合を法定相続分と言います。
 ⑵ 配偶者と子が相続人になる場合
  ア 原則
    配偶者…1/2
    子…1/2
  イ 子が複数いる場合
   ㋐ 非嫡出子がいない場合(嫡出子,非嫡出子の意義はこちら)
     子の相続分は均等となる。
   ㋑ 非嫡出子がいる場合
    ・被相続人が平成25年9月3日以前に死亡した場合
     非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の1/2となる。
    ・被相続人が平成25年9月4日以降に死亡した場合
     嫡出子,非嫡出子にかかわらず,子の相続分は均等となる。
 ⑶ 配偶者と親が相続人になる場合
   配偶者…2/3
   親…1/3
 ⑷ 配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合
   配偶者…3/4
   兄弟姉妹…1/4
   なお,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹は,父母双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の1/2となる。
6.具体的相続分の算定(法定相続分の修正)
 ⑴ 特別受益
  ア 特別受益とは
    相続人が複数いる場合に,生前に被相続人から多額の贈与を受けている相続人がいる場合があります。このような場合に,贈与を受けた相続人が他の相続人と同じ相続分があるとするのは不公平であると言えます。
    そこで,共同相続人の中に,特別な受益を受けた者がいる場合は,特別受益を相続財産に加算して具体的相続分を計算します。 これを特別受益の持ち戻しと言います。
  イ 特別受益の種類
   ㋐遺贈
    贈与と異なり,遺贈はその目的にはかかわりなく特別受益に当たります。
    相続人に対するものに限られます。
   ㋑婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としての生前贈与
    贈与については,目的について一応の制限があります。
    婚姻のための贈与には,持参金や支度金が当たります。
    生計の資本としての贈与とは,生計の基礎として役立つ一切の贈与を含み,扶養義務の範囲を超えるような高額の贈与はこれに当たります。具体的には,独立資金や営業資金があります。学費,債務の肩代わり,保険金,死亡退職金については,生計の資本としての贈与に当たる場合があります。
    なお,いずれも相続人に対するものに限られます。
  ウ 特別受益の評価
    相続開始時の価額を基準とします。贈与などを受けた当時の価額ではありません。
エ 持ち戻しの免除
    特別受益がある場合でも,被相続人が特別受益の持ち戻しを免除することができます。
    これは遺言によってすることもできます。
 ⑵ 寄与分
  ア 寄与分とは
    相続人が複数いる場合に,相続人の中に,被相続人の財産形成について貢献した相続人がいる場合には,財産形成に貢献した相続人に対して寄与分が与えられます。
    なお,被相続人の生前に寄与分を請求することはできません。
  イ 寄与者
    相続人に限られます。
    例えば,妻Aが,夫Bの父Cを介護したとしても,妻Aは義父Cの相続人ではないので,寄与分は認められません。
    妻Aの寄与を夫Bの寄与と同様なものと考えられないか
  ウ 寄与の態様
   ㋐被相続人の事業に対する労務の提供,財産上の給付
    被相続人が農業を営んでいる場合や自営で中小企業を経営している場合に,人を雇えば人件費がかかります。このとき,相続人が無償で家業に従事すれば人件費の支出を抑えることができ,財産の維持形成に貢献していると言えるので,寄与分が認められます。
   ㋑被相続人の療養看護
    被相続人が疾病により療養看護を必要とする状態で,ヘルパーなどを利用すると,費用がかかります。このとき,相続人が無償で療養看護を行うことで,ヘルパーなどの費用の支出を防げば,財産の維持形成に貢献したと言え,寄与分が認められます。
   ㋒その他
  エ 寄与の程度
    親族間には一定の扶助義務があるので,親族に対して看護等をしても通常はその義務の履行の範囲内として当然行わなければならないものと評価されます。そこで,寄与分が認められるためには,寄与が,扶助義務を負っていることにより通常期待されている範囲を超えた特別の寄与である必要があります。
  オ 寄与分の決定
    寄与分は相続人間の協議で決定されますが,話し合いがつかなければ,調停を申し立てることになります。調停が不成立となった場合は,家庭裁判所が審判で決定します。

7.具体的相続分の計算方法


8.相続放棄・限定承認
   相続する際は,不動産や預貯金といった被相続人のプラスの財産だけでなく,借金などマイナスの財産を含めてすべての財産を承継することになります。しかし,被相続人が莫大な負債を抱えていることもあり,常に被相続人の全ての財産を承継しなければならないとすると,相続人に酷な場合があります。
   そこで,法律上,相続を放棄することにより被相続人の財産を承継しないことや,プラス財産の限度で負債を負担する限定承認が認められています。
 ⑴ 相続放棄
  ア 相続放棄とは
    相続放棄とは,被相続人の権利義務を一切承継しない旨の意思表示を言います。
    相続放棄をすると,被相続人の債務を承継しなくて良い代わりに,被相続人の財産も相続できなくなります。
    相続放棄をした者は,はじめから相続人ではなかったものとして扱われます。
  イ どのような場合に相続放棄をするか
  ウ 相続放棄の手続
    相続放棄をするには,被相続人の死亡を知った時から3か月以内(熟慮期間)に,家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。
    3ヶ月以内に相続放棄又は限定承認をしなかった場合は,単純承認したものとみなされ,プラスマイナス両方の財産を相続分に応じて相続することになります。
    相続放棄は,他の相続人と足並みを揃える必要はなく,単独でできます。
  エ 注意点
   ・相続放棄をする前に,相続財産の全部又は一部を処分した場合は,単純承認したものとみなされ,相続放棄はできなくなります。処分の典型例は売却することです。
   ・相続放棄後に,相続財産を隠匿したり,費消したり,悪意で財産目録に記載しないという行為をすると,単純承認したものとみなされます。
   ・一度相続放棄をすると,熟慮期間内であっても,撤回することはできません。
   ・相続放棄者の子は代襲相続できません。
 ⑵ 限定承認とは
  ア 限定承認とは
    限定承認とは,相続によって得た財産の限度でのみ,被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して行う承認を言います。
    限定承認をすると,プラス財産からマイナス財産を引いて,余りがあれば相続できることになります。
    もっとも,限定承認は,相続人全員で申し立てをしなければならない上,財産目録を作成しなければならないなど手続きが煩雑であるため,あまり利用されていません。
  イ 限定承認の手続
    限定承認をするには,被相続人の死亡を知った時から3か月以内に,家庭裁判所に限定承認の申述をする必要があります。
    3ヶ月以内に相続放棄又は限定承認をしなかった場合は,単純承認したものとみなされ,プラスマイナス両方の財産を相続分に応じて相続することになります。
    限定承認は,相続人全員で申し立てなければなりません。
    また,財産目録の作成も必要です。
  ウ 注意点
   ・限定承認をする前に,相続財産を処分した場合は,単純承認したものとみなされ,限定承認はできなくなります。
   ・限定承認後に,相続財産を隠匿したり,費消したり,悪意で財産目録に記載しないとうい行為をすると,単純承認したものとみなされます。
 ⑶ 単純承認
  ア 単純承認とは
    単純承認とは,被相続人の権利義務を無限に承継する承認を言います。
  イ 単純承認とみなされる場合
   ㋐相続放棄・限定承認前に相続財産を処分した場合。
   ㋑被相続人の死亡を知った時から3か月以内に相続放棄・限定承認をしなかった場合。
㋒相続放棄後・限定承認後に,相続財産の隠匿・費消,又は悪意で相続財産を目録に記載しなかった場合。
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