1902年、オーストリアのザルツブルグにあるモーツァルトテウム財団は、下顎が失われているモーツァルトの頭蓋骨なるものを手に入れた。1791年に35歳で死んだモーツァルトはウィーンの共同墓地に葬られ、墓堀人だったヨゼフ・ロスマイヤーがその頭蓋骨を引き取ったと1801年の記録にはある。
モーツァルトは貧困者用の共同墓地に投げ込まれたと言われているが、当時としては平均的な中級クラスの扱いだった4~5人用の墓に埋葬されていた。言い伝えによれば、墓堀人は頭蓋骨にワイヤをつけて、どの遺体がモーツァルトのものかわかるようにしておいて、10年待って頭蓋骨を回収したと言うが、信憑性は薄い。
その後、頭蓋骨はさまざまな人物の手に渡った。教会の用務係、解剖学者ヒルトルの骨相学コレクション(モーツァルトの頭蓋骨を除いて、のちにムター博物館の頭骸骨コレクションの一部になった)、果ては1902年にモーツァルトテウム財団の所有するところとなった。
2006年、頭蓋骨を入手してから104年後、モーツァルトテウム財団は頭蓋骨を調べ、本当に天才作曲家のものなのかを証明しようと計画した。モーツァルトの血縁者である母方の祖母と姪のものだといわれている大腿骨からDNAをとって比較してみたのだが、結果はモーツァルトの血縁者と頭蓋骨はなんの関係もないことがわかっただけだった。
しかし、祖母と姪と言われていた遺体も互いに関係がないことがわかり、否定も肯定もできずに決着のつかない結論となった。だが、この頭蓋骨は強力な証拠で、これが本当にモーツァルトのものか否かについて活発な議論のきっかけになり、彼の晩年の頭痛や早すぎる死の説明になるかもしれない。今は結局、憶測でしかなく、モーツァルトの頭蓋骨の謎は当分の間は未解決のままだろう。