おだにゃら記

地元小田原市中心のフィールドワーク備忘録。
歴史、神社仏閣、あとはいろいろ。


北原白秋と小田原と関東大震災 1

2024年09月13日 16時04分00秒 | 近代文学に見る小田原

小田原に縁のある文学者で最も有名な人はやはり北原白秋だと思います。

白秋が小田原に住んでいたのは1918年(大正7)~1926年(大正15)

33〜41歳までの8年間。意外と短いですよね。

それでも引越し魔の白秋にとって一つどころに8年間というのは故郷福岡での暮らしに継いで長く、住居を建築したのは小田原だけだったとのこと。

白秋は詩人として地位を確立しながらも貧しい生活が続いており、
小田原へ越す直前には門弟との決裂があり気持ちも荒んでいたようです。

小田原での暮らしの中でようやく経済的に安定し家庭に恵まれ執筆活動も旺盛となり。
白秋にとっても小田原市にとってもこの8年間は貴重な期間だったと言えましょう。
 

白秋の小田原での生活を振り返ります。
 
 
1918年、白秋は2番目の妻章子の療養目的で小田原の養生館に1ヶ月滞在しました。
(1番目の妻、敏子とは不倫関係で始まり、姦通罪による投獄を経て結婚したが1年余りで離婚)
 

養生館

正恩寺前の海岸、現在も総構の土塁跡がある場所です。
元は伊藤博文の別邸滄浪閣。
伊藤が大磯に移ったあとの1897年にリゾート旅館養生館としてオープン。
 
庭にかかる優美な橋や海を眺める展望櫓、なんとも大正浪漫チックな旅館です。

こんなところに1ヶ月もいられるなんて。
昔の著名人羨ましい。


白秋に限らず昔の文豪って貧乏でも旅館などに長期間滞在しますけど、支払いはどうしてたのか不思議です。
 


養生館の建物は関東大震災で倒壊し今は住宅地になってますが、
一部に伊藤博文の銅像や記念碑が残されています。
 
 
その後市内御花畑に6ヶ月ほど滞在。 
(小田原町詳細圖)
御花畑は養生館の少し西。
この地図は1929年のものなので既に養生館は閉業してますが路面電車の停車駅はまだ「養生館入口」となってます。
 
 

そして養生館に来てから7ヶ月後の1918年10月に天神山の伝肇寺本堂の横部屋に引越し。
 
翌年、境内に「みみづくの家」を建て本格的に居住を始めます。
 

茅葺屋根の小さな家
 
一時期住んでいた小笠原を思い南国風にした不思議発想。
入り口と両脇の小窓がみみづくの顔に見えることから「みみづくの家」と名づけました。
 
 
 木菟の家
お屋根は萱(かアや)で 壁は藁
小窓のお眼々が右ひだり
お鼻の入口 這入りやんせ
木菟ぽうぽう
内からぽうぽう
 

1920年、みみづくの家の隣に赤い屋根の洋館「白秋山荘」を建設
 
これは白秋が小田原を去って数年後(1929)家財整理のために訪れた際の知人との集合写真。
中央の椅子に白秋と2人の子どもと3番目の妻菊子。
 
2番目の妻章子とは白秋山荘の地鎮祭後に離婚、翌年に菊子と再婚。
昔の著名人はすぐに後釜を紹介されるので、離婚の翌年の再婚も特に非常識でもふしだらでもありません。
女手がないと日常生活いろいろ困りますし。
 
菊子は大変よくできた女性で、新婚当初から目の回るような多忙な生活に耐え白秋の創作活動を支えました。
白秋はこの再婚で2人の子宝にも恵まれ、ようやく安穏無事な家庭を得ることができました。
 
 

現在の伝肇寺。
みみづくの家や山荘があった場所はみみづく幼稚園となってます。


伝肇寺も別名みみづく寺と呼ばれている模様

近所だけど昔と違って入りづらい。



伝肇寺境内にある赤い鳥小鳥の歌碑


白秋童謡の散歩道

白秋は伝肇寺近隣を頻繁に散策し、景色や植物の様子を多く書き残しています。

上の地図は小田原市が制作した「白秋童謡の散歩道」

これは小田原駅西口をスタートして小田原文学館の白秋童謡館をゴールとしたウォーキングコース。
小田原駅北側は山なので坂道が続き、特に城山幼稚園脇から谷津への急な登り坂はかなりきついです。


全行程歩くのが無理そうなら(私は無理です)伝肇寺から水之尾への「からたちの花の小径」
だけでいいんじゃないかと思います。
実際に白秋がよく散策していたのはこの道なので。




小田原文学館 白秋童謡館

白秋の散歩道ゴールの白秋童謡館は小田原文学館敷地内にあります。
小田原文学館は明治の政治家田中光顕の別邸だった洋館。白秋童謡館として使われている日本家屋も田中光顕邸の別棟でどちらも国の有形文化財に登録されています。

白秋がここに住んでいたと、ここがみみづくの家だと勘違いされて訪れる方もいらっしゃるようで
確かにちょっと紛らわしいかもしれません。



小田原文学館正面




私もよく庭を散歩してます




関東大震災まで辿り着けなかったので次回に続きます。


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参考文献

一枚の古い写真(小田原市図書館)
北原白秋 その小田原時代(野上飛雲)