帝都南東門界隈。
帝都の中でも一番低い場所にあるこの地区は水はけが悪い。
そのせいで貧民が集中し、はやい話貧民街となっていた。
外見は人間が主導権を握る帝国においてここでは学都ロンデルのごとく、
人種、民族、獣人の坩堝と化しており見るものに多様性と活気を感じさせる。
しかしここは貧民街。
ゆえに見た目こそ多様性と活気があるが、
麻薬に殺人、売春を筆頭に暴力と犯罪が日常世界と化した陰性を帯びたものであった。
そんな街の夜。
唯でさえ夜は一層暗くなる街でひと際大きな光が轟音と共に放たれる。
一部の功名心と火事場泥棒根性を発揮したのを除けば、
大半の住民は余計な義侠心でも発揮すれば自分の命が危ないことをよく知っているのでこの異常事態を無視する。
「ベッサーラ家の根拠地が破壊されたか、
ジエイタイと二ホン軍はよほどの凄腕の魔道師を有しているのようだ」
そしてそのどちらでもない第三者。
ボウロは感心するように事の成り行きを観察していた。
そもそも・・・。
「ベッサーラ家がジエイタイと二ホン軍を襲撃する、とタレコミを入れたのは自分なのだからな」
つまりこの光景はボウロが仕組んだものであった。
イタリカまで一度進軍したがそこから先に進まず実態が掴めないジエイタイと二ホン軍の実力を測る。
そのためには何らかの形で騒動を巻き起こす事が必要であった、しかも今後の事を考えて帝国を巻き込まずに。
手始めにジエイタイと二ホン軍がこの悪所に拠点を構えてから始めだした、
お人好しな行動を「噂」という形で密かに宣伝し悪所の顔役達に記憶させる。
都合の良いことにジエイタイと二ホン軍は金をばら撒く割には顔役達に上納金を一切収める気はなかったので効果はすぐに現れた。
結果は顔役のベッサーラ家の大敗北。
アルヌスに籠っている異世界の軍隊が有する予想以上の実力を垣間見れるなど目的を完全に達成した。
「ボウロ」
と、ここで暗闇からぬっと人影が現れる。
頭巾をすっぽりかぶっているのでどんな人物か判別できないが、
口調と音声はボウロがよく知る人物のもの、ハリョの戦士ウクシであった。
「ベッサーラの人間が逃げている。
念のために聞いておくが・・・好きにしていいよな?」
好きにしてよい。
という意味に具体的な内容を尋ねるほど無粋な真似はしない。
特にこの暴力と貧困が同居している帝都南東門界隈では。
「当然だ。
身に着けている金品に女は全てハリョの戦士たちの物だ」
「・・・分かった。
ところでいいのか?
帝都にジエイタイと二ホン軍が拠点を作っている。
この事実をテューレを通じてあの皇太子に通報できなくもないが」
ウクシが疑問をぶつける。
アルヌスから出てこないせいで、
帝国と奇妙な休戦状態ともいえる中でよりにもよって帝都の中に拠点を作られた。
この事実を無視するのは帝国に与するものとして一応どうかという意味を含ませて問う。
「必要ないな。
何せその方が都合がよい」
ボウロが断言する。
「我らの目的は帝国の暗部に食い込み浸透、蚕食すること。
それには帝国は強い状態よりもむしろ弱い方が大変都合がよい――――混乱にこそ我らが台頭しうるのだ」
かつて革命が起こった国はその前段階にひどい混乱、社会不安に見舞われていた。
フランス革命は凶作と重税による閉塞感と社会不安、ロシア革命では終わらぬ戦争による厭戦感からの社会の混乱。
そしてその崩れた秩序から誕生した皇帝ナポレオンにレーニン率いるソヴィエトロシア。
両者は共に秩序が崩れたからこそ台頭しえた。
無論、ボウロにそうした地球の歴史知識はないが、
これまで積み重ねた経験と知識から地球と同じ結論に至り、その歴史的展開を狙っていた。
「それに帝国が弱ることはテューレ自身も望んでいる。
つまり誰も困る事などないわけだ、帝国自身を除けば」
そう結論付けて嘲笑する。
「なるほど!
貴様にはこき使われているから、
文句の一つ二つを言おうと思ったが久々に良い話が聞けた!」
ボウロの回答にウシクが大笑いする。
人間至上主義的な政策を掲げる帝国が弱ることは、
様々な種族が混じっているがゆえに「半端者」扱いをされたハリョからすれば痛快この上ない。
「今晩は気分が良い!
この高揚した気分を発散しに、
少し早いがベッサーラの人間を殺しに行くとしよう!!」
言い終わるよりも早くウシクは姿を瞬時に消した。
「・・・行ったか?
ふん、戦士とやらは血の気が多い」
しばらく人気がなくなったのを確認してからボウロが呟く。
先ほど帝国を嘲笑したのと似たような響きを含ませている。
「だがハリョは使える、せいぜい俺のために頑張ると良い。
しかし――――さて今後のことだが、生き残るのは俺か?帝国か?それとも門の向こうにある国か?」
いずれにせよ、
帝国、異世界、ハリョ、何もかもを利用してのし上がる。
そんな黒い情念をボウロは内心で吐露した。
帝都の中でも一番低い場所にあるこの地区は水はけが悪い。
そのせいで貧民が集中し、はやい話貧民街となっていた。
外見は人間が主導権を握る帝国においてここでは学都ロンデルのごとく、
人種、民族、獣人の坩堝と化しており見るものに多様性と活気を感じさせる。
しかしここは貧民街。
ゆえに見た目こそ多様性と活気があるが、
麻薬に殺人、売春を筆頭に暴力と犯罪が日常世界と化した陰性を帯びたものであった。
そんな街の夜。
唯でさえ夜は一層暗くなる街でひと際大きな光が轟音と共に放たれる。
一部の功名心と火事場泥棒根性を発揮したのを除けば、
大半の住民は余計な義侠心でも発揮すれば自分の命が危ないことをよく知っているのでこの異常事態を無視する。
「ベッサーラ家の根拠地が破壊されたか、
ジエイタイと二ホン軍はよほどの凄腕の魔道師を有しているのようだ」
そしてそのどちらでもない第三者。
ボウロは感心するように事の成り行きを観察していた。
そもそも・・・。
「ベッサーラ家がジエイタイと二ホン軍を襲撃する、とタレコミを入れたのは自分なのだからな」
つまりこの光景はボウロが仕組んだものであった。
イタリカまで一度進軍したがそこから先に進まず実態が掴めないジエイタイと二ホン軍の実力を測る。
そのためには何らかの形で騒動を巻き起こす事が必要であった、しかも今後の事を考えて帝国を巻き込まずに。
手始めにジエイタイと二ホン軍がこの悪所に拠点を構えてから始めだした、
お人好しな行動を「噂」という形で密かに宣伝し悪所の顔役達に記憶させる。
都合の良いことにジエイタイと二ホン軍は金をばら撒く割には顔役達に上納金を一切収める気はなかったので効果はすぐに現れた。
結果は顔役のベッサーラ家の大敗北。
アルヌスに籠っている異世界の軍隊が有する予想以上の実力を垣間見れるなど目的を完全に達成した。
「ボウロ」
と、ここで暗闇からぬっと人影が現れる。
頭巾をすっぽりかぶっているのでどんな人物か判別できないが、
口調と音声はボウロがよく知る人物のもの、ハリョの戦士ウクシであった。
「ベッサーラの人間が逃げている。
念のために聞いておくが・・・好きにしていいよな?」
好きにしてよい。
という意味に具体的な内容を尋ねるほど無粋な真似はしない。
特にこの暴力と貧困が同居している帝都南東門界隈では。
「当然だ。
身に着けている金品に女は全てハリョの戦士たちの物だ」
「・・・分かった。
ところでいいのか?
帝都にジエイタイと二ホン軍が拠点を作っている。
この事実をテューレを通じてあの皇太子に通報できなくもないが」
ウクシが疑問をぶつける。
アルヌスから出てこないせいで、
帝国と奇妙な休戦状態ともいえる中でよりにもよって帝都の中に拠点を作られた。
この事実を無視するのは帝国に与するものとして一応どうかという意味を含ませて問う。
「必要ないな。
何せその方が都合がよい」
ボウロが断言する。
「我らの目的は帝国の暗部に食い込み浸透、蚕食すること。
それには帝国は強い状態よりもむしろ弱い方が大変都合がよい――――混乱にこそ我らが台頭しうるのだ」
かつて革命が起こった国はその前段階にひどい混乱、社会不安に見舞われていた。
フランス革命は凶作と重税による閉塞感と社会不安、ロシア革命では終わらぬ戦争による厭戦感からの社会の混乱。
そしてその崩れた秩序から誕生した皇帝ナポレオンにレーニン率いるソヴィエトロシア。
両者は共に秩序が崩れたからこそ台頭しえた。
無論、ボウロにそうした地球の歴史知識はないが、
これまで積み重ねた経験と知識から地球と同じ結論に至り、その歴史的展開を狙っていた。
「それに帝国が弱ることはテューレ自身も望んでいる。
つまり誰も困る事などないわけだ、帝国自身を除けば」
そう結論付けて嘲笑する。
「なるほど!
貴様にはこき使われているから、
文句の一つ二つを言おうと思ったが久々に良い話が聞けた!」
ボウロの回答にウシクが大笑いする。
人間至上主義的な政策を掲げる帝国が弱ることは、
様々な種族が混じっているがゆえに「半端者」扱いをされたハリョからすれば痛快この上ない。
「今晩は気分が良い!
この高揚した気分を発散しに、
少し早いがベッサーラの人間を殺しに行くとしよう!!」
言い終わるよりも早くウシクは姿を瞬時に消した。
「・・・行ったか?
ふん、戦士とやらは血の気が多い」
しばらく人気がなくなったのを確認してからボウロが呟く。
先ほど帝国を嘲笑したのと似たような響きを含ませている。
「だがハリョは使える、せいぜい俺のために頑張ると良い。
しかし――――さて今後のことだが、生き残るのは俺か?帝国か?それとも門の向こうにある国か?」
いずれにせよ、
帝国、異世界、ハリョ、何もかもを利用してのし上がる。
そんな黒い情念をボウロは内心で吐露した。