りとるぱいんわーるど

ミュージカル人形劇団“リトルパイン”の脚本の数々です。

“大和晃” ―全11場― 2

2011年10月11日 16時18分23秒 | 未発表脚本



  晃「(優美の隣へ腰を下ろす。花束を差し出して。)はい、プレゼ
    ント・・・。」
  優美「わぁ・・・ありがとう!(香りを嗅ぐ。)薔薇ね!!しかも私の
      好きなピンクかしら?」
  晃「ご名答!相変わらずいい勘してるなぁ。」
  優美「(クスッと笑って。)見えない分、勘は鋭いのよ!山・・・行く
      のね?」
  晃「うん。次の休みにね。」
  優美「晃さんって、昔っからそう!お兄ちゃんと山へ行く前には、
      必ず花束を持って、会いに来てくれるの!」
  晃「優美ちゃんに、大事な兄貴を少しの間お借りしますって、ちゃ
    んと挨拶しとかなきゃね。」
  優美「でも、お兄ちゃんも晃さんも本当に好きよねぇ・・・。中学で
      知り合って以来、ずっとでしょ?そんなに2人が魅了されて
      る山・・・私も一度でいいから行ってみたいなぁ・・・。」
  晃「じゃあ今度、一緒に行こう!」
  優美「え・・・?」
  晃「大丈夫!俺が手をひいて連れてってやるよ!その鋭い勘で
    感じるんだ、山の偉大さを・・・。屹度気に入るさ!!けど、尚
    斗の奴に“許さない!!”って言われそうだな。(笑う。)あいつ
    は、優美ちゃんのことになると、見境がなくなるから・・・。」
  優美「(笑う。)お兄ちゃんも言ってたわ、同じようなこと!“晃は
      一人っ子だから、おまえを本当の妹みたいに可愛がって
      くれるのはいいんだが、どうも些細なことで見境がなくなる
      のは・・・”って・・・。」
  晃「なんだ、自分だって同じくせに、偉そうな奴だな。」

         優美、声を上げて楽しそうに笑う。顔を空へ向け、
         心で何かを感じるように。

  優美「・・・行けるといいわね・・・。」

         晃、優美を見詰める。
         暗転。

    ――――― 第 4 場 ―――――

         上手前方、スポットに春彦、暗い面持ちで
         浮かび上がる。独り言を言うように。

  春彦「何で、あいつが上手くいって、私が駄目なんだ・・・!!私
      の方があいつより、遥かにいい大学だって出てる!!将来
      有望と言われて入社したんだ!皆の期待の星だった!!
      何で私が休日返上で働いてるのに、あいつは有意義な休
      日を過ごし、呑気に山登りなんかしてるんだ!!」

         音楽流れ、春彦歌う。

         “可笑しい!可笑しい!
         何かが違う
         可笑しい!可笑しい!
         何処かで狂った
         私の人生の進む道
         あいつには負けられないんだ
         如何しても・・・
         あんなヘラヘラした調子者
         ただ明るいだけの考えなし
         皆騙されてる あいつの仮面に
         早く気付くんだ あいつの素顔
         可笑しい!こんな筈じゃない!!”

         静かな怒りに瞳を輝かせ、遠くを見遣る春彦。
         暗転。
      
    ――――― 第 5 場 ―――――

         静かな音楽流れ、薄明るくなると、山の星空の
         風景。舞台中央、晃と尚斗、星を見上げ横に
         なっている。尚斗、座る。

  尚斗「久しぶりだな。おまえとこうやって、一緒にここへ来るのは
      ・・・。初めてここへ来たのは高校の時だよな・・・。あの時
      のおまえ、途中でリュックの・・・(晃が聞いていないことに
      気付いて、晃が耳に嵌めていたイヤホンを、取り上げる。
      と、一瞬音楽大きく流れる。)」
  晃「(起き上がって。)何すんだよ!!」
  尚斗「おまえ・・・折角来たのに、それはないだろ?」
  晃「・・・悪い、昔から好きなんだ、この曲・・・。(笑う。)」
  尚斗「(溜め息を吐いて。)やれやれ・・・。(上を見上げて。)見て
      みろよ・・・。綺麗な星空だなぁ・・・。」
  晃「ああ・・・。(見上げる。)」
  尚斗「こんな美しい夜空を見上げてると、都会の雑踏の中で生活
      している自分が、丸で嘘のようだ・・・。」
  晃「ああ・・・。」
  尚斗「・・・優美にも見せてやりたいな・・・。(立ち上がる。)」
  晃「そうだな・・・。」
  尚斗「・・・また会いに行ってくれたんだって?」
  晃「(立ち上がる。)・・・暇が出来たんでね。」
  尚斗「あいつ、喜んで報告してたよ。“私の大好きなピンクの薔薇
      を持って、会いに来てくれた・・・”ってさ。(笑う。)女に花な
      んか、死んでも贈らないおなえが、優美にだけは昔っから
      例外のように接してくれる・・・。これからも、あいつのこと、
      見守ってやってくれよな・・・。」
  晃「何、変なこと言ってんだよ・・・。(笑う。)当たり前だろ?」
  尚斗「それから・・・好い加減、暮原さんの気持ちに応えてやれよ
      ・・・。」
  晃「・・・静の気持ち・・・って何だよ、それ・・・。」
  尚斗「分かってるだろ?彼女がおまえに思いを寄せていること・・・
      。」
  晃「(少し焦ったように。)ばっ・・・如何してあいつが俺に・・・!!」
  尚斗「聞けよ!おまえだって彼女と同じ気持ちの筈だ。違うか?」
  晃「ちょっ・・・ちょっと待てよ・・・!」
  尚斗「おまえね・・・何時までも知り合った頃の、中学生の餓鬼じゃ
      ないんだぜ・・・。自分の気持ちを俺に教えられなきゃ、分か
      らないようなもんでもないだろ?」

         尚斗歌う。

         “自分の気持ちに気付くのは簡単
         それを認めるのは至難の業
         だから見て見ぬ振りする”

         晃、呼応するように歌う。

         “違う
         それは単なるおまえの思い過ごし”

         尚斗歌う。

         “他人のことは見えるのに
         自分のことは 丸で盲目
         他人の為なら惜しみなく貸す力
         自分の為には使う理由も見つからない”

         晃歌う。

         “違う
         それは単なるおまえの思い込み”

         尚斗歌う。

         “もっと目の前にある現実に
         心開けば自ずと分かる
         何も難しいことなんてない
         ただ素直になること
         それがたった一つの答え・・・”

  晃「さぁ、もう寝るぞ!!明日も早いんだ!!おやすみ!!(ゴロ
    ンと横になり、毛布を頭から引っ被る。)」
  尚斗「(微笑んで晃の横に腰を下ろす。)素直じゃないな・・・、昔
      からおまえは・・・。(空を見上げる。)思い出すな・・・。初め
      て、おまえと出会った時のこと・・・。」
  晃「(毛布を取って。)・・・あの頃、俺は転校したてで、一人も友達
    がいなかったんだ・・・。おまけに不良ときたもんだから、誰も
    相手にしてくれなかったのに、おまえだけ・・・(思わず吹き出す
    。)“俺達、友達になれないかな!?”なんて・・・」
  尚斗「何言っていいか、分かんなかったんだ。ただ仲間を見つけ
      たようで、嬉しくてさ・・・。如何しても友達にならなきゃって
      思ったんだ・・・。」
  晃「・・・俺も・・・嬉しかったぜ・・・凄く・・・。」

         尚斗、嬉しそうに微笑む。
         暗転。  

    ――――― 第 6 場 ―――――

         下手より、静登場。

  静「(くしゃみする。)いやだ・・・、誰か噂してるのかしら・・・。(遠く
    を見上げるように。)あの2人・・・今頃、何してるのかなぁ・・・。
    男2人のロマン・・・か・・・。他の女に現を抜かすより、ずっと
    マシよね・・・。」

         ゆっくり上手方へ行きかけると、上手よりひと組
         のカップル、楽しそうに語り合いながら登場。
         静の横を通り過ぎ、下手へ去る。2人の様子を
         羨まし気に見詰める静。歌う。上手へ。

         “折角のサタデーナイト
         私にとってのブルーホリデイ・・・
         今日は恋人達の夜
         なのに私は一人・・・
         でも何時か私も恋をするわ
         屹度 素敵なあなたを見つけ
         もう側にいる
         分かってるの私には・・・”

         暗転。

    ――――― 第 7 場 ―――――

         カラカラと、小石の落ちる音がする。
         その時、“ドーン”と言う轟音が響き渡る。

  晃の声「落石だ!!逃げろ!!尚・・・!!」
  尚斗の声「わあーっ!!(叫ぶ。)」
  晃の声「尚斗ー!!(叫ぶ。)」

         一時置いて、落石の轟音が静まり返り、
         嵐の後の静けさが、辺りを包む。
         八百屋舞台上スポットに、尚斗を抱き抱えた
         晃、浮かび上がる。

  晃「尚斗!!尚斗!!確りしろ!!尚斗!!」
  尚斗「う・・・ん・・・(気付く。)」
  晃「尚斗!?」
  尚斗「・・・晃・・・」
  晃「尚斗・・・(ホッとしたように。)」
  尚斗「・・・如何しちまったんだ・・・一体・・・」
  晃「(上をチラッと見上げて。)あそこから、岩と一緒に落っこちた
    んだ・・・。大丈夫か?」
  尚斗「・・・う・・・(苦痛に顔を歪める。)・・・あんまり・・・感覚がない
      や・・・」
  晃「そりゃそうだ・・・。あれだけ大きな落石にあって、命が助かっ
    ただけでも儲け物だぜ・・・。」
  尚斗「(フッと笑う。)・・・そうだな・・・。おまえの方は・・・大丈夫な 
      のか・・・?」
  晃「ああ・・・、俺はなんともない・・・。(微笑む。)さぁ・・・これから
    如何やって、あそこまでおまえを担いで登るかな・・・。」
  尚斗「(笑って。)無理だよ・・・、担いでなんて・・・(咳き込む。)」
  晃「大丈夫か!?」
  尚斗「・・・一人で行ってくれ・・・」
  晃「馬鹿野郎!!俺がおまえを置いて・・・」
  尚斗「(晃の言葉を遮るように。)一人で行くんだ・・・!おまえが
      助けを呼んで、戻って来るまで・・・俺は何とか頑張る・・・。
      だから・・・一人で行くんだ・・・」
  晃「尚斗・・・」
  尚斗「何て顔してんだよ・・・。ほんの数時間じゃないか・・・」
  晃「だけど・・・!!」
  尚斗「(微笑む。)・・・おまえと一緒で・・・俺も生命線は長いんだ
      ・・・死にやしないよ・・・おまえが戻って来るまで・・・」
  晃「・・・分かった・・・。必ず助けを連れて、直ぐに戻って来る!!
    ・・・だからそれまで頑張るんだ!!(木霊する。)」

         暗転。    
     
    ――――― 第 8 場 ―――――

         厳かな音楽流れ、鐘の音が響き渡る。
         静かにミサ曲が歌われる。
         明るくなると中央、車椅子に黒のワンピースに
         身を包んだ優美、放心状態で座っている。
         横に礼装した春彦、静佇む。

  静「(涙を堪えるように。)優美ちゃん・・・元気出してね・・・。何か
    あったら、何時でも言って頂戴・・・。何でも力になるから・・・。」
  春彦「頑張るんだよ・・・。」

         春彦、静ゆっくり下手へ。

  春彦「(小声で。)まさか、及川君が亡くなるとはね・・・。(チラッと
      優美の方を見て。)これであの子も、天涯孤独の身ってこと
      ですね・・・。」
  静「そんな風に言うのはよして・・・!!あの子には晃だって・・・
    私だっているもの!!そんな独りぼっちみたいに・・・。」
  春彦「すみません・・・。それにしても今日、大和君は如何したん
      でしょうね・・・?仮にも親友だった及川君の、最後の別れ
      に現れないなんて・・・。」
  静「・・・晃・・・大丈夫かしら・・・。」
  春彦「え・・・?」
  静「あの2人・・・ずっと親友だったの・・・。私なんかが割り込む隙
    のないくらい・・・。堅い絆で結ばれてるようだった・・・。」
  優美「・・・でも・・・お兄ちゃんを見捨てたわ・・・。」
  静「・・・優美ちゃん?」
  優美「・・・晃さんは大怪我して、動けなくなったお兄ちゃんを見捨
      てて、自分だけ助かったのよ・・・。」
  静「そんなことないわ。晃が及川君を見捨てたりする訳ないじゃ
    ない!」
  優美「じゃあ・・・何故お兄ちゃんは死んだの・・・?」
  静「・・・それは・・」
  優美「・・・答えられる筈ないわ・・・。私が言ったことが正解だもの
      ・・・。」

         その時、上手より晃登場。ゆっくり3人の側へ。

  晃「・・・優美ちゃん・・・。」
  静「晃・・・」
  優美「・・・何しに来たの・・・。私は今・・・晃さんに一番会いたくな
      いの・・・。」
  晃「ご免・・・」
  優美「・・・謝るくらいなら、お兄ちゃんを返して・・・。返してよ!!
      如何してお兄ちゃんを一人で放っといて戻って来たの!!
      お兄ちゃん、大怪我してたのよ!!それなのに、晃さんが
      見捨てたからお兄ちゃんは死んじゃったんだわ!!私に
      とって、たった一人のお兄ちゃんだったのよ!!パパの
      代わり、ママの代わり・・・掛け替えのない人だったのに!
      !(泣き叫ぶ。)」
   








        ――――― “大和晃” 3へつづく ―――――










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    (どら余談^^;)

    改めてこの作品の文字を書き並べてみて、学生の頃に
    よく読んでいた、とっても大好きな小説があるのですが、
    その言葉の表現にすごく影響を受けているな・・・と・・・^^;
    なんだか、ものすごく古めかしい感じがするのは、その小説
    が、私のママ時代に流行った小説だからです(^_^;)

    すごく・・・“雑読”とでもいいましょうか、昔からジャンルを問
    わず、興味のあるものには、何でも手を付けてみたりしたの
    で、私の中であまり拘りと言うか、これ!と言った一貫性は
    ありません。が・・・その中で、“童話”や“伝記”などの、小学
    生的な読み物から卒業し、ちょっと大人な作品を読み始めた
    頃に、一番初めに興味を持って読破した小説が、この影響を
    受けた小説だったと思います。

    その後、中世ヨーロッパ辺りの、実話的な物語に興味を惹か
    れ、今現在も大好きなジャンルの一つですが、そんな作品も
    書いてみたことがあるので、その内にご紹介致します(^^)v
    その頃の実在の人物達が、余りにも魅力的で・・・彼らは私の
    永遠の憧れかも知れません♥
    









        http://www.geocities.jp/littlepine2005/ 

      http://blogs.yahoo.co.jp/dorapontaaponta
 
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