テレワーク時に利用可能な みなし労働時間制度
厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第14回研究会は(2024年)11月12日に開催され、議題は「労働基準関係法制について」。
また、第14回研究会の資料は「労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)」となっていますが、実質的には「労働基準関係法制研究会」報告書作成に向けた骨子案と言えると思います。
労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)(PDFファイル)
この議論のたたき台12頁に「テレワーク時に利用可能な みなし労働時間制度」と題された項目があり、そこに「テレワークの際は、仕事と家庭が近接しており、厳格な労働時間管理はプライベートに踏み込みかねないこと等を踏まえ、テレワークに対応した みなし労働時間制度が考えられる」、また「一方で、みなし労働時間制度については長時間労働のリスクも指摘されており、テレワークにおける労働時間の実態や、労使のニーズ等を把握した上で、中長期的な検討が必要と考えられる」と記載されています。
テレワークに特化した形での みなし制の創設
(2024年)9月4日に開催された前回(第13回)「労働基準関係法制研究会」の議題は「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」となっていたが、この第13回研究会の資料4頁には「テレワーク等の柔軟な働き方」と題された項目があり、12回研究会までの「テレワーク等の柔軟な働き方」に関連した労働基準関係法制研究会メンバー(構成員)の意見が、次のようにまとめられています。
・テレワークに特化した形でのみなし制の創設ということが必要ではないか。労働時間を技術的には把握できるが、労働者がそれを望まないときに、みなし制ということを認めるべき。テレワーク一般というものを対象とするのではなく、在宅勤務でのテレワークに限定して検討するのが適切であり、サテライトオフィスの場合は、労働時間管理が困難でもなく、プライバシー保護の観点も必要ないので、認めるべきではない。
・テレワークによる過重労働の実態が生じているという中で、みなし労働時間制にすると実労働時間規制から外れ、過重労働のリスクが大きい。このため、テレワークについても実労働時間規制を基本としながら、部分フレックス制度を導入し、必ずしもテレワークに限ることなく、出社した場合にも適用できるような制度設計を考えていくのが適切ではないか。この制度はテレワークに関係なく成り立つものであり、仮にみなし制を導入する場合にも両立可能な選択肢になるのではないか。
・これまで裁量労働制の対象業務を厳密に定めてきた、それは みなし労働時間制の副作用を小さくしようとしてきたということでもあり、広くテレワークでみなし労働時間制を認めるとなれば、その趣旨を潜脱することになりかねないという懸念はある。テレワークについては、実労働時間規制として、フレックスタイムの活用という方向も検討すべきではないか。
・テレワークを みなし労働時間制で対応する場合も、健康管理の観点からは、一定の時間把握は必要になるのではないか。
・テレワークを みなし労働時間制で対応する場合、本人の同意のほかに、その撤回も認めるという高度プロフェッショナル制度同様のもので、過大な業務が割り当てられることが多ければ撤回できるようにするといった選択肢もあり得る。
・テレワークのみなし労働時間制の本人同意の撤回について、実際に撤回したときに、厳格な実労働時間の把握がなされプライバシーが侵害されるとか、在宅勤務を望んでいたのに、在宅勤務を認められず出社を求められるようになるとか、実質的には撤回を選択できないということになりかねないということで、実効性がある仕組みをどう考えるか。
資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について(PDF)
第13回 労働基準関係法制研究会メンバー意見
石﨑由希子・横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授
(略)テレワークに特化した形での みなし制、正確には在宅勤務ということになるかと思いますが、在宅勤務の際の みなし制の創設ということに関して、私自身は賛成という立場でこれまで意見を申し上げてきたかと思います。
これに対して、この みなし制の適用による濫用への懸念に係る御意見も出されているというところと認識しております。そうした濫用のおそれというところへの対処というのはもちろん必要になってくるかと思いますし、なぜそもそもこうした みなし制が必要かというところで言いますと、それは、テレワーク、特に在宅勤務の中で、家庭生活ないし私生活上の理由によって、その私生活と仕事が混在したり、あるいは中抜け時間等が途中で細々生じ得るというような働き方をされ、かつ、それを望まれるようなケースの中で、厳密な意味での実労働時間管理になじまない、それがふさわしくないような状況があるからではないかというところでありますので、そうした趣旨に沿う形での運用というものをしていく必要というのはもちろんあるのかなと思っています。
こうした制度を入れていくに当たっては、やはり導入に当たって労使協定の締結を必要とすることに加えて、これも以前も申し上げましたけれども、個々の労働者の個別同意で、シチュエーションによって撤回可能な状況の個別同意を要件と付すこと。あるいは、そうした私生活上の時間が入りながらまた仕事していくということになると、実は労働時間だけに限らず、やはり健康リスクというものも生じてくるおそれも場合によってはあったりするので、そうしたところの健康確認といいますか、そういった確保のための対応みたいなものも労使協定の中に盛り込むような形で入れたり、あるいは、いわゆるつながらない権利と称されたりしますけれども、在宅中どれぐらい使用者のほうから業務指示が飛ぶのか、どういう時間帯に飛ぶのかとか、そういった辺りについても協議事項としていきながら、適切なテレワークの運用を促していくという方向性が考えられるのではないかという気がしているところであります。
また、そうしたテレワーク、この みなし制適用のもとでのテレワーク実施状況について、場合によっては厚生労働省のほうに報告を上げていただくとか、そうした形をしながら、望ましい形でのテレワークの推進を図りつつ、この みなし制を入れていくということが必要ではないかと考えているところです。
濫用のおそれということはもちろんあるのですが、しかし、残念ながら濫用のリスクということで言うと、この制度を入れる入れないにかかわらず、事業場外みなし制があるもとでは、そちらのほうでの濫用のリスクというのは残りますので、そうした意味でも、より望ましい形に誘導していくという意味でのそうしたみなし制の創設というのは検討してもよいのではないかと考えているところであります。
もちろん、現在のテレワークガイドラインで対応可能な部分というのはあるとは思うのですが、ただ、そうした形でガイドラインで基礎づけるというよりは、きちんと法制度上位置付けたほうがいいのではないかというのが私自身の考えであります。
水町勇一郎・早稲田大学法学学術院教授
今、石﨑さんのおっしゃったことについて私はやや異論があるのですが、場所を問わない働き方がこれから大きく増えていく中で、在宅かどうかという、場所を決めた新しい制度をつくることに対する、会社にいても、どこにいても、家にいても同じような働き方ができる、働かせ方ができるようになる中で、家にいたら みなし制で、実労働時間管理しなくていいよという話になることの、これからの将来に対する違和感。むしろ在宅かどうかという場所よりも、自由な働き方をしているというその自由度の高い働き方、場合によっては労働時間の配分も自分で選択できるというその自由な働き方に対してどういう制度をつくっていくかということが大切。
ただ、自由な選択ができるときに、濫用的というか、過重労働とか健康被害に対する抑止が働くかというと、みなし制にしてしまうと、100時間、80時間という上限時間も事実上みなし時間によって外れてしまうので、そのリスクをどうするか。そして、今、事業場外労働の みなし制があるからと言いますが、事業場外労働のみなし制を無制限に広げていくのではなくて、現在の実態に合う形できちんと適用とか運用の規制をしていくことのほうがむしろ大切なので、在宅勤務だから、新しく実労働時間管理を外す みなし制を導入するということに対しては強い懸念を感じざるを得ません。
首藤若菜・立教大学経済学部教授
(略)つながらない権利については、法令で定めることは多々困難があるということは、先生方の御指摘を聞いていて、なるほどと思いました。ただ、先ほどの在宅のテレワークのみなし労働時間制の適用とも関わると思います。
在宅テレワークで「みなし労働時間」を適用していったときに、この「つながらない権利」がないような状態のままで、長時間労働が本当に抑制できるのだろうかというところは非常に強い懸念を抱いています。
私は水町先生と比較的考えが近くて、在宅テレワークでの「みなし労働時間」の適用に慎重な考えを持っていますけれども、やはりこういったもの(つながらない権利)もセットで議論していただきたいと思っております。
第13回「労働基準関係法制研究会」議事録(厚生労働省サイト)
厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第14回研究会は(2024年)11月12日に開催され、議題は「労働基準関係法制について」。
また、第14回研究会の資料は「労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)」となっていますが、実質的には「労働基準関係法制研究会」報告書作成に向けた骨子案と言えると思います。
労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)(PDFファイル)
この議論のたたき台12頁に「テレワーク時に利用可能な みなし労働時間制度」と題された項目があり、そこに「テレワークの際は、仕事と家庭が近接しており、厳格な労働時間管理はプライベートに踏み込みかねないこと等を踏まえ、テレワークに対応した みなし労働時間制度が考えられる」、また「一方で、みなし労働時間制度については長時間労働のリスクも指摘されており、テレワークにおける労働時間の実態や、労使のニーズ等を把握した上で、中長期的な検討が必要と考えられる」と記載されています。
テレワークに特化した形での みなし制の創設
(2024年)9月4日に開催された前回(第13回)「労働基準関係法制研究会」の議題は「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」となっていたが、この第13回研究会の資料4頁には「テレワーク等の柔軟な働き方」と題された項目があり、12回研究会までの「テレワーク等の柔軟な働き方」に関連した労働基準関係法制研究会メンバー(構成員)の意見が、次のようにまとめられています。
・テレワークに特化した形でのみなし制の創設ということが必要ではないか。労働時間を技術的には把握できるが、労働者がそれを望まないときに、みなし制ということを認めるべき。テレワーク一般というものを対象とするのではなく、在宅勤務でのテレワークに限定して検討するのが適切であり、サテライトオフィスの場合は、労働時間管理が困難でもなく、プライバシー保護の観点も必要ないので、認めるべきではない。
・テレワークによる過重労働の実態が生じているという中で、みなし労働時間制にすると実労働時間規制から外れ、過重労働のリスクが大きい。このため、テレワークについても実労働時間規制を基本としながら、部分フレックス制度を導入し、必ずしもテレワークに限ることなく、出社した場合にも適用できるような制度設計を考えていくのが適切ではないか。この制度はテレワークに関係なく成り立つものであり、仮にみなし制を導入する場合にも両立可能な選択肢になるのではないか。
・これまで裁量労働制の対象業務を厳密に定めてきた、それは みなし労働時間制の副作用を小さくしようとしてきたということでもあり、広くテレワークでみなし労働時間制を認めるとなれば、その趣旨を潜脱することになりかねないという懸念はある。テレワークについては、実労働時間規制として、フレックスタイムの活用という方向も検討すべきではないか。
・テレワークを みなし労働時間制で対応する場合も、健康管理の観点からは、一定の時間把握は必要になるのではないか。
・テレワークを みなし労働時間制で対応する場合、本人の同意のほかに、その撤回も認めるという高度プロフェッショナル制度同様のもので、過大な業務が割り当てられることが多ければ撤回できるようにするといった選択肢もあり得る。
・テレワークのみなし労働時間制の本人同意の撤回について、実際に撤回したときに、厳格な実労働時間の把握がなされプライバシーが侵害されるとか、在宅勤務を望んでいたのに、在宅勤務を認められず出社を求められるようになるとか、実質的には撤回を選択できないということになりかねないということで、実効性がある仕組みをどう考えるか。
資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について(PDF)
第13回 労働基準関係法制研究会メンバー意見
石﨑由希子・横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授
(略)テレワークに特化した形での みなし制、正確には在宅勤務ということになるかと思いますが、在宅勤務の際の みなし制の創設ということに関して、私自身は賛成という立場でこれまで意見を申し上げてきたかと思います。
これに対して、この みなし制の適用による濫用への懸念に係る御意見も出されているというところと認識しております。そうした濫用のおそれというところへの対処というのはもちろん必要になってくるかと思いますし、なぜそもそもこうした みなし制が必要かというところで言いますと、それは、テレワーク、特に在宅勤務の中で、家庭生活ないし私生活上の理由によって、その私生活と仕事が混在したり、あるいは中抜け時間等が途中で細々生じ得るというような働き方をされ、かつ、それを望まれるようなケースの中で、厳密な意味での実労働時間管理になじまない、それがふさわしくないような状況があるからではないかというところでありますので、そうした趣旨に沿う形での運用というものをしていく必要というのはもちろんあるのかなと思っています。
こうした制度を入れていくに当たっては、やはり導入に当たって労使協定の締結を必要とすることに加えて、これも以前も申し上げましたけれども、個々の労働者の個別同意で、シチュエーションによって撤回可能な状況の個別同意を要件と付すこと。あるいは、そうした私生活上の時間が入りながらまた仕事していくということになると、実は労働時間だけに限らず、やはり健康リスクというものも生じてくるおそれも場合によってはあったりするので、そうしたところの健康確認といいますか、そういった確保のための対応みたいなものも労使協定の中に盛り込むような形で入れたり、あるいは、いわゆるつながらない権利と称されたりしますけれども、在宅中どれぐらい使用者のほうから業務指示が飛ぶのか、どういう時間帯に飛ぶのかとか、そういった辺りについても協議事項としていきながら、適切なテレワークの運用を促していくという方向性が考えられるのではないかという気がしているところであります。
また、そうしたテレワーク、この みなし制適用のもとでのテレワーク実施状況について、場合によっては厚生労働省のほうに報告を上げていただくとか、そうした形をしながら、望ましい形でのテレワークの推進を図りつつ、この みなし制を入れていくということが必要ではないかと考えているところです。
濫用のおそれということはもちろんあるのですが、しかし、残念ながら濫用のリスクということで言うと、この制度を入れる入れないにかかわらず、事業場外みなし制があるもとでは、そちらのほうでの濫用のリスクというのは残りますので、そうした意味でも、より望ましい形に誘導していくという意味でのそうしたみなし制の創設というのは検討してもよいのではないかと考えているところであります。
もちろん、現在のテレワークガイドラインで対応可能な部分というのはあるとは思うのですが、ただ、そうした形でガイドラインで基礎づけるというよりは、きちんと法制度上位置付けたほうがいいのではないかというのが私自身の考えであります。
水町勇一郎・早稲田大学法学学術院教授
今、石﨑さんのおっしゃったことについて私はやや異論があるのですが、場所を問わない働き方がこれから大きく増えていく中で、在宅かどうかという、場所を決めた新しい制度をつくることに対する、会社にいても、どこにいても、家にいても同じような働き方ができる、働かせ方ができるようになる中で、家にいたら みなし制で、実労働時間管理しなくていいよという話になることの、これからの将来に対する違和感。むしろ在宅かどうかという場所よりも、自由な働き方をしているというその自由度の高い働き方、場合によっては労働時間の配分も自分で選択できるというその自由な働き方に対してどういう制度をつくっていくかということが大切。
ただ、自由な選択ができるときに、濫用的というか、過重労働とか健康被害に対する抑止が働くかというと、みなし制にしてしまうと、100時間、80時間という上限時間も事実上みなし時間によって外れてしまうので、そのリスクをどうするか。そして、今、事業場外労働の みなし制があるからと言いますが、事業場外労働のみなし制を無制限に広げていくのではなくて、現在の実態に合う形できちんと適用とか運用の規制をしていくことのほうがむしろ大切なので、在宅勤務だから、新しく実労働時間管理を外す みなし制を導入するということに対しては強い懸念を感じざるを得ません。
首藤若菜・立教大学経済学部教授
(略)つながらない権利については、法令で定めることは多々困難があるということは、先生方の御指摘を聞いていて、なるほどと思いました。ただ、先ほどの在宅のテレワークのみなし労働時間制の適用とも関わると思います。
在宅テレワークで「みなし労働時間」を適用していったときに、この「つながらない権利」がないような状態のままで、長時間労働が本当に抑制できるのだろうかというところは非常に強い懸念を抱いています。
私は水町先生と比較的考えが近くて、在宅テレワークでの「みなし労働時間」の適用に慎重な考えを持っていますけれども、やはりこういったもの(つながらない権利)もセットで議論していただきたいと思っております。
第13回「労働基準関係法制研究会」議事録(厚生労働省サイト)