S&R shudo's life

ロック、旅、小説、なんでもありだ!
人生はバクチだぜ!!!!

真冬の狂想曲25

2009-10-06 13:21:12 | 真冬の狂想曲
 俺は腹に突っ込んでいたチャカを取り出した。平井と佐々木の顔が強張った。俺はそれを無視して、チャカからマガジンを抜き、銃身をスライドさせて銃身に残っている1発も抜き出した。そしてその1発をマガジンに押し込み、別々にしたまま松に返した。
「俺もう要らんやろ?帰っていいか?」
松は少し悩んだみたいだったけど、視線を1度ノブに移した後、
「いいよ、やっちゃん。ありがとうまた電話するわ」
と軽く言った。その言葉を聞いた後俺は佐々木と平井を見た。何か気に入らない。2人に近寄り平井から順に思いっきり顔を殴りつけた。佐々木は突然の出来事に何が起こったか解らないといった表情をしていた。平井は歯が折れ口から血を流し、佐々木は鼻血を流していた。少し気分が軽くなったような気がした。俺はベッドの横の電気スタンドの下にあるティッシュの箱を2人に放り投げて背中を向けた。

 ドアノブに手をかけたときに、ポケットの中に平井から取り上げた金が残ってる事を思い出した。俺はその金をポケットから取り出した
「松、この金まだ余っちょんけど」
そう言って金を放り投げようとしたら
「なんぼ残っちょん?」
「10万ぐらいは残っちょんよ、数えてねーけど」
松はほんの少し考えて
「いいよ、いいよ、やっちゃん。それ手間賃で持っていき。ノブ、下までやっちゃん送っちゃって」
俺は平井をチラッと見たが、平井はティッシュで口を押さえるのに忙しそうだった。

 俺とノブを乗せたエレベーターが1階に着いたときにノブが
「首藤さん、何百万ってくれるって話でしたよね?おかしくないですか?金も回収したのに」
「いつもに事やねぇーか、アイツが口ばっかりなのはよ。お前もそろそろ慣れてきた頃やろうが」
「でも、一番骨折ったのは俺たちですよ…」
ノブが愚痴るのも解るが、俺は小学校の時からアイツを見てるから、どうせこんな事やろうとは思ってた。ショックは受けてない、ただただ疲れていた。
 俺はポケットからさっきの金を取り出し数えた。1万円札が10枚と後は千円札数枚とジャリ銭だった。俺は1万円札5枚をノブに渡した。
「いいんですか?首藤さん?」
「いいよいいよ、どうせお前は一銭も貰えんやろ」
ノブは2回断ったが、礼を言いながらスーツのポケットにその金を突っ込んだ。俺達はここで別れる事にした。1階まで下りてしまったので、俺はノブがホテルの中に消えるのを見た後、2階まで上がり駅の改札に向かった。

 駅のホームでマイホームタウンに向かう電車を待っている。外気はものすごく寒かったが身体は疲れすぎて火照っていた。自動販売機に平井の金を入れてコーラを買った。冷たいコーラを流し込むと、少し身体も気持ちも落ち着いた。今日は家で眠ることが出来る…。
 しばらくして電車がホームに入ってきた。俺は電車に乗った。結構乗客がいて座る事は出来なかったが、開放感で辛くはなかった。
 
 40分弱電車に揺られて俺の町に着いた。改札出てすっかり暗くなった道を肩をすぼめて歩いた。遠くから「MY WAY」が聞こえる…。俺はコートのポケットの奥で平井の金に埋まってる携帯電話を触った。震えていた。俺は舌打ちしながら携帯電話の通話ボタンを押した。受話器の向こうから素っ頓狂な声が聞こえてきた。
「やっちゃん、もう帰り着いた?来週から平井に倒産整理させるけ、一緒にやってくれん?やっぱ、やっちゃんやないと信用出来んけ」
もう勘弁してくれよ。絶対断ろう。これ以上付き合いきれない。
「やっちゃん、やっちゃん?」
「分かった分かった!何時にどこに行けばいいん?」

 いつになったら普通の生活が出来るんだろう?いや、これが俺の俺達の普通なのかもしれない。せめて今夜は我が家でゆっくりさせてもらおう。また来週からヒリヒリするような毎日が続くのだから…。
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真冬の狂想曲24-4

2009-10-05 15:31:09 | 真冬の狂想曲
 リーガロイヤルに着き、今度はパクと一緒にエレベーターに乗り駐車場まで下りた。パクはまっすぐに松達が中村を押し込んでいる車に向かった。少し気後れしだしていた俺は3m程後ろからついていった。
 パクが車まで辿り着くと、代わりに松が車から降りてきた。二人は少し言葉を交わしたあと、パクが車に乗り込み、松は俺の方に歩いてきた。松はそのまま俺の肩に手を回し、駐車場の出口のほうに歩き出した。片手にはけっこう重そうなバッグを持っていた。坂本から受け取ったバッグだった。
「やっちゃん、とりあえずホテル戻ろうや。あとはそれからやね」
あとはそれからって、この後まだ何かあるのかよって思いながらも俺は松と一緒にホテルに戻る事にした。一瞬後ろを振り返って車の中を見たら、中村は真っ青な顔をしていた。あいつはこれからどうなるんだろうか?

 ホテルの部屋に戻ると、ノブ、平井、そして佐々木がそこにはいた。どうやら松に言われてこの1211号室に来て待ってたらしい。佐々木は平井の前だからかバツが悪そうにしていた。それはそうだよな、佐々木が松に尻尾振らなければ、平井も俺達に捕まることもなかったんだから。

松はゆっくりとした動作で煙草をくわえ火をつけてから、口を開いた。
「平井、お前の思いもいろいろあるやろうけど、これからは佐々木とまた仲良くして俺のために働け。坂本とは話つけとるけ」
「分かりました…」
 平井は唇の端を痙攣させながら短く返事をした。それを見て佐々木が笑いかけたが、平井は視線を外した。
 俺は松に中村がどうなるかを聞こうとしたが、言葉を飲み込んだ。俺には関係無いことだし、だいたいの想像はついてた。しかし平井がその事を松に聞いた。
「中村の事はパクの兄弟に任せたけ、平井、お前なら兄弟がどうするか解るやろうが」
そう言って松は少し口元を緩ませた。平井はそれ以上聞かなかった。たぶん俺と同じことを想像してるんだろう。
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真冬の狂想曲24-3

2009-05-06 13:38:59 | 真冬の狂想曲
 俺達は5分程時間をずらしてコーヒーラウンジを出た。外で待っていた韓国人2人の姿はもうない。松達の姿も見えない。俺は松に電話をしようと携帯電話をポケットから出したが、思い直して携帯電話をポケットに突っ込んだ。これからどう動くかも分からないし、ヘタに動く訳にもいかないから、とりあえず俺はノブをホテルの部屋に戻し、さっきノブの話で聞いた地下1階にある駐車場へ行く事にした。エレベーターは使わず階段で地下1階まで下りた。
ただっぴろく音の響く地下駐車場を出来るだけ音を音をたてずに松達を探した。一番奥の隅の駐車スペースに止まっている車の周りに松達が立っていた。坂本の姿は見えない。俺はもう一度周りをよく見渡した。あの車から10台程離れた場所に停まっているワンボックスの陰に、坂本とパクがあの車に乗っている人間から見えないようにたっていた。視線を「わナンバー」のあの車に戻すと、ちょうど松とスモールパクが両側から中村を挟むように乗り込むところだった。もう一人の韓国人はゆっくりと運転席のドアを開けた。その韓国人が運転席に滑り込むより少し前に後部座席のドアは閉まっていた。
視線を坂本とパクに戻した。二人は松達に背を向けて、エレベーターの方に歩き出した。松達の車に近づくわけもいかないので、俺は二人について行く事にした。二人の乗ったエレベーターのドアが閉まりかけたとき、俺は出来るだけ音をたてずに階段まで走っていき、階段を駆け上がった。腹に差している道具が邪魔で走りにくかったし、寒さと疲れのせいで肺と心臓が悲鳴を上げていた。
急いでエレベーターホールに行ったが二人の姿はもう無かった。俺は慌てて辺りを探した。ホテルと駅とをつなぐ連絡通路があるほうのホテルのドアの向こうに二人の姿があった。俺は息を整えゆっくりと二人の後を追った。雪はもうやんでいたが、寒さは相変わらずだった。

坂本は小倉駅新幹線口に消えていった。それを見届けてるパクが振り返るのを待って俺は声をかけた。
「いったい、どうなってるの?」
いろいろ聞きたかったが、口をついた精一杯のセリフがこれだった。
「サカモトはスジ通したから、もう帰っても大丈夫よ。ナカムラはこれからだね。今からキョーダイのところ戻るけど、シュドさんはどうするね?一緒に行くか?」
 俺はもう行きたくなかったけど、この先どうなるかが気になっていた。ここまできたらもうついでだ。一緒に行く事にした。
 パクと一緒に歩いていると、道往く人達の視線が集まっているのが分かった。そらそうよな、誰が見ても本職にしか見えないもんな。さしづめ俺は借金か何かでヤクザに連れて行かれてるクソに見えてるんだろうか。無性に腹の道具を出して何もかも撃ち放したい衝動に駆られる。なんで俺が今この時ここにいるんだろう。本当だったら家でコタツに入ってゲームのコントローラーでも握り締めてるのに。
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真冬の狂想曲24-2

2009-03-06 15:07:33 | 真冬の狂想曲
 俺は定刻通り夜7時にリーガロイヤルのコーヒーラウンジに入った。坂本はすでにテーブルに着いていた。佐々木と2人だった。ノブは坂本の後ろのテーブルにいた。俺は坂本を見ずにノブのいるテーブルまで歩いていき、わざとらしくノブに待ったかと聞き、坂本と背中合わせに座りコーヒーを頼んだ。さりげなく辺りを見回したがそれらしいのはいなかった。少ししてウェイトレスがコーヒーを持ってきた。普段はブラックでコーヒーを飲むが、今日は砂糖もミルクもたっぷりと入れた。寒さと疲れとストレスのせいで身体が甘いものを欲しがっていた。それをゆっくりと流し込むと、少しだけ生き返ったような気がした。

15分程経ったところでノブが表情を変えた。どうやら松が現れたみたいだ。俺は振り返らなかった。松が坂本の待つテーブルに着いたとき、俺はトイレに立った。知らない顔をして坂本達のテーブルの横を通りすぎた。松は3人で来ていた。坂本の前に松とパクが座り、坂本、佐々木の横にスモールパクが座っていた。他の2人は見当たらなかった。
トイレで手を洗いテーブルに戻るときに、ガラス越しに外を見ると、残りの2人の韓国人がポケットに手を突っ込んだまま、さりげなく店内を覗っていた。雪こそ降ってなかったが今日はとても寒かった。外の2人は寒いだろうななんて思いながら、素知らぬ顔でノブの待つテーブルに戻った。
俺はまた坂本や松達の横をを素知らぬふりをして通り過ぎ、すぐ後ろのノブが待つテーブルに戻った。俺が席を外したのは、ほんの僅かな時間だったが、あらかた話は終わっているようだった。俺がもう一口コーヒーに口をつけると、後ろの連中は席を立った。
俺とノブはすぐには席を立たなかった。俺はノブに俺がテーブルを離れている間にどんな話があったのかを聞いた。話の内容は、まず、坂本が持ってきた金の入ったバッグを松に差出し詫びを入れたそうだ。それから、これから松のやろうとしているシノギに全面的に協力する事と、ホテルの駐車場に停めてあるレンタカーに中村を待たせているという話だった。俺は平然とした顔で聞いていたが、内心は嫌な気分でいっぱいだった。出来ればここで終わりにして家族の待つ家に帰りたいところだ。しかし、あともう少しで全てが終わるだろう。ここまで来て最後までいないと格好がつかない。俺はいつも「男が格好つけきらんくなったら終わりだ」とみんなに言ってきた。その俺がケツをまくるわけにはいかない…。ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干し、もう一度腹を括った。
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真冬の狂想曲24-1

2008-10-26 16:19:57 | 真冬の狂想曲
 5時を少しまわった頃俺の携帯電話が震えた。液晶画面で相手を確認する。ノブからだった。俺は松にノブからの電話だと告げ通話ボタンを押した。
「首藤さん、今新幹線降りたです。ホテルに戻っていいですかね?」
 俺はこのホテルの部屋の状況を見回し、ほんの少し考えて、ノブに言った。
「もうあとちょっとで約束の時間やけ、気付かれんように張り付いとけよ。俺達が行くまでに何かおかしい事があったら連絡せーよ」
 ノブは嫌そうだったが、知った事じゃない。警戒して警戒しすぎる事はない。

 ノブの電話から少しして、今度は松の電話が震えた。佐々木からの電話らしい。松はあまり言葉を発せず、2,3度短い返事をして電話を切った。松は椅子から立ち、ベッドの上に放り投げていた俺の煙草を無断で取り火を点けた。それを深く一服して、電話の内容を俺達に話した。
「坂本のヤツ、案の定、筋者に頭下げに寄ったらしいわ。でも、分が悪いけ断られたみたいやの。まー、こっちの裏の情報も入っとるやろうしの。とりあえず一応警戒はしとって損はないけ、用心だけはしとこう。それからパクの兄弟、坂本がまるっきりこっちの条件を呑んだままでおったら、坂本には手ぇ出したらいかんよ。向こうがちょっとでも反故にしたら、そん時はやらなしょうがないけど。」
 俺はその話を聞いて少し背中が寒くなった。この韓国人達は念を押しとかないと、すぐ行動に走る連中なのだと、改めて解ったからだ。俺はコイツ等と違って堅気のシノギもあれば家庭もある身だ。2週間後には俺のバンドのライブもある。大変な事になる前に逃げ出したいのが本音だった。でももうそれも叶わないだろう。あとは何事もなくすんなりと事が終わるのを祈るしかない。
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