S&R shudo's life

ロック、旅、小説、なんでもありだ!
人生はバクチだぜ!!!!

真冬の狂想曲20-6

2006-12-08 21:54:18 | 真冬の狂想曲
 バスセンターを通り過ぎるとその場所はすぐに分かった。俺は松木社長のクラウンの後ろにベンツを停めて車外に出た。
「平井、一歩も動くなよ」
 俺は平井を恫喝し、前に停まっているクラウンに歩み寄った。俺がクラウンのドアに近づくより早く松はドアを開けてクラウンから降りてきた。それに続きザキも反対側のドアから降りてきた。車内を覗くと松木社長と松木社長が連れてきていた若い者にか乗っていない。
「中村はどうしたん?」
 俺は怪訝な顔を松に向けた。せっかく捕まえた獲物をもう逃がしたんじゃないかと。
「なんかそこの会社で急いで整理せないけん仕事があるらしいけ、それに行かせちょん」
「一人でか?」
「大丈夫っちゃ、やっちゃん。こんな状況までなったら流石に逃げきらんっちゃ。それにその会社を整理せな俺達に金返せないっち言うけ仕方ないやろ」
「ほんで一人で行かせたん?ちょっと甘いんじゃねーの。俺なら絶対一人で行かせんけどのー」
「大丈夫っちゃ、ここで松木社長達も張っちょくんやけ。中村も俺がどんなもんか解っちょろうけ。まぁ、とりあえずホテルに帰ろうや。大丈夫っちゃ」
 松は自分にも言い聞かせるようにそう言った。俺は納得出来なかったが、所詮人事なので松に従った。俺が相手の立場なら、どんな手を使っても絶対この状況から逃げ出すはずだ。やっぱり金持ちは幸せなんだなと思いながらベンツに乗り込んだ。
「平井、お前後ろに行かんか!」
 俺はまた苛立っていた。普段からいつも何かに苛立っていた。普通に仕事をして、ロックバンドをやっていても、ガキの頃全てのものに反抗していた頃や、人の道を踏み外していた頃と変わらない。苛立ちは一つも消えない。
 俺はベンツに松とザキを乗せて乱暴に発進させた。
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真冬の狂想曲20-5

2006-12-06 00:51:47 | 真冬の狂想曲
 コーラを一口飲んだところで「シド・ヴィシャス」が歌いだした。俺はその大音量に気まずさを感じ、急いで通話ボタンを押した。
「やっちゃん、バスセンターの先にバスいっぱい停めちょん所があるけ、そこまで来てくれん?」
「今すぐかよ?」
「そう、今すぐ」
 まだハンバーグステーキが俺達の腹に入ってない。しかしここでそんな事を言っても仕方の無い事は解っていた。
「分かった、すぐ行くわ。場所が分からんかったら電話するわ」
「おう、そうして」
 俺は店員を呼んでハンバーグステーキをもう作り出したか聞いた。店員は軽く会釈して厨房に聞きに行った。
「お客様、今作っているそうです」
「悪いけど、急用が出来てもう行かないけんけ、もう要らんわ。金はその分も払うけ伝票持ってきて」
「少々お待ちください」
 アルバイトの店員は、正社員であろう年配の店員に事情を説明してるみたいだった。間もなくすると、その正社員であろう店員がやってきてドリンク代だけで結構ですと言ってきたが、俺は申し訳なく思い5千円札を1枚レジの横に置き、釣りは要らないと告げ、引き止める店員を無視してベンツに乗り込んだ。どうせ人の金だ。平井は何も言わずベンツの助手席に乗り込んでいた。俺は急いでエンジンをかけベンツを発進させた。ルームミラーの店員が遠ざかっていく。
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真冬の狂想曲20-4

2006-12-03 19:15:04 | 真冬の狂想曲
 駅にはちょうど今9時54分の下り電車が着いたところだ。まだ松達の姿は見えない。ベンツの車内も沈黙が続いている。俺はときどき意味も無く平井を睨みつけた。その度見せる平井の怯えた顔が、この退屈な時間を少し楽にさせてくれる。
 5分後、ザキと松木社長の若い者に身体を拘束された、一見普通のサラリーマン風の男が松と松木社長と一緒に駅から出てきた。あれが中村だろう。5人はそのまま松木社長が乗ってきていたクラウンに乗り込んだ。突然コートのポケットから「MY WAY」が流れ出した。俺は携帯電話を取り出し、通話ボタンを押した。
「やっちゃん、悪いけどどっかで時間潰してきてくれん?後でまた電話するけ」
「いいけどよー、どんぐらい?」
「まだちょっと分からんけ、また後で電話するわ」
 俺は溜息一つついて終話ボタンを押した。またしばらく平井と二人っきりになると思うと気分が重い。仕方なく俺はベンツのエンジンをかけて新飯塚駅を後にした。
 しばらくベンツを転がしていると、ファミレスの「ロイヤルホスト」が目に入った。少し腹も減っていたので迷わずベンツを「ロイヤルホスト」の駐車場に突っ込んだ。俺は平井を先に歩かせ店内に入った。アルバイトの店員に窓際のテーブルに案内された。俺は店の入り口が見えるように座り、平井は入り口に背を向けて座った。メニューを開き、ハンバーグステーキとコーラを頼んだ。平井には同じものとコーヒーを頼んでやった。店員が飲み物のタイミングを聞いてきたので、すぐ持ってきてくれと頼んだ。煙草の吸い過ぎで喉がカラカラだった。
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真冬の狂想曲20-3

2006-12-01 00:29:01 | 真冬の狂想曲
 ザキの買ってきたコーヒーを飲んで俺達はステーションホテル地下の駐車場に向かった。平井は俺とザキに挟まれて歩いている。駐車場に2台分のスペースを取って停まっている白のベンツS500が松の車だ。
「やっちゃん、転がしてくれん?左ハンドル大丈夫やったろ?」
 俺は松からベンツの鍵を受け取りキーレスエントリーのボタンでドアロックを解除して、鍵をコートのポケットに突っ込んだ。新型のベンツを運転出来る事は庶民には滅多にない。俺は喜んでベンツのエンジンを始動した。ザキは平井の腕を掴んだまま後ろの座席に座った。ベンツの持ち主は助手席だ。
 小倉駅北から都市高速に乗り、黒崎で降りバイパスを通り40分程で新飯塚駅に着いた。ベンツに付いているデジタル時計は9時20分と表示している。松木社長はもう駅に着いていた。若い者を一人連れていた。あまり大きくはないがいかにも悪そうな男だ。
「やっちゃん、ベンツ目立つけちょっと離れた所に停めちょって。ほんで平井見よって。ザキやったっけ?お前俺と一緒に来てくれ」
 俺は松とザキをベンツから降ろし、平井を助手席に移動させてベンツを駅から少し離れているが、駅の様子が見える場所へと移動させた。平井は黙っている。
 松とザキは松木社長達と合流し、駅の中へと消えていった。俺はベンツの窓を少し開けて煙草に火を点けそれを目で追った。平井もポケットから煙草を取り出したが俺はそれを許さなかった。神経が少しささくれだっているようだ。俺は深く煙草を吸ってゆっくりと煙を吐き出した。
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