この訴訟の二審判決は「公益目的で長年出版されている書籍で、著者に将来にわたって真実性を再考し続ける負担を課すと、結局は言論を萎縮させる懸念がある」と、表現の自由を重視した判断を示しています。
大江さん達には本当にご苦労様と言いたいですね。
沖縄戦名誉棄損訴訟、大江健三郎さんの勝訴確定
太平洋戦争末期の沖縄戦で、住民に集団自決を命じたと著書で虚偽の記述をされ、名誉を傷つけられたとして、旧日本軍の元少佐梅沢裕さん(94)らが作家の大江健三郎さん(76)と岩波書店(東京)に出版差し止めなどを求めた訴訟の上告審で、最高裁第1小法廷(白木勇裁判長)は、集団自決への軍の関与を認定し、請求を棄却した1、2審判決を支持し、原告の上告を棄却する決定をした。
決定は21日付で、5人の裁判官全員一致の結論。原告の敗訴が確定した。
問題とされたのは、大江さんの随想記「沖縄ノート」(1970年出版)と、家永三郎氏(故人)の歴史研究書「太平洋戦争」(68年出版)。「沖縄ノート」は、集団自決を「日本人の軍隊の命令」とし、原告の実名は伏せて「事件の責任者はいまなお、沖縄にむけてなにひとつあがなっていない」などと記述。「太平洋戦争」は原告の実名を出し、「自決せよと命令した」と記した。
沖縄戦集団自決・損賠訴訟:「軍関与」認定判決が確定 「自決強制、認識される」
毎日新聞 2011年4月23日 東京朝刊
ノーベル賞作家、大江健三郎さん(76)の著作「沖縄ノート」の記述などを巡る名誉毀損(きそん)訴訟で、最高裁が旧日本軍隊長らの上告を棄却する決定を出し、「旧日本軍が住民の集団自決に関与した」と認定した2審が確定したことを受け、大江さんは22日午後、東京都内で会見を開き「ようやく強制された集団死が正しく認識される」と訴訟終結の意義を語った。
訴訟の原告は、沖縄・座間味島にいた海上挺進隊第1戦隊長の梅沢裕さん(94)と渡嘉敷島の同第3戦隊長だった故赤松嘉次さんの弟秀一さん。軍が集団自決を命じたと記した沖縄ノート(70年出版)と、梅沢さんの実名を記した故家永三郎さんの「太平洋戦争」(68年出版)の記述を巡って提訴。「住民の遺族が戦後の補償を受けるため自決命令を捏造(ねつぞう)した」と主張していた。
大江さんは22日の会見で「文科省はこれまで係争中を理由に(軍の強制を記した)教科書を印刷できないとしてきたが、もう係争中ではない」と指摘。「今回の決定で沖縄の基地問題が一変するわけではないが、沖縄戦のことを覚えていてもらいたい。(沖縄ノートを)高校生に読んでほしい」と若者たちへの思いを語った。
これに対し、元隊長側の松本藤一弁護団長は「1、2審とも元隊長らによる集団自決命令は『証拠上断定できない』としながら、論点をずらして軍の関与を認めて名誉毀損を否定し、最高裁も踏襲した。日本や日本軍の名誉を決して回復させてはならないという強い戦後の観念のもとで下された決定だ」とするコメントを出した。
1審の大阪地裁は08年3月に「隊長の関与は十分に推認される」として請求を棄却。2審・大阪高裁も同10月に「隊長命令は出版時は学会の通説で、記述に真実と信じる相当性があった」と名誉毀損の成立を否定した。
提訴後に文部科学省が「自決は軍の強制」とした高校教科書に初めて検定意見を付け、教科書会社が記述を削除する動きに発展。沖縄県の反発を受け、文科相の諮問機関が「軍の関与は主要な要因」と認め、教科書会社が「軍の関与」の表現を復活させるなど、訴訟外にも影響が広がった。【伊藤一郎】