パワハラ防止指針(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)とは
パワハラ(パワーハラスメント)防止指針は、正式には「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」。パワハラ防止指針は令和2年(2020年)厚生労働省告示第5号になり、令和2年(2020年)6月1日より適用された。
また、パワハラ防止指針は、パワハラ防止法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)第 30条の2第1項及び第2項に規定する「事業主が職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されること」(職場におけるパワーハラスメント)のないよう雇用管理上講ずべき措置等について、同条第3項の規定に基づき事業主が適切かつ有効な実施を図るために必要な事項について定めたもの。
事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(PDF)
事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(厚生労働省告示第5号、令和2年1月15日、PDF)
職場におけるハラスメント関係指針(PDF)
パワハラ防止指針案を審議した労働政策審議会分科会
パワハラ防止指針案を審議は、厚生労働省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会になるが、第16回(2019年8月27日開催)から第24回(2019年12月23日開催)までの間の雇用環境・均等分科会で議論されている。ただし、この間の雇用環境・均等分科会でパワハラ防止指針案について毎回議論されたわけではない。
この間の雇用環境・均等分科会の委員は、公益代表が奥宮京子弁護士(田辺総合法律事務所)、小畑史子京都大学大学院人間・環境学研究科教授、川田琢之筑波大学ビジネスサイエンス系教授、権丈英子亜細亜大学副学長・経済学部教授、武石恵美子法政大学キャリアデザイン学部教授、中窪裕也一橋大学大学院法学研究科教授。
労働者代表が井上久美枝日本労働組合総連合会総合男女・雇用平等局長、榎原あやこ航空連合特別中央執行委員、齋藤久子情報産業労働組合連合会中央執行委員、山﨑髙明UAゼンセン常任中央執行委員、山中しのぶ全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会中央執行委員。
使用者代表が尾下千恵株式会社三越伊勢丹ホールディングス・グループ総務部法務・コンプライアンスディビジョン長、川岸千穂いであ株式会社管理本部人事部長、杉崎友則日本商工会議所産業政策第二部副部長、中澤善美全国中小企業団体中央会常務理事、輪島忍一般社団法人日本経済団体連合会労働法制本部長(第16回雇用環境・均等分科会資料より)。なお分科会会長は公益代表委員の奥宮京子弁護士(第16回雇用環境・均等分科会議事録より)。
パワハラ防止指針案の諮問・答申
パワハラ防止指針案の諮問に対する答申(案)をめぐる議論は、2019年12月23日に開催された第24回労働政策審議会雇用環境・均等分科会で行われ、「厚生労働省案は、おおむね妥当と認める」とした。ただし、「労働者代表委員から、『事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組』および『事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組』の促進を図るほか、ILO第190号条約・第 206 号勧告が採択されたことから、ハラスメント対策の充実・強化に向けて行政においてさらなる検討を進めていくべきとの意見があった」旨、森實雇用機会均等課長が説明。その後、奥宮分科会会長が議場に諮り「異議なし」とのことで承認された。
パワハラ(パワーハラスメント)の定義とは
パワハラ防止指針(パワハラ指針)は、パワーハラスメントの定義を「職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう」とし、また「なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」とも記載している。
この指針のパワーハラスメント定義の根拠は、パワハラ防止法の第30条の2に規定された「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」という条文になる。
この条文に至る厚生労働省でのパワーハラスメント定義の変遷を簡潔に辿ると、まず、2012年(平成24年)1月30日、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」が報告書を公表したが、職場のパワーハラスメントとは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義している。
この厚生労働省の円卓会議ワーキング・グループ報告書の定義は「職務上の地位」だけでなく「人間関係などの職場内の優位性」も付け加え、上司のパワーハラスメントだけでなく同僚や部下のパワハラも対象としたことが、特筆することができる。このことは、今回のパワハラ防止指針にも引き継がれている。
さらに厚生労働省は、職場のパワーハラスメント防止対策を強化するための方策の検討を行うため、有識者や労使関係者からなる「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」を設置し、第1回会合は2017年(平成29年)5月19日に開催された。
この「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」は、2017年(平成29年)3月に決定した「働き方改革実行計画」(働き方改革実現会議決定)において「労働者が健康に働くための職場環境の整備に必要なことは、労働時間管理の厳格化だけではない。上司や同僚との良好な人間関係づくりを併せて推進する。このため、職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」とされたことを踏まえて、厚生労働省が設置した検討会になる。(4)
そして厚生労働省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」は2018年(平成30年)3月30日付で報告書をまとめて公表し、報告書において「パワハラ概念3要素と5対応策案」(5)を示して、今後、とるべき対応等は労働政策審議会での議論に委ねるとした。しかし、「パワハラ概念3要素」と呼ばれるパワーハラスメント定義については、ほぼ変わることはなかった。
パワハラ(パワーハラスメント)防止指針は、正式には「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」。パワハラ防止指針は令和2年(2020年)厚生労働省告示第5号になり、令和2年(2020年)6月1日より適用された。
また、パワハラ防止指針は、パワハラ防止法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)第 30条の2第1項及び第2項に規定する「事業主が職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されること」(職場におけるパワーハラスメント)のないよう雇用管理上講ずべき措置等について、同条第3項の規定に基づき事業主が適切かつ有効な実施を図るために必要な事項について定めたもの。
事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(PDF)
事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(厚生労働省告示第5号、令和2年1月15日、PDF)
職場におけるハラスメント関係指針(PDF)
パワハラ防止指針案を審議した労働政策審議会分科会
パワハラ防止指針案を審議は、厚生労働省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会になるが、第16回(2019年8月27日開催)から第24回(2019年12月23日開催)までの間の雇用環境・均等分科会で議論されている。ただし、この間の雇用環境・均等分科会でパワハラ防止指針案について毎回議論されたわけではない。
この間の雇用環境・均等分科会の委員は、公益代表が奥宮京子弁護士(田辺総合法律事務所)、小畑史子京都大学大学院人間・環境学研究科教授、川田琢之筑波大学ビジネスサイエンス系教授、権丈英子亜細亜大学副学長・経済学部教授、武石恵美子法政大学キャリアデザイン学部教授、中窪裕也一橋大学大学院法学研究科教授。
労働者代表が井上久美枝日本労働組合総連合会総合男女・雇用平等局長、榎原あやこ航空連合特別中央執行委員、齋藤久子情報産業労働組合連合会中央執行委員、山﨑髙明UAゼンセン常任中央執行委員、山中しのぶ全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会中央執行委員。
使用者代表が尾下千恵株式会社三越伊勢丹ホールディングス・グループ総務部法務・コンプライアンスディビジョン長、川岸千穂いであ株式会社管理本部人事部長、杉崎友則日本商工会議所産業政策第二部副部長、中澤善美全国中小企業団体中央会常務理事、輪島忍一般社団法人日本経済団体連合会労働法制本部長(第16回雇用環境・均等分科会資料より)。なお分科会会長は公益代表委員の奥宮京子弁護士(第16回雇用環境・均等分科会議事録より)。
パワハラ防止指針案の諮問・答申
パワハラ防止指針案の諮問に対する答申(案)をめぐる議論は、2019年12月23日に開催された第24回労働政策審議会雇用環境・均等分科会で行われ、「厚生労働省案は、おおむね妥当と認める」とした。ただし、「労働者代表委員から、『事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組』および『事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組』の促進を図るほか、ILO第190号条約・第 206 号勧告が採択されたことから、ハラスメント対策の充実・強化に向けて行政においてさらなる検討を進めていくべきとの意見があった」旨、森實雇用機会均等課長が説明。その後、奥宮分科会会長が議場に諮り「異議なし」とのことで承認された。
パワハラ(パワーハラスメント)の定義とは
パワハラ防止指針(パワハラ指針)は、パワーハラスメントの定義を「職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう」とし、また「なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」とも記載している。
この指針のパワーハラスメント定義の根拠は、パワハラ防止法の第30条の2に規定された「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」という条文になる。
この条文に至る厚生労働省でのパワーハラスメント定義の変遷を簡潔に辿ると、まず、2012年(平成24年)1月30日、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」が報告書を公表したが、職場のパワーハラスメントとは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義している。
この厚生労働省の円卓会議ワーキング・グループ報告書の定義は「職務上の地位」だけでなく「人間関係などの職場内の優位性」も付け加え、上司のパワーハラスメントだけでなく同僚や部下のパワハラも対象としたことが、特筆することができる。このことは、今回のパワハラ防止指針にも引き継がれている。
さらに厚生労働省は、職場のパワーハラスメント防止対策を強化するための方策の検討を行うため、有識者や労使関係者からなる「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」を設置し、第1回会合は2017年(平成29年)5月19日に開催された。
この「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」は、2017年(平成29年)3月に決定した「働き方改革実行計画」(働き方改革実現会議決定)において「労働者が健康に働くための職場環境の整備に必要なことは、労働時間管理の厳格化だけではない。上司や同僚との良好な人間関係づくりを併せて推進する。このため、職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」とされたことを踏まえて、厚生労働省が設置した検討会になる。(4)
そして厚生労働省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」は2018年(平成30年)3月30日付で報告書をまとめて公表し、報告書において「パワハラ概念3要素と5対応策案」(5)を示して、今後、とるべき対応等は労働政策審議会での議論に委ねるとした。しかし、「パワハラ概念3要素」と呼ばれるパワーハラスメント定義については、ほぼ変わることはなかった。