暇な弁護士の暇つぶし日記

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日本初の違憲判決(尊属殺重罰規定違憲判決)

2016-05-03 22:42:07 | 法律
今日は憲法記念日なので、弁護士らしく憲法について書きたい。

ニュースだと、改憲の話、とりわけ9条関係の話題ばかりだが、これは政治的な話なので、標記のとおり、日本初の違憲判決に書く。

憲法81条には、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と規定している。

なお、裁判例によれば、下級裁判所も違憲立法審査権を有する。

さて、尊属殺重罰規定違憲判決は、最高裁判所が初めて、違憲立法審査権を行使して法律を違法無効だと判断した判決である。

事案は、悲惨なものだ。栃木県矢板市で起こった殺人事件である。

被告人は女性であるが、14歳のときに実父に姦淫され、以後10年以上夫婦同様の生活を強いられ、5人の子を産まされた。29歳になったときに職場で知り合った男性と結婚したいと思うようになったが、そのことを知った実父は、被告人を約10日間軟禁した。被告人は、その状況に耐え切れず、就寝中の実父を絞殺し、自首した。

当時の刑法200条(尊属殺の規定)は、「自己又は配偶者の直系尊属を殺したる者は死刑又は無期懲役に処す」と規定しており、通常の殺人罪よりも、尊属(親、祖父など)を殺した場合には、特に重く処罰する規定であった。

同条をそのまま適用すれば、被告人は死刑か無期懲役にしかできない。しかし、被告人の受けた仕打ちからすると、被告人に酷である。

1審判決は、刑法200条(尊属殺の規定)を、憲法14条1項(法の下の平等)に反するとして、刑法199条(通常の殺人罪の規定)を適用し、過剰防衛に当たり、また、心神耗弱であったとして、刑を免除した。

これに対して、2審判決は、1審判決を破棄し、刑法200条(尊属殺の規定)を合憲とし、心神耗弱による減軽を認めて、懲役3年6月の実刑判決を下した。減軽は法律上の減軽と酌量減軽の2回しかできない(刑法67条)。2回減軽しても、無期懲役→(1回目の減軽)→7年以上の有期懲役→(2回目の減軽)→懲役3年6月以上となり(刑法68条)、下限は懲役3年6月である。2審判決は下限の判決を下した。執行猶予にできるのは、懲役3年以下の判決を言い渡す場合に限られるから、この場合は実刑判決になってしまう。

最高裁は、2審判決を破棄自判し、懲役2年6月執行猶予3年の判決を下した。

最高裁は、刑法200条(尊属殺の規定)を憲法14条1項(法の下の平等)に反するとして違憲無効と判断し、刑法199条(通常の殺人罪の規定)を適用した。

最高裁は、刑法200条が憲法14条1項に違反するから否かを検討するに当たり、目的と手段に着目して判断を下した。

刑法200条が、尊属殺をそのほかの殺人と区別して、強い社会的非難に値するとして、尊属(親や祖父母など)を殺すことを重く処罰するという、目的自体は不合理とは言えないが、尊属殺に死刑と無期懲役しかないことは刑罰が通常の殺人の場合と比較して重過ぎることから、目的達成のための手段が不合理であると判断した。

ちなみに、最高裁が、刑法200条を違憲無効と判断しても、これによって刑法200条が削除されるわけではない。違憲判決の効力は当該事案との関係でしか生じないためである。

とはいえ、最高裁が違憲判決を出せば、検察官は同条に基づいて起訴はしないし、国会が法改正により同条文を削除することになる。

なお、判決が下されたのは1973年であるが、刑法200条が削除されたのは1995年のことである。

















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