シリーズ平成の「変」-成果に乏しい首脳外交の「変」―揺るぐ国益―
4月29、30日、訪中した麻生首相は温家宝首相と会談し、また胡国家主席とも表敬・懇談した。麻生首相が中国首相と会談するのは、08年12月に大宰府市で日・中・韓3カ国首脳会談を開催し、持ち回りで3カ国首脳会談を毎年開催することに合意して以来3回目である。隣国中国等と首脳間の交流を活発に行うことは評価される。
しかし、首脳間の会談であり、儀礼的な会談・懇談や総論の繰り返しだけでは首脳会談を繰り返す意義はほとんどない。
今回の首脳会談でも、メキシコ発の新型インフルエンザの対策などにつき情報交換、協議の緊密化につき合意したとの報道もある。だが、昨年1月に表面化した中国製冷凍ギョーザの毒物混入事件でさえ、当初中国側は日本側の責任とし、未だに真相は解明されていない。中国側の保健衛生、消費者の安全確保の水準と姿勢が問われるところであり、新型インフルエンザ対策での日・中協力がどれほどの意味があるのか疑問だ。
その上、靖国神社への「内閣総理大臣」名での真榊奉納については、中国側より「敏感な問題」として懸念を表明された上、「適切な対応」を求められている。更に、麻生首相が外相時代以来の日・中間の最大の懸案となっている東シナ海のガス田開発問題では、温首相は「事務レベルで意思疎通を図って行きたい」とかわしたと伝えられている。それでは首脳の出る幕ではないということか。事実、この問題では中国側の開発が続行され、既成事実が積み重ねられている一方、昨年5月の胡国家主席の訪日以来何らの進展も見られていない。首脳レベルでの問題の「先送り」は、逆に既成事実化の黙認となる恐れが強い。首脳会談の意義と成果が問われる。会談をセットすること自体や会談の回数などが「成果」のごとく強調されており、一定の意義はあろうが、何回会談を重ねても、それは儀礼的なお付き合いでしかない。
中国における評価も辛口で、麻生政権が選挙を控え、支持率低迷の中での支持率アップに関心があり、日本国内の報道振りに気を遣っているとか、日・中の関心事項は、金融危機、北朝鮮核問題、そして(歴史認識への)懸念という「3つのK」などと伝えている。
その金融危機問題についても、4月上旬にロンドンで開催されたG-20主要経済国会議において参加首脳の集合写真が撮られた際、日本は世界第2の経済大国でありながら、20カ国首脳中末席に据えられた。外交儀礼上、元首、行政府の長、在任期間の順となる場合があるにせよ、在任期間4ヶ月のオバマ大統領との差を際立たせると共に、財政出動に傾斜する余り、財政規律を重視するEU諸国と対立するなど、中心的役割は果たせない結果となった。主要国では、日本の首相が3代続けて国政選挙無しに指名されている上、任期が9月までしか残っておらず、政権末期(レイム・ダック)となっているなど、日本の政治情勢は知られている。また、バブル経済崩壊期の90年代には、問題を先送る中、膨大な公的債務を残すなど、「失われた10年」と言われていることも知られており、ブッシュ大統領やオバマ大統領もそれに言及している。それだけに、残念ながら日本の影がより薄く映ってしまう結果となっている。
4月11日、ASEAN諸国と日・中・韓との首脳会議がタイのパタヤで開催された際、タクシン派による反政府デモによりASEAN首脳会議は中止されたが、日・中・韓の首脳会議と2国間会談は開催された。タイ国内の政情不安の中での迅速な対応として評価される。事務方の作業は大変なものであったであろう。しかし、3カ国首脳による集合写真では中国の温家宝首相が中心に位置し、同首相の右側に韓国・李大統領、左側に麻生首相が位置していた。国際儀礼からすると国家元首である韓国大統領が中心に立つことも不思議ではないが、中国主導との印象を与える結果となっている上、見るべき具体的な成果に欠ける。
2月24日、オバマ米大統領が就任し1ヶ月余の多忙な時期に、麻生首相が諸外国に先駆けてワシントンに一番乗りし、同大統領との約1時間20分の会談を実現させた。米国の日本重視の姿勢として伝えられた。しかし、3月上旬に訪米したブラウン英首相に対しては、オバマ大統領との会談の他、会食、及び米議会での演説など、充実した日程が組まれ、差を際立たせる結果となった。首脳との会談を実現すること自体は評価されるが、実質が伴わなければ会談したという形しか残らないのではないだろうか。
5月11日よりプーチン露首相が訪日する。最大の懸案は、北方4島問題を解決し平和条約を締結することだ。しかし、それを前にして配下の事務方が面積を2等分する「3.5島返還論」に言及したことが報道されると、OB大使や学者、有識者等より強い反論が表明されるなど、国論を2分する恐れさえ出てきている。12日の日・露首脳会談において、北方4島の帰属問題に最終決着を図る必要性があるとの認識で一致した等としているが、従来の姿勢の繰り返しに過ぎない。プーチン首相は、記者会見において、7月のイタリア・サミットの機会にメドベージェフ大統領との間でも検討されるであろうとしつつ、「あらゆる選択肢を話し合う」としているが、問題解決が先送られたに過ぎない。領土問題は2国間の国益が衝突する双方にとって微妙な問題であり、首脳のリーダーシップと決断が不可欠であるが、それは国民の支持と明確な信託に裏打ちされていなくてはならない。
7月8日からイタリアで主要先進工業国(G-8)サミットが開催される。地球温暖化への対応、世界経済の再構築や核不拡散・核軍縮、地域問題など、今後の世界の方向を検討する歴史的な転換点になる可能性がある。そのサミットにおいて日本の基本的な考えを表明し、中・長期に及ぶ方向性にコミットしなくてはならないが、そのためには国民の明確な支持と信託を得て置かなくてはならないのではないだろうか。
連立与党の一角である公明党は、7月の東京都議選の1ヶ月前後の時期には衆院総選挙は好ましくないとしている。しかし、7月のG-8サミットは日本のみでなく、世界の将来が掛かっている重要な会議であり、党の都合で衆院選をまた先送りすることは、いわば国家、国民の利益を犠牲にしても、党利党略を優先するに等しいのではないだろうか。「変」である。(09.05.)
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4月29、30日、訪中した麻生首相は温家宝首相と会談し、また胡国家主席とも表敬・懇談した。麻生首相が中国首相と会談するのは、08年12月に大宰府市で日・中・韓3カ国首脳会談を開催し、持ち回りで3カ国首脳会談を毎年開催することに合意して以来3回目である。隣国中国等と首脳間の交流を活発に行うことは評価される。
しかし、首脳間の会談であり、儀礼的な会談・懇談や総論の繰り返しだけでは首脳会談を繰り返す意義はほとんどない。
今回の首脳会談でも、メキシコ発の新型インフルエンザの対策などにつき情報交換、協議の緊密化につき合意したとの報道もある。だが、昨年1月に表面化した中国製冷凍ギョーザの毒物混入事件でさえ、当初中国側は日本側の責任とし、未だに真相は解明されていない。中国側の保健衛生、消費者の安全確保の水準と姿勢が問われるところであり、新型インフルエンザ対策での日・中協力がどれほどの意味があるのか疑問だ。
その上、靖国神社への「内閣総理大臣」名での真榊奉納については、中国側より「敏感な問題」として懸念を表明された上、「適切な対応」を求められている。更に、麻生首相が外相時代以来の日・中間の最大の懸案となっている東シナ海のガス田開発問題では、温首相は「事務レベルで意思疎通を図って行きたい」とかわしたと伝えられている。それでは首脳の出る幕ではないということか。事実、この問題では中国側の開発が続行され、既成事実が積み重ねられている一方、昨年5月の胡国家主席の訪日以来何らの進展も見られていない。首脳レベルでの問題の「先送り」は、逆に既成事実化の黙認となる恐れが強い。首脳会談の意義と成果が問われる。会談をセットすること自体や会談の回数などが「成果」のごとく強調されており、一定の意義はあろうが、何回会談を重ねても、それは儀礼的なお付き合いでしかない。
中国における評価も辛口で、麻生政権が選挙を控え、支持率低迷の中での支持率アップに関心があり、日本国内の報道振りに気を遣っているとか、日・中の関心事項は、金融危機、北朝鮮核問題、そして(歴史認識への)懸念という「3つのK」などと伝えている。
その金融危機問題についても、4月上旬にロンドンで開催されたG-20主要経済国会議において参加首脳の集合写真が撮られた際、日本は世界第2の経済大国でありながら、20カ国首脳中末席に据えられた。外交儀礼上、元首、行政府の長、在任期間の順となる場合があるにせよ、在任期間4ヶ月のオバマ大統領との差を際立たせると共に、財政出動に傾斜する余り、財政規律を重視するEU諸国と対立するなど、中心的役割は果たせない結果となった。主要国では、日本の首相が3代続けて国政選挙無しに指名されている上、任期が9月までしか残っておらず、政権末期(レイム・ダック)となっているなど、日本の政治情勢は知られている。また、バブル経済崩壊期の90年代には、問題を先送る中、膨大な公的債務を残すなど、「失われた10年」と言われていることも知られており、ブッシュ大統領やオバマ大統領もそれに言及している。それだけに、残念ながら日本の影がより薄く映ってしまう結果となっている。
4月11日、ASEAN諸国と日・中・韓との首脳会議がタイのパタヤで開催された際、タクシン派による反政府デモによりASEAN首脳会議は中止されたが、日・中・韓の首脳会議と2国間会談は開催された。タイ国内の政情不安の中での迅速な対応として評価される。事務方の作業は大変なものであったであろう。しかし、3カ国首脳による集合写真では中国の温家宝首相が中心に位置し、同首相の右側に韓国・李大統領、左側に麻生首相が位置していた。国際儀礼からすると国家元首である韓国大統領が中心に立つことも不思議ではないが、中国主導との印象を与える結果となっている上、見るべき具体的な成果に欠ける。
2月24日、オバマ米大統領が就任し1ヶ月余の多忙な時期に、麻生首相が諸外国に先駆けてワシントンに一番乗りし、同大統領との約1時間20分の会談を実現させた。米国の日本重視の姿勢として伝えられた。しかし、3月上旬に訪米したブラウン英首相に対しては、オバマ大統領との会談の他、会食、及び米議会での演説など、充実した日程が組まれ、差を際立たせる結果となった。首脳との会談を実現すること自体は評価されるが、実質が伴わなければ会談したという形しか残らないのではないだろうか。
5月11日よりプーチン露首相が訪日する。最大の懸案は、北方4島問題を解決し平和条約を締結することだ。しかし、それを前にして配下の事務方が面積を2等分する「3.5島返還論」に言及したことが報道されると、OB大使や学者、有識者等より強い反論が表明されるなど、国論を2分する恐れさえ出てきている。12日の日・露首脳会談において、北方4島の帰属問題に最終決着を図る必要性があるとの認識で一致した等としているが、従来の姿勢の繰り返しに過ぎない。プーチン首相は、記者会見において、7月のイタリア・サミットの機会にメドベージェフ大統領との間でも検討されるであろうとしつつ、「あらゆる選択肢を話し合う」としているが、問題解決が先送られたに過ぎない。領土問題は2国間の国益が衝突する双方にとって微妙な問題であり、首脳のリーダーシップと決断が不可欠であるが、それは国民の支持と明確な信託に裏打ちされていなくてはならない。
7月8日からイタリアで主要先進工業国(G-8)サミットが開催される。地球温暖化への対応、世界経済の再構築や核不拡散・核軍縮、地域問題など、今後の世界の方向を検討する歴史的な転換点になる可能性がある。そのサミットにおいて日本の基本的な考えを表明し、中・長期に及ぶ方向性にコミットしなくてはならないが、そのためには国民の明確な支持と信託を得て置かなくてはならないのではないだろうか。
連立与党の一角である公明党は、7月の東京都議選の1ヶ月前後の時期には衆院総選挙は好ましくないとしている。しかし、7月のG-8サミットは日本のみでなく、世界の将来が掛かっている重要な会議であり、党の都合で衆院選をまた先送りすることは、いわば国家、国民の利益を犠牲にしても、党利党略を優先するに等しいのではないだろうか。「変」である。(09.05.)
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