ようやく会えた緑の人と土色の人たち。
炎龍を一度撃退したという彼らならば故郷を救うことができるかもしれぬ。
そうヤオ・ハー・デュッシは期待していた。
しかし得られた回答は否定。
曰く、炎龍がいる場所は国境の向こう側。
軍が国境を超えるということはどういう意味か?
その理由は言わずとも分かるはずである。
ゆえにお引き取り願いたい。
「・・・・・・分かった」
その回答を聞いたヤオは絶望を胸にしつつ部屋を後にした・・・。
「と、いう感じのやり取りをしたのだが、
現在我々は国境を越えての活動はできない。
しかし『野生生物』である炎龍は今こそ一か所に留まっているが、
何時かは偵察隊が遭遇したように再び我々の前に現れる時が来るであろう」
「ゆえに、改めて問おう。
もしも炎龍と対峙した時の対処法にについて各自意見を述べて欲しい」
狭間陸将、栗林中将は会議の参加者たちに対して問いかける。
参加者は自衛隊の戦闘団団長、日本軍の連隊長、さらに航空隊の指揮官。
とアルヌスに駐留している主たる部隊の幹部たちが揃っていた
「では航空隊から一言発言します」
日本軍側から「痛い子中隊」を配下に置いた高木順一朗大佐が立ち上がる。
「ハッキリ申しまして我が軍の航空隊単独での炎龍撃退は不可能です。
九七式双戦の20ミリ機関砲、さらに斜め下向きに装備している40ミリでもあの龍に有効打撃を与えることは無理です。
加えて少し前にお宅の噴進機でも撃墜こそされませんでしたがあの破損ぶりですからわが軍のレシプロ航空機ではとてもとても・・・」
九七式双戦の火力は機首に20ミリ機関砲4門とフォーマル大陸のワイバーンを簡単に撃墜できる程度の火力がある。
しかし『第三世代主力戦車』並みの装甲を纏った生物である炎龍には分が悪すぎた。
加えて少し前に自衛隊のF4が炎龍と遭遇。
これと交戦した結果、炎龍に対して下した評価は。
・機動力はハリアーか戦闘ヘリ並
・頭脳は野生動物の中でも賢い。
・旋回半径は第一次世界大戦時の複葉機より小さい。
・攻撃力はF4の電子機器を破損させる程度の威力を有するブレス。
と端的に言って脅威としか言いようがない存在であることが判明した。
「神子田さんとも話しましたが、
自衛隊のAAM(空対空ミサイル)も相手が装甲纏っている以上有効打撃となりません。
よって航空隊の使い方としてせいぜい牽制程度。炎龍を『自由に空を飛ばせない』ために使うべきだと思います」
そう締めくくった。
「加茂です、
74式のAPFSDSならば貫通は可能なハズです。
しかし相手は三次元を機動する生物ゆえに地面に釘付けにしていただけ無ければ困ります」
「最悪、一方的に空から蹂躙されることとなります。
戦車はブレスにこそ耐えることはできると思いますが、
歩兵が乗る機動車、それに各種車両はそれに耐えれれるか疑問です。
また戦車も炎龍が空から押しつぶして来たら対処しようがありません」
加茂一等陸佐、島田中佐が戦車部隊の代表としてそれぞれ見解を述べる。
「・・・LAMが通用するのは伊丹が率いていた偵察隊で実証済み。
しかし、だからと言って普通科単独、あるいは少数の精鋭による奇襲等は期待するのは無謀と考えています」
「火力だ、兎に角弾幕はパワー!
確実にあの龍を打倒するにはそれしかない、
砲兵の弾幕射撃とアルヌスにある航空機全てを動員して制圧。
その上で戦車から釣る瓶打ちをするしかないと健軍一等陸佐と結論づけている!」
健軍一等陸佐、一木少将が事前に纏めた結論を述べる。
「諸君らの話を聞くとつまり、
戦車、航空機、砲兵による立体的な攻撃が必要というわけか」
栗林中将がそうつぶやく。
「と、なると規模は最低でも1個戦闘団、または連隊。
それに加えてヘリに航空機となると規模はかなりおおきくなりますね・・・」
「それだけではないぞ、八原参謀長。
アルヌスの周囲に出現した時ならばそれで済むが、
例えば今世話になっているイタリカに炎龍が襲撃した時、我々はそれを見捨てることはできない。
道中の治安は以前よりも改善されているとはいえ、それは我々がアルヌスで陣取っているが故の保証だ。
『アルヌスから軍がいなくなった』ことで妙な勘違いをする輩が出てこないように別個警戒の部隊を配置する必要がある」
ただ炎龍を戦うだけではなく、
戦っている間に蠢動する輩の動きを封じ込めるための部隊配置。
加えてイタリカを見捨てればアルヌスの間を結ぶ交流が打撃を受ける。
しかもイタリカは今や非公式とはいえ【帝国】とアルヌスを結ぶ中間地点と化しており、
政治的にこれを見捨てるのは非常にまずい、という意味を込めて狭間陸将が意見を述べる。
「改めて意見を纏めると厄介だな、
龍を一体倒すだけにもこうも戦力が必要とは。
まったく異世界であるならば魔王を倒す勇者に頼れたらどれほどよかったことやら」
栗林中将の冗談に場が笑いに包まれる。
「勇者、ではないですが。
武神様であらされるロウリィならいますよ」
「ふふふ、それは良いかもしれないな。
だが、彼女に頼り切ることはできない。
それにいくら武神とはいえ空を飛ぶ相手では荷が重かろう――――ゆえに我々が倒すのだ」
八原参謀長の冗談に狭間陸将が同意を示したが、
炎龍を倒すべきは自分たちであると高らかに宣言した。
「神秘の存在が身近にあるこの世界で炎龍は最大の脅威であり、畏怖された存在だ。
もしも我々の手で炎龍を仕留めることができればアルヌスから出ない我々を侮る【帝国】も考えを改めるであろう」
陸将の言葉に一同はハッと気づくと同時に真剣な眼差しで頷く。
如何に炎龍を倒すかばかり考えていたが得られる政治的な効果に気づいたのだ。
「我らに物語に出てくるような勇者はいないが、
勇敢な隊員と兵士たちがいることを私は知っている。
あらゆる事態を解決する万能の天才はいないが優秀な頭脳を持ち、
各自が知恵を出し合い、最適な解決法をひねり出すことを我々は知っている」
一拍。
「さあ、諸君。
議論を深めようではないか。
予定の時間より会議が長引きそうだ。
夢幻会の外伝も完結してしまったので、こっちの更新を楽しみにしています
少将や中将に昇進していてもおかしくないのでは?
人事面での考察が足りていませんでした。
修正しました