その1「衛宮志保」
標識をみていると後ろから車のクラクションが鳴った。
振り返るとカールスラントアフリカ軍団、KAKの標識をつけたキューベルワーゲンが停まっている。
「ふむ、こんな所で扶桑人に会うとは。」
運転席に座っている人物、彼女。
白いポニーテイルの髪、座っていても170センチ以上あることが分かる高い背丈、やや褐色の肌。
事前に見た衛宮志保の資料に乗っていた姿が私の目の前にいた。
まさか基地に辿りつく前に目的の人物に会えるとは思わなかった。
「記者か?ならば乗って行くといい。ちょうどウィッチ隊の基地に行くところだから。」
もっていたカメラケースを見てそう判断したのだろう。
感謝を告げて助手席に乗り込む、道中取材をするためでもあるが、後部座席は食料で満席であったからだ。
・・・・なぜか知らないけど水槽が鎮座し、タコがいたけど。
まあいい、気を取り直して取材開始と。
ところで衛宮大尉はなぜウィッチになったのですか?
「何、マルセイユではなく私が取材の対象かね?」
どちらもですよ。
扶桑海事変からエースの経歴が始まって今や「アフリカの弓兵」の二つ名を頂戴しているのだから。
これで記者として取材しないほうがありえないって。
「そうかね?
私はただネウロイを倒してきただけだが。」
ルーデル並みに舐めた発言ありがとうございます。
衛宮大尉は全世界のウィッチに謝るべきだと私は思う。
「おお、こわいこわい」
それでなぜウィッチになったか――――私は正義の味方になりたかったのさ。」
どこか自虐と皮肉を込めた口調で彼女はいった。
その姿は未だ変わらぬ己の信念を呪っているような気がした。
「おっと、もうついた。
あれがマルセイユの天幕だ。」
指差す先をみると、
いくつかの天幕が張ってあり、中でも一番大きなのがマルセイユのだそうだ。
いよいよ会うとなるとやや緊張する。
が、記者としての興味、元ウィッチとして好奇心は尽きない。
車に降りてから後部座席に置いてあった食料を運ぶのを手伝い。
衛宮大尉と共に天幕へと向かった。
その2「マルセイユ中尉」
天幕へと近づくと色の黒い人。
黒人のウィッチが歩哨で立っていた。
「エミヤか。そこの女は誰だ?」
衛宮大尉とは顔見知りだったが私は警戒されたもよう。
まあ、そりゃそうね。民間人が勝手に軍事基地に入ることはできないし。
「取材なら許可証を提出しろ。」
許可書を見せてしばらく天幕へ引っ込んでなにか話している。
「入れ、あとエミヤには『はやく食い物よこせ』だそうだ。」
なんかすっかり餌付けされたセリフねえ。
そんなにおいしいのかしら衛宮大尉のは?
苦笑する大尉を横目で見ながら私は天幕の中へと入っていった。
「おかえり、シホ。
そして取材の話は聞いている、はるばる世界の果てへようこそ。」
天幕の中は弾薬箱や土嚢を材料に居住環境が作ってあった。
しかし、雰囲気はとても最前線とは思えぬ明るさと豪華さがあった。
部屋の奥、部屋の奥には強烈な存在感を主張する人物がこちらを見ている。
腰まで届く白い髪、地中海のごとく青い瞳、彼女こそがマルセイユ中尉だ。
「やれやれ、君がカルパッチョを食べたい。
なんて言い出して調達する羽目になった苦労をいたわってくれないのか?」
衛宮大尉はやれやれと言わんばかりに大げさに表現する。
ああ、なるほど。
さっきの水槽はそのためにあったのか。
「おっとそうだった――――じゃあ今晩遊ばないか。」
「全力でお断りする。」
マルセイユ中尉の「遊ぼう」の真意が一体何か気になるわね。
『そういう』趣味なのかな2人とも。
「言っておくが私は断じて同性愛の傾向はない。」
「またまた、年下のウィッチに『御姉さま』と呼ばしてそれはないだろ。」
「いや、だからあれは」
私を放置してぎゃいぎゃいと戯れあう2人。
からかうマルセイユ中尉に真面目に反論する衛宮。
動物で例えるなば自由気ままな猫(マルセイユ)と真面目な犬(衛宮)だ。
にしても髪が同じ白でお互い背が高いせいか絵になるね。
この場の光景を写真にすれば結構売れるかも。
でも、静かになるまでしばらく放っておきますか。
時間はたっぷりあるし。
その後、静かになってから我々は一晩語り明かし色々な話を聞いた。
人のはその人のドラマがある、だからこの場で纏めるのはできないだろう。
それはまたの機会にする。
その3「夢」
夢を見た。
「あ・・・チャ――――。」
上から見下ろす視線で女性を視界に入れているらしい。
らしい、とは眼球に入る映像情報が途切れ途切れでよくわからないからだ。
「―――――××。」
口が動いた。
音声は男のものだ。
「私を・・・やt――――支えて・・・。」
男らしい声とは裏腹に穏やかに語る。
でも私はこの人を知らないはずなのに知っている気がする。
衛宮志保でないはずなのに中身は衛宮志保だと直感がささやく。
「答えは得た。大丈夫だよ××××。オレもこれから頑張っていくから。」
どこか懐かしい夢を見た
その4「弓兵」
久々に堪能していたご飯とみそ汁の香りは突如のネウロイ襲来を告げるサイレンで中止した。
「警報!後方にネウロイが浸透したもうよう!」
「チッ!なんて日だ!!」
マルセイユ中尉は悪態をつく。
聞く所によると兵力不足のため週何度かはこうして後方まで浸透してくるそうだ。
東部戦線ならネウロイが苦手とする川が防壁となり浸透を防ぐが、北アフリカはそうはいかない。
『砂と荒野だけ』の環境は戦線の広さと相まってネウロイの浸透をまれに許してしまうとのことだ。
なお、だから対策として衛宮大尉は後方に位置する航空基地を巡回しているのだと。
マルセイユ中尉はすぐにストライカーユニットを装着して出撃にかかる。
が、直後に新たな凶報が届いた。
「警報!ここより6キロ圏内に地上型ネウロイ!発砲しました!!」
同時にやや遅れて発砲音とこの基地に着弾した轟音が響く。
ちょ、反射的に伏せてなかったらヤバかったよこれは。
しかもこれは15センチクラスの砲撃だし、まずいわね。
「陸軍のアホは何をやっていた!」
マルセイユ中尉も砲撃を受けたせいで飛ぶ暇もなく伏せざるを得なかったようだ。
「防御陣地より反撃開始・・・早い!ネウロイさらに接近!」
あらら、本気の奇襲攻撃だわ。
覚悟していたけどここで年貢の納め時というやつになる――――。
爆音
硝子が砕ける音を大きくしたのを耳に触れた。
耳慣れた音、覚えている。これはネウロイが散った音だ。
「――――――」
見上げると正面に衛宮大尉が弓を構えていた。
さらに正面、はるか数キロには光の結晶の花が咲いていた。
まさか、話から散々聞いていたけど本当に――――。
「ト―――――」
無機質な言語を唱え『何もない』所から剣が出現する。
それを矢とし、弓をを引く。
眼を逸らすことができない。
衛宮志保という固有名詞をもつ人間に引きこまれる。
単純な好奇心ゆえにではなく、分らないけどもっと別な理由で。
「残り3」
着弾
飛翔した矢は命中と同時にネウロイを一撃で粉砕した。
衛宮大尉は事務処理をする雰囲気で淡々と戦果報告を呟く。
「残り1」
ネウロイは脅威を感じ取り、砲の照準を弓兵に固定する。
が、弓兵はずっと早く先手を打つ。一発で前後にいたネウロイを貫通させ同時撃破。
最後のネウロイは諦めて撤退したがそれを逃すはずもなく呆けなくやられた。
「これで終わりだ。」
仕事は終わったとばかりに弓は空中に溶けていった。
なんて凄まじい。
『私はただネウロイを倒してきただけだが』と語ったがまさにそれだ。
一人で数キロ先の4台のネウロイ撃破、しかもほぼ一方的な戦い。信じられない。
これこそが衛宮志保の戦い。
これがアフリカの弓兵の実力なのか。
ネウロイが倒され基地の隊員から祝福の歓声があがる
衛宮大尉に駆け寄り祝福をする様子をひとまずカメラに収め、私はぼんやりその様子を観察した。
エピローグ
後に将官クラスの人物から直々に勲章が口頭で約束されて夜は祝福ムードであった。
今日見た戦争は一言で表現すれば、まるで神話の世界の戦い。
でも、そんな戦いの日々もいつか記録として認知される日が来て、伝説へと昇華するのだろう。
記者としてあの瞬間に立ち会えたことはとても嬉しい。
しばらくしたらアフリカを離れる。
再び来るかもしれないがその時はウィッチとして来るつもりだ。
彼女の戦いを見て、私の心は再び空への思いが強まった。
年齢は過ぎたがまだ飛べないことはない。
忘れていたかつての想い。
私も正義の味方になってみようと思う。
おわり