夜間哨戒組が和気あいあいとサウナに入っている最中。
ミーティングルームではウイッチ達が集まってちょっとした騒ぎになっていた。
「おおー!テレビジョンが来るなんてなー!!
生まれて初めて軍隊に来て良かった・・・なーんて、今思ったぜ!」
「テレビ、テレビー!」
設置が完了したテレビの前で踊ったり、
はしゃいだりしているシャーリーとルッキーニ。
「もう、騒がしいですわよ!
まったく、子供じゃあるまいし・・・」
「でも、ペリーヌさん。
あのレント中佐の『月下の撃墜』をすごく楽しみしていて・・・」
「な、なななななな、
なんの事かしら、オホホホホーーーー!?」
ペリーヌが大人ぶるが、その実楽しみにしていた事実をリーネに暴露される。
特に今年7月にて成し遂げたヘルミーナ・ヨハンナ・ジークリンデ・レント中佐の戦果。
『月下の撃墜』シーンは各国で開始されたテレビ放送でも繰り返し流され、世界中で話題となっている。
「しかし、軍も太っ腹だな。
テレビジョンなんてまだまだ高価だろーーーー予算は減らす癖に」
「ええ、そうね。
この前予算を削ると言われた矢先。
あっさりこうした物が渡されると・・・色々思うところがあるわ」
坂本少佐、ミーナが複雑な思いを抱きつつ届いたテレビを見る。
ほんの少し前、わざわざロンドンに呼び出されたと思えば予算削減を宣告されたので無邪気に喜べなかった。
「にひひ、トゥルーデなんて、
『武器弾薬燃料の類は来るのが遅い癖に、
これだから紅茶の葉っぱをキメたブリタニア人は・・・』とブチブチ言ってた、言ってた」
エーリカがバルクホルンの口調を真似しつつ上機嫌に言う。
「でもでも~私、知っているんだ。
トゥルーデは自分がテレビに出ていて、
し・か・も、みんなに見られることを恥ずかしがっているって事を」
そう、なんとバルクホルンは501部隊の隊員で初のテレビデビューを果たしたのだ。
ニュース映画やラジオに出演したことがあるとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい、とは本人の言である。
「ふふ、『前の戦時国債キャンペーンの白バニーといい、何で私なんだ?』と頭を抱えていたわね」
ミーナがころころ笑う。
バルクホルンは鍛えているせいで引き締まる所は引き締まっており、
胸もある方なので割とエロく、傷や筋肉もバニーな姿でも隠せている。
よって白バニーなバルクホルンはエロく、
戦時国債は順調に売れ、プロマイドの売り上げも大変よい状況である。
バルクホルン本人はそれを聞いて死んだ魚のような目をしていたが・・・。
「ところで、ミーナ。
バルクホルンはどんな番組に出るんだ?」
「それがね、美緒。
前と同じく戦時国債の広告なのだけど、
途中で横やりが入ったせいで複数パターンで番組収録して、
結局どれを放送するのかトゥルーデ自身も聞いてないそうよ」
「横やり?また何で・・・?」
坂本少佐が訝しむ。
「・・・ド・ゴール将軍が番組に自分の娘を出すように言いだのよ」
「あの将軍か・・・」
自由ガリア軍最高司令官。
シャルル・ド・ゴール将軍。
我が強く、厚かましいことこの上ない人物であるのは有名である。
そんなお上の政治的要求に巻き込まれたバルクホルンに坂本少佐は同情する。
「しかも事前に決められた役とか、台詞とか、
服装とかに1つ1つ注文を収録当日、しかも将軍自らその場で言い出したのよ」
ミーナが呆れつつ事情を説明する。
「あー・・・うん、
よく耐えたな、バルクホルン・・・」
坂本少佐が嘆息する。
自分だったら途中で激怒していたかもしれないと考える。
特に青春の全てをネウロイと戦っていたので感情を抑えられるかどうか自信がなかった。
「トゥルーデも始め収録を放り出そうと考えたみたいだけど、
将軍の娘、アンヌのためなら・・・と思って頑張ったそうよ」
少し間を置いてからミーナが話を続ける。
「アンヌは私たちとそう変わらない歳だけど、
難病を患っているせいで20歳まで生きれるかどうか、難しいみたいね」
「そんな事情があったのか・・・。
では、ド・ゴール将軍は娘のために?」
「ええ、そうよ。
せめて娘に良い思い出を残したい。
アンヌは私たち「ストライクウィッチーズ」のファンだから」
「ファンなのか!」
坂本少佐が素直に驚く。
「・・・うん、だからトゥルーデは言っていた。
ガリアの将軍ではなく父親の願いなら協力するのもありかな、と」
ミーナがテレビの電源を入れて、
ああでもない、こうでもないと騒いでいる隊員達を眺めつつ呟く。
「・・・バルクホルンは優しくて、頑張り屋さんだなミーナ」
バルクホルンの家族や親族の事情を知る坂本少佐が言う。
「当然よ、トゥルーデですもの。
でも、あの子は内に溜め込む所があるから、守ってあげなきゃ」
ミーナと坂本少佐の視線がぶつかる。
その次に何をすべきか、何をしたいか?
「ああ、そうだな。
守らなきゃな、私たちの家族を」
「うん」
言葉にせずともしたい事は分かっていた。
だからごく自然に互いの手を握り合い、互いの体温を確かめ合った。
「しかし、バルクホルンはどんな演出をするのだろうか?」
「聞いた感じ、
本当に色々演じたみたいね。
よくあるプロカンダニュース風とか他に・・・そういえば、一度だけ。
脚本や将軍の注文ではなく、トゥルーデ自身が考えた演出をしたそうよ」
「バルクホルン自身が?」
今日はバルクホルンに驚かされるばかりだ、と思いつつ坂本少佐が問う。
「まあ、注文が多い将軍に頭が来たから勢いでやってみたそうだけど、
かなり不真面目で意味不明、しかも後から思い出すと黒歴史確定、
恥ずかしくて憤死しかねない代物でテレビ放映など絶対あり得ないだろう、
絶対に絶対にあり得ない、こんな代物が放送されるなんてない・・・って言っていたわ」
バルクホルンが「やっちまった」「黒歴史確定」
「こんなの絶対おかしいよ」などなどブツブツ言っていたのをミーナは回想する。
「ははは、そう言うと気になってしまうな。
おっ・・・どうやら、そのバルクホルンの放送が始まるぞ、ミーナ」
「あら、本当ね」
テレビを見れば「戦時国債は君を求めている!」というタイトルが出ていた。
他の隊員もバルクホルンが出てくる!と分かって食い張るようにテレビに注目する。
そしてーーーー。
『コンパクトフルオープン!鏡界回廊最大展開!
Der Spiegelform wird fertig zum Transport――!
はぁい、お待たせマイ・ロード!マイ・マスター、アンヌ!
歌って踊れるウィッチにして魔法少女マジカル☆トゥルーデ、ここに参上!』
一同沈黙。
何か、あかいあくま。
いやいや、白黒テレビだから色などない。
兎に角、リリカルでマジカル。
またはカレイドなステッキ姿で可愛い服を着たカールスラント空軍大尉がいた。
可愛い少女がテレビに写っていた、というかゲルトルート・バルクホルンだった。
というか、大惨事だった。
黒歴史確定な大惨事であった。
「・・・・・・・・・えっと、誰?」
辛うじてミーナが思考停止状態から回復する。
部隊の隊長だけあって適応が早いが色々衝撃と刺激が強すぎるようで、
ミーナは身を乗り出してテレビに映っている長年の戦友をまじまじと見る。
『本当の名前はゲルトルート・バルクホルンだけど、
クラスの・・・第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』のみんなには内緒だよ!』
「いや、バレバレだぞ・・・バルクホルン」
「ほ、本当にトゥルーデなのね・・・」
坂本少佐が真顔で突っ込みを入れ、
ミーナはバルクホルンに半休ではなく、
3日間ぐらい有給を取らせた方が良いのでは?と真剣に考える。
「あはははははは!!?
何あれ?すっっっごく面白いし、
トゥルーデってば結構ノリノリじゃん!!」
エーリカは長年の戦友が見せた滅多に見せない感情表現に喜び、心の底から祝福する。
「ぎゃはははははは!!?
ひーひひひひひひひ、なんなんだよアレ?
ヤバイ!お腹が、お腹が笑い過ぎて痛過ぎる、し、死ぬ―!!!」
シャーリーは笑い過ぎてソファーから転げ落ち、床でのたうち回っている。
なお似たような反応は『各国で』現在視聴中のバルクホルンの戦友たちもしていた。
そして蛇足であるが後日。
本国への帰国を拒否した代償、
さらにバルクホルンの「魔法少女には相方が必要、1人ぼっちはさみしいもんな」
という強い要請によりシャーリーもまた魔法少女デビューを果たすことになる・・・。
「にゃはははははは!!
『魔法少女マジカル☆トゥルーデ、ここに参上!』うひゃ、うひゃはははは!!?」
なお、お子様なルッキーニは大喜びで決めポーズを真似している。
「た、大尉の意外な側面が見れて、
その、えっと、勉強になりますわ・・・ほほほ」
ペリーヌは何とか内心の動揺を収めようとするが、口元がヒクついている。
後でバルクホルン本人を目撃した時、耐えれれる保証はなさそうだ。
「すっごく、可愛いです!
しかも迷いなく堂々と振る舞えるなんて・・・。
バルクホルン大尉は凄いです!戦闘でもあんなに強いし、本当に凄いです!」
だた1人、リーネだけは瞳を輝かせてバルクホルンに憧憬の念を抱く。
バルクホルン本人からすれば狩人の悪夢に放棄したい程、黒歴史な代物であったとしても・・・。
『トゥルーデ、お願い助けて!!
ネウロイが欧州を、いいえ人類を脅かしているの!』
車椅子に座った少女が懇願している。
見るからに病弱で、身体が丈夫とは言い難い。
「あの子が、将軍の?」
「そうよ」
坂本少佐の確認にミーナが頷く。
『まかせて!・・・って、アレ?
マスター!まずはこの戦時国債を買わなきゃ!』
『戦時国債?
それって、課金でしょ!?
お金なんかでネウロイを倒せるの・・・?』
不安そうに述べるアンヌ。
だが、どことなく楽しそうである。
『そんなことないよ、マスター!
戦時国債で課金すればより多くのウィッチの命が救える。
戦時国債で課金すればより多くのウィッチはもっと強くなる。
これぞすなわちーーーー『ウィッチ・イズ・パワーシステム』なのだわ!』
渾身のドヤ顔でバルクホルンが宣言した。
「ちょっっっっ、ゲル、ゲルトお前。
うははははははははは、何だよそのネーミング!
卑怯だろその顔!!?つーか、意味わかんねーーーーよっっっ!!?」
「ももも、もう限界ですわっっっっ!!!?
ひゃ、ひゃはははは、あははははははははは!!」
これを見てシャーリーがさらに大笑いし、
ついに限界を迎えたペリーヌが周囲を憚らず笑いの声を上げる。
「・・・前から思っていたんだが、ミーナ。
バルクホルンも私と同じように軍隊生活が長い割に、
多才で器用な所があるが・・・たまに斜め上の方向に・・・その、逝く時があるよな?」
「え、ええ。その、
否定、できないわね・・・うん。
普段はあんなに真面目で良い子なんだけど・・・」
なお坂本少佐とミーナの反応は、
やりたい放題、あるいは好き勝手し放題なバルクホルン見て黄昏っていた。
『って、残念だけどそろそろ時間ね!
次回の「魔法少女マジカル☆トゥルーデ」は、
「焼き尽くせネウロイ!バーニングドラック!
死戦の太平洋。信者達よ見るがよい、あれがパナマの続編だ!」なのだわ!お楽しみに!』
途中で国債を説明するアニメーションを挟みつつ、
バルクホルン、否。魔法少女マジカル☆トゥルーデは番組の終了を伝えた。
が、その内容は脳死寸前もしくは火の無い灰か、
ロスリック周辺をさ迷う亡者なタイトルで知らない人が聞いても意味不明な代物である。
だが確実に言える事実はたった今、この番組が終わった事。
そして、これが広告として「全世界」に公開されたことである・・・。
「あはははははははは!!
トゥルーデ、もしかしてこの調子で続けるつもり!?」
「ヤバイ、ツッコミが追い付かないっっ!!?
ぶっ、くははははは、なんだよゲルトそれは、あはははは!!」
「大尉っ・・・おほほ、あははははははっ!!?」
「うひゃははははは!!」
「次も楽しみです!」
さらに確実に言えるのはバルクホルン本人が知らぬ間、
501部隊の全員に見られ、知られてしまったという事実。
こうした一連の事実を受け入れざるを得ない、
バルクホルンの精神衛生が不安であるが致し方無しである・・・。
そして数時間後。
バルクホルンは事実を知り、
絶叫と共に頭を抱えてのたうち回ったのをここに記す。