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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

弁護士森川文人「捜査機関による録音・録画は、取り調べの『可視化』ではない。」

2015年07月05日 | 刑事司法のありかた


 うちからもリンクさせてもらっている「御苑の弁護士森川文人のブログ」の筆者、森川文人弁護士の登場です!

 私とは司法研修所同期の親友。

 あれ以来、実にぶれることなく生きている、私の羅針盤のような弁護士です。

 とくに、刑事事件に関しては造詣が深く、99・9パーセント有罪=1000件に1件しか無罪が取れない、暗黒司法と言われる日本の刑事裁判で、すでに一人で4件も無罪判決を勝ち取っている!という豪の者です。

 私は、この「刑事司法のありかたカテゴリー」でえん罪事件を扱った時には、必ず最後に

「取り調べの全面可視化を!」

と書いてきたのですが、そもそも、警察や検察が取り調べ状況を録音・録画する「可視化」は、密室の中の取調を文字通り可視化=「目に見えるようにする」ものなのか。 

 森川文人弁護士が、独自のスタイルで鋭く問題提起してくれました。

 コメントを大募集しますので、よろしくお願いします!

IMG_1164.JPG を表示しています

久しぶりに再会した二人。森川弁護士のピープルズ法律事務所にて。彼、後ろの写真のミック・ジャガーに似てません?




 アナタが、なんらかの誤解により、警察に逮捕され、取り調べを受ける状況に陥ったとします。満員電車の中の痴漢の疑いかもしれないし、会社の経理処理を手順通りにやらなかったことが業務上横領だとか詐欺と疑われているのかもしれません。  

 いずれにせよ、ある段階で誰かが疑い、取り調べを受ける状況にまで至った場合には、取調官の目的は、アナタから言い訳を聞いたり、ましてや真実を聞き出すことではなく、疑われている犯罪を犯したという自白を得ることが目的になります。それが彼らの「仕事」ですから。

 「疑われ、ここ(取調室)まできたんだから、何か疑われる根拠があるんだろう」という先入観に基づく扱いがベルトコンベアー式に続いていきます。

 ということで、アナタは、被疑者→被告人→受刑者として「出世魚」のように成長していくことが望まれいるのです。そのように扱われます。  

 けれど、全く身に覚えのない場合は?もしくは、言われているほど酷いことをしたわけではない場合は? 

 さてどうしましょ?  

 「刑事さん、実はカクカクシカジカで、私は近くに居たのは確かですけどやっていないんですよ」とか「ああ、取引先の社長に頼まれて、ちょっと送金を遅らせた件ですかね?」とか言ってみます?  

 ・・・そのようにアナタが「供述」した場合、警察側は「アナタが否認しようともがいている」、「もう少しで自白しようとはしているな」と捉えます。「被害者の近くに居たことまでは認めている、もう少しだ」とか「自白しながらも他人のせいにして罪を軽くしようとしている」と考えるでしょう。    

 ところで、「取り調べの可視化」という概念が「取り調べ状況の録画・録音」とイコールかはさておき、前提としては「取り調べで自白をしても『可視化』していれば自白を強要されることはないから安心のはず」という発想があると思います。  

 黙秘は黙秘権というほど、取り調べの現場では国家機関から認められておらず、黙秘を貫くことは極めて困難です。刑事や検事による様々な恫喝、誘導により自白を強要されます。もちろん、そのような恫喝が「取調室」だけでなされるわけもありません。  

 では、本当に「取り調べの可視化」が実現すれば、安心なのか。  

IMG_1162.JPG を表示しています

相談者役の女性はもちろんサクラです(笑)。

 

 

 そもそも、何故、自白を求められるのか、といえば、証拠が不十分だからです。証拠が不十分ということの意味は、誤解がないようにいえば、逮捕の段階で、その逮捕の根拠になった資料だけではアナタを犯人と決め付けることはできない、もしくは、公安事件のように当初から証拠なんかないまま逮捕して「自白」で証拠の隙間を埋めたいからです。  

 私が警察側だったら、「取調室」にアナタを入れる前に、「家族が心配している」とか「会社の上司が困っている」「認めないと、しばらく出れないぞ。認めて早く帰ったほうがいいぞ。」「他の証拠は完璧に揃っているんだよ(ウソ!)」という定型文言をちりばめ恫喝しきったうえで「取調室」のカメラの前に連れて行きますね。  

 そこでアナタが「それでもやっていません」なんて言いだしたら録画は「カット!」。機材が壊れたせいにすればいいのです(「必要な機器の故障」法案301条の2第4項)。  もしくは、アナタが「どうせあとで脅されたといえばいい、とりあえず自白しよう」と思って、嘘の自白をしてしまったら?録画しているから大丈夫?  

 検察官は法廷で「ほら、きちんと自白していますよ」とその録画を出してくるだけです。一巻の終わり。  

 黙秘を貫く方がずっとマシじゃないですか?

 黙秘権を尊重するようにさせた方が「可視化」よりずっと人権にも真実追求にも資すると思います。  

 そもそも、被疑者・被告人が自白しないと立証できない、という事態が間違っています。本人がどう言おうと言うまいと、その他の客観的証拠で勝負すべきでしょう。それが本来の証拠に基づく裁判というものです。  

 黙秘をすれば、自ずと客観的な証拠で判断されることになります。アナタがどう言おうと、「言うまいと」。揚げ足も取られずに。  

 さて、アナタは「可視化された取り調べ」を選びますか?黙秘を選びますか? 

 黙秘をさせまいと「説得」する刑事や検事の罵詈雑言は絶対「可視化」されないでしょうけどね。

 どうします?

 

 

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「御苑の弁護士 森川文人のブログ」より

2015-07-04 19:37:26NEW ! 

 これまで、何度も取り上げてきたテーマですが、今の国会で成立がもくろまれていること、そして、親しい人たちと話しても、どうしても、おそらく「国家観」「権力観」においてズレがなかなか埋まらないテーマなので、再度、書いてみたいと思います。
 
 そもそも、取り調べの可視化、とは何ぞや?ということで、「取り調べの可視化」で検索すると日弁連のホームページで以下のような記述を見ることができます。

 「取調べの全過程を録画(可視化)すべきです
 取調室の中で何が行われたのかについて、はっきりした分かりやすい証拠を用意することはきわめて簡単です。取調べの最初から最後まで (取調べの全過程)を録画(可視化)しておけばよいのです。そうすれば、被告人と捜査官の言い分が違っても、録画したものを再生すれば容易に適正な判定を下すことができるでしょう。」


 なるほど!確かに。・・・と思いますか?いや、思っても不思議ではないですよね。そういうふうに書いてますから。
 ここで興味深いのは「録画(可視化)」とされている点です。つまり、「録画=可視化」ということです。記録をすることにより後に検証できる、それが取り調べの状況を可視化し、チェックすることが可能になるのだ、という理屈だと思います。これまた、納得することだと思います。

 しかし、私は「取り調べの録音・録画は可視化ではない」と言い続けています。「録音・録画≠可視化」と言っているわけです。
 どうやら、この辺りでズレが生じるようです。親しく、人権感覚も優れている友人たちでも、この辺りで私が言っていることはストンと落ちないようで、「一部可視化」だとか「毒まんじゅう」だとか、私からすると間違ったワードを使っているのです。私は、「一部も可視化しない」し、「毒まんじゅうではなく、毒そのもの」という認識です。

 どこにすれ違いが生じるのでしょう?思うに「主体」の問題と権力に対するスタンス、なのかなあと思います。

 先ほどの日弁連のホームページの「取調べの最初から最後まで (取調べの全過程)を録画(可視化)しておけばよい」という点と「そうすれば、被告人と捜査官の言い分が違っても、録画したものを再生すれば容易に適正な判定を下すことができる」という点、「誰が」録画するのか?「誰が」録画したものを再生できるのか?という点に私はこだわらざる得ません。

 警察や検察が、合法的な暴力を使って拉致・監禁(=逮捕、勾留と呼ばれますが)後、密室で何をしでかすかわからない、という歴史的不信感がこの「可視化」の趣旨です。つまり、対象とされているのは警察・検察の不正行為への監視です。そのための「可視化」、そのための「録音・録画」・・・

 ところで、今、法案で出ているのは、「あ~、オッケー、だよな、きちんとしないとな、とりあえずさ、俺(刑事だけど、何か♪)、自分で録音・録画しておくから。大丈夫、大丈夫、なんかあった時以外はきちんと録っておくからさ。」という制度です。

 これって「私たちにとっての可視化」なんですかねえ? ああ、刑事さん、検事さんが録っといてくれるから安心♪ってことになりますかねえ?

 ・・・とまあ、この辺の「感覚」なのかなあ。けれどそれも仕方ないとは思います。テレビの刑事ドラマや検事ドラマとか、正義の味方ですもんね、いつだって。ちょっと無理して被疑者に暴力をふるうときは被疑者がすごく悪い奴だからですよね? 弁護士は真犯人の罪を免れることができたりしてね。

 実際は、私の知る限り警察も検察も、決して公平ではなく、自分たちに都合の悪い証拠を自ら出すことはありません。経験済みです。

 「可視化」・・・誰による、誰にとっての「可視化」なのか。国家権力の行うことは私が行ったもの同然か。国家の秘密は私たちの秘密なのか。
 まあ、この辺の「感覚」、「理解」、「認識」、それは、それぞれの強いられた「教育」、「刷り込み」、「経験」によってかなり左右されるのだと思います。

 私は弁護人として、多くの公安事件、争いのある事件を国家権力=警察・検察と闘った経験からして・・・取り調べの録音・録画を、私たちにとって「可視化」とは呼べません。
 
 
 

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3 コメント

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Unknown (自由を愛子)
2015-07-05 14:57:59
あまり考えたことのないテーマでしたが、ご指摘のとおりですね。
テープを出す/出さない、編集をする/しない、は警察の意のままです。一愚民としては、「わーい、取り調べの全面可視化だ、これで冤罪が激減する、バンザーイ!」って思ってしまいますが、アブナイ、アブナイ。だまされるところでした。

ホントにこのブログは勉強になります。それに、ray様も、森川弁護士も、文章がとても分かりやすく、読みやすい。これからもよろしくお願いします。(なお、森川弁護士の後ろの絵は、ゲバラではないのでしょうか?)
返信する
自信が…(困) (リベラ・メ)
2015-07-05 19:05:12
二時間ドラマとかでよくある、頭っから犯人だと決めてかかった取り調べを見て思うのですが、自分だったら…と思うと、黙秘を貫けるかどうか自信が…。
返信する
非常にラジカルで素晴らしい。目からウロコがカスケードです (L)
2015-07-08 20:52:14
 法案に反対していて、集会にも通っています。しかし、今日まで「理想の可視化」ではないからいけない、弁護士が終始立ち会わないからいけない、程度の認識でした。
 しかし、現実には、「取り調べ」そのものに原理的な問題性があるということがわかりました。救援連絡センターがらみで漠然と黙秘が一番いいと知っているつもりでした。けど、ここまで平易に原理的に説明出来るのは素晴らしいと思います。
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