株式会社プランシードのブログ

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その17.「作品演出」がしたいならまず「状況演出」を!

2012-06-28 15:21:25 | 制作会社社長の憂い漫遊記
私は大卒後、2つの制作プロダクションに都合4年間在籍しただけで、
25歳でフリーになった。
いまから25年近く前の話である。
フィルムに変わってビデオが台頭し、
「日本映画新社」や「岩波映画」など記録映画の老舗プロダクションに加え、
新生ビデオプロダクションが乱立。業界は群雄割拠の様相を呈していた。
私が出会った新生プロダクションの中でもとりわけ勢いがあったのは、
企画系制作会社の「フォーカス」だ。もちろんあの写真誌の「focus」とは無縁。


(フォーカスが企画・制作した
「おいしい365日・手作り料理倶楽部」(ニチイ:現マイカル)と
 「くらし発見伝」(松下電器:現パナソニック))

「フォーカス」は、PRビデオ制作と並行して、
趣味や生活をテーマにした自社制作のビデオソフトを
書店ルートで販売していた。
そのソフト制作で得たノウハウや人脈を使って、
例えば、松下電器と組み、
ナショナル店舗で暮らしに役立つビデオソフトを来店者にレンタルし、
来店促進とナショナル商品の拡販をするとか(くらし発見伝)、
ニチイの生鮮売り場で、料理ビデオをレンタルし、
生鮮食品の拡販を図るなど(おいしい365日・手作り料理倶楽部)
秀逸のアイディアで大量のビデオ制作とダビングを勝ち取るなどし、
業績を倍々ゲームで伸ばしていた。


(「おいしい365日・手作り料理倶楽部」の収録
加藤敏彦先生とゲストの友里千賀子さん
1日2本撮りで、私は仕事を忘れ試食に舌鼓を打っていた)

撮影機材と編集スタジオを社内に持ち、
制作、撮影、編集を自社スタッフで、監督と照明スタッフは外注していた。
若いスタッフで構成されていたので、プロデューサーは
フリーの若手監督を起用したがり、いつも触手を伸ばし探していた。
というのも、社内スタッフが若手だと、
百戦錬磨のベテラン監督に舐められるし
だいたいベテラン監督はギャラが高く、人員も要求するし、
さらに丁寧に撮るのでロケ日数もかかる。
「日本映画新社」や「岩波映画」などの老舗では、
ロケ1日で作品を作るようなことはしないし、
そもそもロケ1日で作らなければならないような仕事は受けない。
だから新生ビデオプロダクションが受ける事になる。
カメラマンやビデオエンジニア(VE)は日銭で発注した。
たとえ作品として責任を持たなければならなくても
ギャラは「1日単価×日数」で発注してくる。
さすがに監督のギャラは日銭計算にはできないが、
脚本と演出を兼務させるなどして効率化を図った。
従って監督も、ベテランではなく若手が受ける事になる。
それでも「フォーカス」のギャラは、
他の新生プロダクションに比べても悪くはなかった。
私は、私と共に「映像館」を脱藩したVEの中川 幸俊君に
「フォーカス」を紹介された。

残念ながら「フォーカス」はその後解散したが、
当時は自社ビルを建てるなど成長著しく、
多くの仕事に恵まれた社員スタッフは独自の進化を遂げ、
解散後は様々な会社に散っていったが、斜陽業種と言われる今でも、
業界でしぶとく生き残っている。
今では、大阪CM界No.1の呼び声が高い行田 晃一監督が
私の助監督として走り回っていたし、
CMからPRまで起用にこなすフリーカメラマン田中 昌次君が
ビデオカメラをおもちゃ代わりにして撮影に明け暮れていた。
その他にも業界では「あいつが?」って子がこの会社の出身である。
みな若き体力にモノ言えわせて、何本も掛け持ちしていた。


(「くらし発見伝」でお掃除ビデオの撮影:田中カメラマンと私
  撮影場所は私の自宅)

当時、私は最若手のフリーの監督だったが、同じフリーの若手には、
2つ3つ上に松下 裕治監督や西村 由美監督がいた。
2人とも器用な監督だったし、
監督としての威厳は若くても持ち合わせていた。
松下監督や西村監督とは、シリーズ物で共同監督をしたり、
脚本家と監督として1つの作品を作ったりした。
松下監督は気が短く、「フォーカス」の若手を飲みに誘っては
「もうちょっとしっかりせんと、撮影がこぼれてしまうがな」
といつも怒っていたし、飲むと「近頃の若い奴は…」と
アリストテレスばりに愚痴っていた。

老舗プロダクションと仕事をしながら、
新生プロダクションとも仕事をすると
「フォーカス」の若手スタッフは、経験不足で準備がマズイ。
段取り8分の業界にとって
事前にどれだけ段取りができるかが勝負の分かれ目になる。
「しかたがない」と認識してはいたが、見劣りするのである。
私は、松下監督の盃が進み、愚痴りだすと
フリーのギャラの中には雇ってくれたプロダクションの
「教育費も含まれているんですよ。
時には若手を教育しなければならない時もあるし、
時にはプロデューサーを教育しなければならない時もある。
新しくできたプロダクションで仕事をする場合は
監督といえども、時にプロデューサー的発言をして
次の仕事がしやすいようにしなければならないと思いますよ」
と言ったものだ。
監督の仕事は、「作品演出」であるが、いい作品になるよう演出したかったら
まず、「状況演出」をしなければならない。スタッフが一つの目標に向って
気持ちを固めなければ、ロケ日数の少なさを補うことはできない。
場合によっては、追加予算が出るようプロデューサーと一緒になって
スポンサーに掛けあう位でないと
スタッフのひもじさを解消する事が出来ないのである。

と同時の私は思っていた。


(「くらし発見伝」子供のための教育資金ビデオに
出演の海江田 万里先生に色紙をいただいた。
「富貴在天」の「富」は財産、「貴」は高い身分をさし、
富や地位は天命によるもので、個人の思うようにはならないの意)


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