去年の暮れだったか?吉田拓郎がラジオで言っていた。「人の死はサラリと流して行きましょう!」
経験から出た何気ない一言は人の心を軽くしてくれる。そんな事を思った。
「忘れるのも愛情」若い頃だったらきっと否定してただろうが…今だから私もそう思えるんだろう。
だから、やがて薄れていくであろう今の思いを、まだまだ、痛いこの時期に書き留めておこう。
そう思った。
数珠とタンバリン
2010年10月14日私たちは佐世保へ出掛けた。そして、私は数珠とタンバリンを持って。去年の5月に再会した「かちがらす」のワチとお別れする為にである。ワチ率いる「かちがらす」とは30年来の友。共に歌うボランティアとして育った仲間。とは言っても真ん中は空白佐世保に帰ってからのワチの生活を私は知らない。しかし、去年のひょんな再会からその空白の何十年を埋めるのにそう時間はかからなかった。不思議なのだが、そんな時間が経過している事を何にも感じないほどであった。「かちがらす」を知る仲間は佐賀に数人いる。熊本、佐世保、伊万里、唐津、佐賀・・・。その音楽仲間と共に去年の夏くらいから、2ヶ月ないしは1ヶ月に一回ミーティングを開いて今年30周年を迎える「かちがらす30周年ライブ」に向けて進めて行く事にした。話し合う度に計画は少しずつ進んでいき、仲間全員で作ったテーマソング「つむぎ」を完成するまでに至った。ワチの新曲「あの頃!今!未来!」も完成し、後はコンサートの準備を進めていこうとするその矢先、ワチの病気の事を聞かされた。食道癌から既に転移している事が分かった。ショックだった。正直「又か」と思った。どこにもぶつけようのない怒りがこみ上げては消え、又こみ上げては消え。そんな感じで1ヶ月を過ぎた頃。逆にワチから、「元気がない!」と励ましのメールをもらい再び、少しづつ動き出すことになった。皆ひとつの事を同じように信じながら。ミーティングはいつも、佐賀で集まっていた。が、10月のミーティングは10月10日に佐世保で行い、その足でワチのお見舞にみんなで行こうと言う事にしていた。
9月の末だったか、仲間のひろこちゃんを通じ、ワチの容体があまり思わしくない事を聞いた。10月10日だと間に合わないかもしれない・・・。とにかく、早く行きたかった私たちは10月1日にひろこちゃんRyujiさん、そして、私で行く事にした。病室には点滴をしながら横たわる小さくなったワチがいた。あまりの変わりように最初どんな言葉をかけていいか戸惑った。しかし、そんな私たちを気遣うようにワチは普通に話してくれた。色んな昔話をしながら、気がつくと夕方。ワチもきつかっただろうに。最後に交わした握手は長くて力強かった。ワチは何も言わなかったが私には「ありがとう」と聞こえた。
それから数日後、病室でコンサートをすることになる。とり急いで計画したにも拘わらず、皆が頑張ってくれたおかげで実現することになった。狭い病室に入りきれない人たちが集まった。ワチの寝床を囲む様にして静かに歌い出すと仰向けに寝ていたワチの目から涙が溢れだしていた。私もワチの子供たちを見たとたん涙が止まらなくなった。そんな状況の中で、冷静に歌えるはずもなく中々声にならない私をカバーするようにギターの音と仲間の歌声が真っ直ぐに病室に鳴り響いていた。看護師さんたちも入れ代わり立ち代わり見に来てくれた。沢山の人たちに見守られながら、コンサートが終わった。終わった後のワチの表情は活き活きしていた。そして、私たちも満足だった。
病室コンサートを待ったかのようにその4日後ワチは亡くなった。2010年10月14日の葬儀はお別れ会だった。お坊さんも硬い話もないただ、ワチが生きたこの何十年かを関わりあって、共鳴しあった仲間が集まった。ワチは「自分が死んだらパ-ッとみんなで歌ってほしい。」と亡くなる前に言い残したという意思を引き継いでの事であった。変な言い方だが、いい式だった。本来死んだら、そうするべきじゃないか。と思えるほど、いい式だった。「レジスタンス」と言うかちがらすの代表曲と「あの頃!今!未来!」と言うワチが最後に書き下ろした曲を幸松ちゃんたちが演奏した後、佐賀組の私たちも前に出た。「なぜどうして」と「Goodbye,See you again」を全員で歌った。最後の曲でタンバリンを取り出して華やかなまま演奏は終了した。タテマエの数珠の出番はなかった。本音で付き合える仲間が居る事が心から嬉しかった。
最後に娘さんがワチへの手紙を読み上げた。「幼い頃は絵を書いても見てもらえないのが嫌だったけど、大きくなるにつれ、父の愛情深いその寛大さに気付かされた」と。
わたぼうし時代のワチ、盲学校時代のワチ、可愛い女の子に弱かったワチ、オヤジギャグばかり考えていたワチ、平和を愛したワチ、そして何よりも家族を大切にしていたワチ、仲間を心から信頼すること、何かが違う世の中にささやかでも抵抗していく事・・・。
出棺の時、ワチの顔を見て、「頑張っけん!」とだけ心の中で呟いた。
痛みは薄れてゆく…しかし、重要な選択が必要な時、私はいつも数珠とタンバリンを思い出すんだろうな。
いい再会だったよ!ワチ!!