本当に倒したの……?」
信じられない、そうアルクェイドは呟いた。
当然だ俺ですらこうもあっさりと倒せたことが我ながら信じられない。
けど、かつてロアと呼ばれた男が灰に帰りつつあり、俺がこうして立っているのは俺たちの勝利をこれ以上なく証明していた。
「……志貴、終わったんだな」
隣に来た弓塚が感嘆深げに言う。
そう、弓塚の言うとおり何もかもこの夜に終わった。
俺がこの眼を持つようになった切っ掛けにして、アルクェイドと出会うことになった人物がたった今夜亡くなった。
ロアは俺やアルクェイド、弓塚、秋葉、そして四季の人生を狂わせた、
間違いなくロアは悪人だろう、たしかにロアさえいなければ俺は何事もない人生を過ごしていただろう。
けど――――逆にロアがいなければ俺は先生やアルクェイドと出会わずにいた事を思うと人生とは不思議なものだ。
さて、と
「さて、これから弓塚をどうやって日常生活に戻すかだよな……」
「う、そうだな」
ロアという大敵を倒して改めて目先の問題に眼を向けて弓塚が口ごもり、俺から眼を逸らす。
元凶の吸血鬼こそこの手で殺したが弓塚が未だ吸血鬼であることには変わりようがない。
太陽に当たればたちまち灰と成り滅んでしまうことは解決していない――――彼女が人間らしい日常生活を送るには極めて困難だ。
「ふ~ん、志貴はさっちんだけにしか気にしてないんだ」
嫉妬交じりな声に顔を恐る恐る声の主に向ければ、
アルクェイドが実に綺麗な笑顔を浮かべていた、だが顔は笑っているが眼が全く笑っていない。
整いすぎた顔で、美人なせいか正直迫力がありすぎて怖い――――。
「さて、お熱いのはそこまでです」
そして、機械のように感情に欠けたシエル先輩の声がした、
うすうすだが、誰かが見張っていたことを知っていたがやはり先輩は来た。
「先輩……」
「ええ、どうも遠野君。
ご無事で何よりです、わたし心配して損しちゃいました」
先輩は学校で会った時と同じように、にこにこと笑顔であったが、
両手には投剣を握っており、先輩から発せられる殺意がピリピリと辺りを支配する。
「何のつもりかしら?シエル」
「何のつもり?
それはこちらのセリフですよ、アルクェイド・ブリュンスタッド。
貴女は見たはずでしょう――――その子がとんでもない才能を持った吸血鬼であることを」
「っ!!……それ、は」
アルクェイドが口ごもり、弓塚がビクッ、と震えた。
「まさか一緒にいたいとでも?
冗談は大概にしてもらいたいですね。
そもそも貴女の使命は死徒の殲滅なはずです。
それがどうしてそこの吸血鬼に肩入れするのですか?」
そして、反論できないアルクェイドに対して、
どこまでも冷たい目線と口調でシエル先輩は一気に話す。
アルクェイドは俯き、黙ってシエルの言葉を聞いていたがしばらくして口を開いた。
「…………わかん、ない」
ポツリ、とアルクェイドが呟く。
「わかんないよ!!そんなの!!
理由なんて知らないわ、こんな気持わたし初めてだから。でも――――」
そしてアルクェイドは真っすぐシエル先輩の眼を見返して言い切った。
「私は志貴と一緒にいたいだけでなくさつきとも隣にいて欲しい!!
そうよ、私は2人とも大好きだから!!みんなみんな大好きだから!
だからシエル!!さつきに手を出すという事は私と敵対する事を覚悟しなさい!」
「…………っ!?」
アルクェイドの叫びに先輩は一瞬驚きに眼を見開く。
だが、直ぐに表情をより一層険しい顔でアルクェイドを睨み返す。
剣を構え、足を一歩前に踏みしめ、今この瞬間にも俺たちと戦闘に突入しそうだ。
そんな緊迫した空気を破ったのは弓塚だった。
弓塚は俺が止めるよりも早く一歩前に出て、先輩と向き合った。
「先輩…先輩を殺して御免なさい!!!」
「…………」
弓塚は真っ先にシエル先輩に頭を下げた。
彼女は一度シエル先輩をこの公園で殺し、今日この日まで先輩に謝罪する機会はなかった。
「自分だって分かっています。
吸血鬼は人が生きる世界とは相いれないことぐらいは。
自分がどんなに恐ろしい能力を持っているか、も含めてです」
淡々と緊張のせいか震えた声で弓塚は言葉を綴る。
しかし、その瞳だけは絶対に逸らさずに先輩に向けている。
「でも、生きたいのです!!
自分勝手なのは承知です、血は輸血パックで我慢します。
もし暴走しそうな時は……そうなる前に死にます、自分から命を絶ちます」
「おい、弓塚!!」
その気持ちは本当なのだろう、現に足は生まれたての小鹿のごとく震えている。
だが、それを言ってしまった今次の瞬間にシエル先輩が殺しにかかってくるかもしれないのに。
なぜなら先輩の立場として死ぬ覚悟があるならば今ここで殺しても何も変わらないのだから。
俺は再度ナイフを手にしてシエル先輩が弓塚に襲いかかって来た際に備える。
先輩は更に険しい表情を浮かべ、嫌な緊張感が周囲の空気を支配したが、
「――――はぁあ、まったく」
俺の心配をよそに先輩はいきなり大きなため息をついた。
「ああもう!!
これじゃあわたしが悪人みたいじゃないですか!
ええ、わかりました。まったく、わかりましたよ、もう」
降参です、という風に両手を上げる。
「まったく、数々の吸血鬼を狩り、
幾度も命乞いをする光景を眼にしましたけど弓塚さんのようなのは初めてです。
代行者としては失格なのでしょうが――――『先輩』として貴女は殺戮をするような人間でないことは信用してます」
先輩から緊迫した空気が散り、
俺が知るシエル先輩になった先輩はやれやれ、と続ける。
「それに、今の貴方達に手を出せばこちらもタダでは済まないですしょうし」
先輩が指でウィンクした先を見ると、アルクェイドがサッと腕を隠しそっぽを向いている。
真祖が吸血鬼を守るなんて私、始めてみましたと先輩は苦笑する。
「ですが、弓塚さん。貴方が自分を殺せず魔に堕落した時――――その時は必ず私の命に賭けても殺しに来ます」
「…………はい」
緊張からほどけた所に殺意をぶつけられ、
コクコクと頷いた弓塚はその場でペタリ、と座り込んだ。
「ボクは……生きて、いる……」
信じられないとばかりに弓塚が独白する。
思えばこれが普通の反応かもしれない、何だかんだとこの非日常に適応した俺が異常なのだろう。
けど共感できる部分はある、それは生への喜び。
一度死んだ俺にはの気持ちは分かる、ましてやこんな眼を持つようになってから死の意味を知るとなおさらだ。
あの時、病院で眼を覚めると周りは全部線が走っており、それが何なのかは直ぐに理解した。
生き物だけじゃない、死なんてそこらのモノにずっと存在している、死なんてものは万事に繋がっていた。
だから俺は逃げ出して死が見えない青空をずっと眺めていた時、先生と出会った。
先生がいなければ俺は今頃どうなっていただろう?だが少なくとも先生と出会ったことは俺の人生で最良の出来事だ。
「とりあえず…一件落着かしら?」
「ああ」
アルクェイドの言葉に答える。
もっとも色々とまだまだ問題は山積みだけどきっと何とかなる。
俺にアルクェイド、弓塚の三人、いやそれだけでなく秋葉や先輩と協力し合えば何だってできる気がする。
一人で駄目なら皆で手を取り合い支え合えばいい、未来が不安で仕方なくても道を作り目指すだけだ。
そうすれば、きっと生きている限り俺たちが笑い合える福音に満ちた未来が来るであろう。
「さあ、一旦帰ろう弓塚」
「うん…………あれ、いや……」
様子がおかしい、気分でも悪いのかと思い手を差し伸べるが手を出すことはなかった。
疑問に思い弓塚の顔を見るが、表情は徐々に青白いものになり瞳孔が揺れ動いている。
「弓塚?」
「いや…まって!ちょっとまって!!」
肩に手を置いたが振り払われた。
がちがち、と歯を鳴らし体の震えが止まらない――――何かが根本的に様子がおかしい。
「まさか――――」
シエル先輩が強張った顔で弓塚を見る。
俺もいやな予感が加速して一つの仮説にたどり着く。
ロアは転生し乗っ取るという珍しい吸血鬼で、物理的に殺害してもまた別の宿主に移り替わるだけだ。
そして先ほど俺がロアの点を突いて、魂ごと殺したはずだ――そのはずだが、眼の前のそのロアの血を分けた娘とも言うべき人物がいる。
まさか――――ロアが弓塚に転生したのか
「弓塚っ――――!!?」
彼女に寄るが、次の瞬間俺はロアとなった弓塚に襲われた。
信じられない、そうアルクェイドは呟いた。
当然だ俺ですらこうもあっさりと倒せたことが我ながら信じられない。
けど、かつてロアと呼ばれた男が灰に帰りつつあり、俺がこうして立っているのは俺たちの勝利をこれ以上なく証明していた。
「……志貴、終わったんだな」
隣に来た弓塚が感嘆深げに言う。
そう、弓塚の言うとおり何もかもこの夜に終わった。
俺がこの眼を持つようになった切っ掛けにして、アルクェイドと出会うことになった人物がたった今夜亡くなった。
ロアは俺やアルクェイド、弓塚、秋葉、そして四季の人生を狂わせた、
間違いなくロアは悪人だろう、たしかにロアさえいなければ俺は何事もない人生を過ごしていただろう。
けど――――逆にロアがいなければ俺は先生やアルクェイドと出会わずにいた事を思うと人生とは不思議なものだ。
さて、と
「さて、これから弓塚をどうやって日常生活に戻すかだよな……」
「う、そうだな」
ロアという大敵を倒して改めて目先の問題に眼を向けて弓塚が口ごもり、俺から眼を逸らす。
元凶の吸血鬼こそこの手で殺したが弓塚が未だ吸血鬼であることには変わりようがない。
太陽に当たればたちまち灰と成り滅んでしまうことは解決していない――――彼女が人間らしい日常生活を送るには極めて困難だ。
「ふ~ん、志貴はさっちんだけにしか気にしてないんだ」
嫉妬交じりな声に顔を恐る恐る声の主に向ければ、
アルクェイドが実に綺麗な笑顔を浮かべていた、だが顔は笑っているが眼が全く笑っていない。
整いすぎた顔で、美人なせいか正直迫力がありすぎて怖い――――。
「さて、お熱いのはそこまでです」
そして、機械のように感情に欠けたシエル先輩の声がした、
うすうすだが、誰かが見張っていたことを知っていたがやはり先輩は来た。
「先輩……」
「ええ、どうも遠野君。
ご無事で何よりです、わたし心配して損しちゃいました」
先輩は学校で会った時と同じように、にこにこと笑顔であったが、
両手には投剣を握っており、先輩から発せられる殺意がピリピリと辺りを支配する。
「何のつもりかしら?シエル」
「何のつもり?
それはこちらのセリフですよ、アルクェイド・ブリュンスタッド。
貴女は見たはずでしょう――――その子がとんでもない才能を持った吸血鬼であることを」
「っ!!……それ、は」
アルクェイドが口ごもり、弓塚がビクッ、と震えた。
「まさか一緒にいたいとでも?
冗談は大概にしてもらいたいですね。
そもそも貴女の使命は死徒の殲滅なはずです。
それがどうしてそこの吸血鬼に肩入れするのですか?」
そして、反論できないアルクェイドに対して、
どこまでも冷たい目線と口調でシエル先輩は一気に話す。
アルクェイドは俯き、黙ってシエルの言葉を聞いていたがしばらくして口を開いた。
「…………わかん、ない」
ポツリ、とアルクェイドが呟く。
「わかんないよ!!そんなの!!
理由なんて知らないわ、こんな気持わたし初めてだから。でも――――」
そしてアルクェイドは真っすぐシエル先輩の眼を見返して言い切った。
「私は志貴と一緒にいたいだけでなくさつきとも隣にいて欲しい!!
そうよ、私は2人とも大好きだから!!みんなみんな大好きだから!
だからシエル!!さつきに手を出すという事は私と敵対する事を覚悟しなさい!」
「…………っ!?」
アルクェイドの叫びに先輩は一瞬驚きに眼を見開く。
だが、直ぐに表情をより一層険しい顔でアルクェイドを睨み返す。
剣を構え、足を一歩前に踏みしめ、今この瞬間にも俺たちと戦闘に突入しそうだ。
そんな緊迫した空気を破ったのは弓塚だった。
弓塚は俺が止めるよりも早く一歩前に出て、先輩と向き合った。
「先輩…先輩を殺して御免なさい!!!」
「…………」
弓塚は真っ先にシエル先輩に頭を下げた。
彼女は一度シエル先輩をこの公園で殺し、今日この日まで先輩に謝罪する機会はなかった。
「自分だって分かっています。
吸血鬼は人が生きる世界とは相いれないことぐらいは。
自分がどんなに恐ろしい能力を持っているか、も含めてです」
淡々と緊張のせいか震えた声で弓塚は言葉を綴る。
しかし、その瞳だけは絶対に逸らさずに先輩に向けている。
「でも、生きたいのです!!
自分勝手なのは承知です、血は輸血パックで我慢します。
もし暴走しそうな時は……そうなる前に死にます、自分から命を絶ちます」
「おい、弓塚!!」
その気持ちは本当なのだろう、現に足は生まれたての小鹿のごとく震えている。
だが、それを言ってしまった今次の瞬間にシエル先輩が殺しにかかってくるかもしれないのに。
なぜなら先輩の立場として死ぬ覚悟があるならば今ここで殺しても何も変わらないのだから。
俺は再度ナイフを手にしてシエル先輩が弓塚に襲いかかって来た際に備える。
先輩は更に険しい表情を浮かべ、嫌な緊張感が周囲の空気を支配したが、
「――――はぁあ、まったく」
俺の心配をよそに先輩はいきなり大きなため息をついた。
「ああもう!!
これじゃあわたしが悪人みたいじゃないですか!
ええ、わかりました。まったく、わかりましたよ、もう」
降参です、という風に両手を上げる。
「まったく、数々の吸血鬼を狩り、
幾度も命乞いをする光景を眼にしましたけど弓塚さんのようなのは初めてです。
代行者としては失格なのでしょうが――――『先輩』として貴女は殺戮をするような人間でないことは信用してます」
先輩から緊迫した空気が散り、
俺が知るシエル先輩になった先輩はやれやれ、と続ける。
「それに、今の貴方達に手を出せばこちらもタダでは済まないですしょうし」
先輩が指でウィンクした先を見ると、アルクェイドがサッと腕を隠しそっぽを向いている。
真祖が吸血鬼を守るなんて私、始めてみましたと先輩は苦笑する。
「ですが、弓塚さん。貴方が自分を殺せず魔に堕落した時――――その時は必ず私の命に賭けても殺しに来ます」
「…………はい」
緊張からほどけた所に殺意をぶつけられ、
コクコクと頷いた弓塚はその場でペタリ、と座り込んだ。
「ボクは……生きて、いる……」
信じられないとばかりに弓塚が独白する。
思えばこれが普通の反応かもしれない、何だかんだとこの非日常に適応した俺が異常なのだろう。
けど共感できる部分はある、それは生への喜び。
一度死んだ俺にはの気持ちは分かる、ましてやこんな眼を持つようになってから死の意味を知るとなおさらだ。
あの時、病院で眼を覚めると周りは全部線が走っており、それが何なのかは直ぐに理解した。
生き物だけじゃない、死なんてそこらのモノにずっと存在している、死なんてものは万事に繋がっていた。
だから俺は逃げ出して死が見えない青空をずっと眺めていた時、先生と出会った。
先生がいなければ俺は今頃どうなっていただろう?だが少なくとも先生と出会ったことは俺の人生で最良の出来事だ。
「とりあえず…一件落着かしら?」
「ああ」
アルクェイドの言葉に答える。
もっとも色々とまだまだ問題は山積みだけどきっと何とかなる。
俺にアルクェイド、弓塚の三人、いやそれだけでなく秋葉や先輩と協力し合えば何だってできる気がする。
一人で駄目なら皆で手を取り合い支え合えばいい、未来が不安で仕方なくても道を作り目指すだけだ。
そうすれば、きっと生きている限り俺たちが笑い合える福音に満ちた未来が来るであろう。
「さあ、一旦帰ろう弓塚」
「うん…………あれ、いや……」
様子がおかしい、気分でも悪いのかと思い手を差し伸べるが手を出すことはなかった。
疑問に思い弓塚の顔を見るが、表情は徐々に青白いものになり瞳孔が揺れ動いている。
「弓塚?」
「いや…まって!ちょっとまって!!」
肩に手を置いたが振り払われた。
がちがち、と歯を鳴らし体の震えが止まらない――――何かが根本的に様子がおかしい。
「まさか――――」
シエル先輩が強張った顔で弓塚を見る。
俺もいやな予感が加速して一つの仮説にたどり着く。
ロアは転生し乗っ取るという珍しい吸血鬼で、物理的に殺害してもまた別の宿主に移り替わるだけだ。
そして先ほど俺がロアの点を突いて、魂ごと殺したはずだ――そのはずだが、眼の前のそのロアの血を分けた娘とも言うべき人物がいる。
まさか――――ロアが弓塚に転生したのか
「弓塚っ――――!!?」
彼女に寄るが、次の瞬間俺はロアとなった弓塚に襲われた。