スパコン「京」に迫る危機…電気代高騰、STAP余波など難題が直撃
理化学研究所のスーパーコンピューター「京」。電気代の高騰に頭を悩ませる=神戸市中央区
日本が世界に誇るスーパーコンピューター「京(けい)」が思わぬ難題に直面している。淡路島の4割強の世帯の消費量に匹敵する電力が必要だが、関西電力の度重なる電気料金値上げが直撃。さらに京を運営する計算科学研究機構(神戸市中央区)を傘下に持つ理化学研究所が、STAP問題に伴う予算削減危機に直面している。研究面では世界的成果を順調に挙げている京だが、先行きに暗雲が漂う。
「中央演算処理装置(CPU)を3万個以上使う計算を行う場合は、事前に消費電力の確認を」
計算科学研究機構は、関西電力が電気料金を値上げした平成25年春以降、京を利用してシミュレーションを行う研究機関や企業に対し、電力の急上昇が見込まれる場合は、短い時間に計算が集中しないよう呼びかけている。26年度は利用が減る年末年始に一時的に京の運用を停止する準備も進めていたほどだ。
スパコンの心臓部であるCPUを京は約8万8千個備え、1日約600万円強もの光熱費を消費する。CPUを搭載する計算機は約860台。一度電源を落とすと再稼働には数時間かかるため24時間年中無休での稼働が原則だ。理研によると、年間の消費電力量は一般家庭約2万5千世帯分に相当するという。さらに4月から予定されている関電の再値上げ幅が10%強とすると、単純計算では年間2億円強の光熱費増となる。
理研は京を冷やすエアコンの稼働調整や館内の照明削減などを実施。また、計算科学研究機構の各部署で予算を削ったり、所属する研究者の学会出張を減らしたりなど涙ぐましいコスト削減に努めてはいる。
ただ、施設での電力の95%以上は京とその関連設備で使用されており、京の運用に大幅な制限をかけない限り電力コスト削減には限界がある。
追い打ちを掛けるのが予算の先細りだ。民主党政権時代の事業仕分けで京もやり玉に挙げられ、事実上の凍結と判定されたが、仕分けへの批判もあって“復活”を果たした。だが、27年度は計算科学研究機構の予算が4千万円強削減される見込み。理研元研究員の小保方晴子氏によるSTAP細胞の論文不正問題で理研への風当たりが強まり、文部科学省が理研全体の予算で異例の減額要求したことなどが背景にある。機構は「今後の光熱費対策を考えると頭が痛い」と話す。
京はかつて計算速度で世界最速を誇ったが、今は4位。政府は京の100倍の計算速度をもつ次世代機を開発中だが、当面は「京頼み」が続くうえ、次世代機は、京よりも消費電力がかさむ。スパコンの運営が立ち往生すれば日本の科学技術振興にかかわるだけに、研究者らの不安も募っている。
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【京】 理化学研究所と富士通が共同で開発したスーパーコンピューター。国の主導で世界1位の計算速度を目指して開発が始まり、総事業費約1120億円で平成24年9月、神戸市の人工島・ポートアイランドで本格稼働した。計算速度は1秒間に1京(京は1兆の1万倍)回。脳の神経回路の様子を再現する世界最大のシミレーションなどの学術利用のほか、自動車の車体設計など民間企業の利用も進んでいる。