働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

労働基準関係法制研究会 報告書(案)

2024年12月10日 | 労働基準法改正
第15回 労働基準関係法制研究会の開催
労働基準法などの見直しを議論している厚生労働省・有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第15回研究会が本日(2024年12月10日)開催されましたが、議題は「労働基準関係法制について」ですが、資料は「労働基準関係法制研究会 報告書(案)」となっています。

労働基準関係法制研究会 報告書(案)ポイント
テレワーク時のみなし労働時間制について
実労働時間規制のかからない自由度の高い働き方として、みなし労働時間制の活用が考えられる。既存のみなし労働時間制について、事業場外みなし労働時間制はそもそも労働時間の算定が困難であるという要件があり、専門業務型裁量労働制については、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため業務遂行の手段、時間配分の決定等に関して具体的な指示をすることが困難なものとして省令及び告示で定められた業務であるという要件があり、企画業務型裁量労働制については、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、使用者が業務遂行の手段、時間配分の決定等に関し具体的な指示をしないこととするという要件がある。
これらの要件が満たさなければ、テレワークにみなし労働時間制を適用することができない。

一方で、テレワーク時の労働時間の管理について、フレックスタイム制であっても使用者による実労働時間管理が求められる以上、自宅内での就労に対する過度な監視や、一時的な家事や育児への対応等のための中抜け36時間など実労働時間数に関する労使間の紛争が生じ得ることといった課題も考えられる。こうした課題に対応するため、また、仕事と家庭生活が混在し得るテレワークについて実労働時間該当性を問題としないみなし労働時間制がより望ましい働き方と考える労働者が選択できる制度として、一定の健康確保措置を設けた上で、自宅等でのテレワークに限定したみなし労働時間制を設けることが考えられる。この場合、その導入については集団的合意に加えて個別の本人同意を要件とすること、そして、制度の適用後も本人同意の撤回も認めることを要件とすること等が考えられる。

これに対し、自宅等でのテレワークを対象とするみなし労働時間制については、テレワーク中の長時間労働を防止するという観点からは、・ これまで裁量労働制の対象業務を厳密に定めてきたのは、みなし労働時間制の副作用を最小限にしようとしたものであるが、そうした規定を潜脱することになりかねない。

・ 健康管理の観点からは、高度プロフェッショナル制度のように健康管理時間を把握するなど、一定の時間把握は必要になるのではないか。

・ 本人同意の撤回権を設定しても、例えば撤回するとテレワークができなくなるというような制度設計の場合、事実上撤回権を行使できなくなると懸念される。

前述するフレックスタイム制の導入をみなし労働時間制の導入の要件とし、同意を撤回した者に対してはフレックスタイム制を適用することを条件とするなど、実効性を担保する仕組みを設計する必要があるのではないか。

・ みなし労働時間制が適用されると、単月100時間未満、複数月平均80時間以内といった時間外・休日労働時間の上限規制も事実上外れることになり、長時間労働の懸念等が強まってしまう。みなし労働時間制を適用したとしても、労働時間の上限や労働からの解放時間を決めるといった一定の規制を導入する必要があるのではないか。

といった懸念や意見も、本研究会構成員から示されているところである。

自宅等でのテレワークを対象とするみなし労働時間制については、上記の実労働時間管理をする場合の課題を踏まえて、こうした点に関する検討も含め、現実のテレワークにおける一時的な家事や育児への対応等のための中抜け時間が客観的にどういう状況か、企業がどのように労働時間を管理しているのか、みなし労働時間制に対する労働者や使用者のニーズが実際にどの程度あるのかということを把握し、また上記により改善されたフレックスタイム制の下でのテレワークの実情を把握した上で継続的な検討が必要であると考えられる。(労働基準関係法制研究会 報告書 案より抜粋)

勤務間インターバル
働き方改革関連法で導入された時間外・休日労働時間の上限規制は、過重労働を防止する観点から、月を単位として、労使協定によっても超えることのできない上限を設定したものである。一方で、労働者の暮らしと健康を考えると、月を単位とした労働時間管理だけでなく、日々の生活を送る上でのワーク・ライフ・バランスの確保が必要となる。このため、欧州等では、日々の勤務と勤務の間に一定の時間を空けることを義務とする勤務間インターバル制度が設けられている。

我が国では、勤務間インターバル制度は、労働時間等設定改善法第2条において、「健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定」として努力義務が課されており、また労働時間等設定改善指針(平成20年厚生労働省告示第108号)においても一定の記述があるが、概念的な内容にとどまり、勤務間インターバルの時間数や対象者、その他導入に当たっての留意事項等は法令上示されていない。

厚生労働省において、勤務間インターバル制度の導入・運用マニュアルを作成し、時間数や対象者等の設定に当たっての留意点を示しているものの、2023 年(令和5年)1月時点の導入企業割合は 6.0%にとどまっている。他方、制度の導入予定がなく検討もしていない 81.5%の企業のうち、51.9%は「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」と回答している22点にも留意が必要である。また、既に勤務間インターバルを導入している企業の制度設計や、諸外国の勤務間インターバル制度を見ると、様々な適用除外が設けられた上で制度が運用されている。

このような現状を踏まえ、本研究会としては、抜本的な導入促進と、義務化を視野に入れつつ、法規制の強化について検討する必要があると考える。企業に勤務間インターバル制度の導入を求める場合に、具体的にどのような内容の制度を求めるかについては、例えば、

・ 勤務間インターバル時間として11時間を確保することを原則としつつ、制度の適用除外とする職種等の設定や、実際に 11 時間の勤務間インターバル時間が確保できなかった場合の代替措置等について、多くの企業が導入できるよう、より柔軟な対応を法令や各企業の労使で合意して決めるという考え方

・ 勤務間インターバル時間は11時間よりも短い時間としつつ、柔軟な対応についてはより絞ったものとする考え方

・ 規制の適用に経過措置を設け、全面的な施行までに一定の期間を設ける考え方

等が考えられる。いずれにしても、多くの企業が導入しやすい形で制度を開始するなど、段階的に実効性を高めていく形が望ましいと考えられる。

勤務間インターバル時間が確保できなかった場合の代替措置については、健康・福祉確保措置の一環として実施される健康観察や面接指導等といった事後措置を目的としたモニタリングではなく、代償休暇など労働からの解放を確保するものであることが望ましいとの考え方や、代替措置によることが可能な回数について各事業場の労使協議で上限を設定するという考え方が示された。

また、義務化の度合いについても、労働基準法による強行的な義務とするという考え方、労働時間等設定改善法等において勤務間インターバル制度を設けることを義務付ける規定や、勤務間インターバルが確保できるよう事業主に配慮を求める規定を設けるという考え方、これらと併せて労働基準法において勤務間インターバル制度を就業規則の記載事項として位置付け行政指導等の手法により普及促進を図るという考え方、現行の抽象的な努力義務規定を具体化するという考え方等が示されており、様々な手段を考慮した検討が必要と考えられる。(労働基準関係法制研究会 報告書 案より抜粋)

つながらない権利
本来、労働契約上、労働時間ではない時間に、使用者が労働者の生活に介入する権利はない。しかし現実には、突発的な状況への対応や、顧客からの要求等によって、勤務時間外に対応を求められる状況は容易に発生し得る。このような場合に、実際にはなし崩しに対応を余儀なくされている場合もある。私生活と業務との切り分けが曖昧になり、仕事が私生活に介入してしまうことになる。

欧州等では、「つながらない権利」を行使したことや行使しようとしたことに対する不利益取扱いの禁止、使用者が労働者にアクセス可能な時間帯の明確化や制限、「つながらない」状態を確保するための措置の実施(より具体的には労使交渉の義務付け)等を内容とした、「つながらない権利」が提唱されている。例えば、「つながらない権利」を法制化しているフランスの例を見ると、具体的な内容の設定の仕方・範囲は労使で協議して決めており、その内容は企業によって様々であるが、労使交渉で合意に至らない場合には、つながらない権利の行使方法等を定めた憲章を作成することが使用者に義務付けられている。

また、実際に勤務時間外に労働者に連絡をとる必要が生じる際は、労働者と使用者の関係だけでなく、顧客と担当者の関係等も含めた複合的な要因が生じていることが多いと考えられ、当該連絡の内容についても、具体的な仕事が発生して出勤等をしなければならないこともあれば、電話等での対話を行わなければならないもの、メール等が送られてくるだけといったような、様々な段階のものが存在し得る。

こうした点を整理し、勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる。このような話し合いを促進していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが必要と考えられる。(労働基準関係法制研究会 報告書 案より抜粋)

また、報告書(案)の「おわりに」には「本研究会(労働基準関係法制研究会)としては、本報告書において早期に取り組むべきとした事項を中心として、今後、公労使三者構成の労働政策審議会において、労働基準関係法制に係る諸課題についての議論が更に深められることを期待するものである。一方で、中長期的に検討を進めるべきとした事項については、 国内外の実態把握や国際的な動向の把握を進めつつ、引き続き学術的な検討を進めることが必要と考えられる」とも記載されています。

労働基準関係法制研究会 報告書(案)(PDF形式)

なお、アドバンスニュースは「年内(2024年内)に開催する会合(研究会)で報告書を取りまとめる見通しだ。年明けの労働政策審議会労働条件分科会に報告書が示され、公労使が労働基準法など関連法制の改正に向けて議論を開始する」と報じています。

年内に報告書策定へ、労基法巡る有識者研究会 年明けから労政審で議論(アドバンスニュース)

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