カーネギーが苦労の末につくった鉄鋼会社「ユナイテッド・スチール」は、
どんどん大きくなっていきました。
そしてある日、最初から苦労をともにしてきた年寄りのハンマー打ちを、
カーネギーは自分の部屋に呼んで、こう言いました。
「あなたは長いこと、私と苦労をともにしてきてくれた。
おかげさんで、私たちの会社は、こんなに大きくなることができた。
どうか、私の贈り物を受取ってくれ。」
そう言って、カーネギーは年寄りのハンマー打ちに、一枚の紙切れを渡し
ます。
この紙とは、「今日付けで、会社の重役になってくれ」という、役員への
昇進を伝える辞令でした。
重役に抜擢されるんだから、給料も大幅に上がるわけです。
当然喜んで受け取ってくれるものと、カーネギーは思っていました。
ところが、年寄りのハンマー打ちは、受取ってくれなかったのです。
カーネギーが、「なぜ受取ってくれないのか。わけぐらい聞かせてくれ」
と言うと、ハンマー打ちは、
「私は、年寄りのしがないハンマー打ちだ、
しかし、私がハンマーで鉄をたたきつける時に、カーンという響きが
するが、あの響きは私の命の響きだ。
だから私は、この年まで飽きもせずにハンマーを打ってきた。
真っ赤に焼けた鉄の塊をたたきつけると、火花が散るが、あれは私の
命の火花が散っているのだ。
そういうつもりで、この年まで飽きもせず、ハンマーを振ってきた。
鉄の塊の中に私の命が入っていると思って、飽きもせず、この年まで
ハンマーを打ち続けてきた。
今日、社長のあなたから辞令を受けた。
私のために役員室を用意してくれるという。
すわり心地のいい椅子は用意されるかもしれないが、私の命の響きと
命の火花を散らして塊を作ってきた私のハンマーは、どこへ行くんだ。
社長ほどの人物なら、そんなことはわかってくれていると思っていた。
それがわかってもらえなかったということが、私には残念だ。」
それを聞いたカーネギーは、「私の浅はかさを許してくれ」と言って、
ハンマー打ちが見ている前で、辞令を破り捨てたそうです。
(「いま、感性は力」行徳哲男&芳村思風 著 より)
「損得」で動くのではなく「感性」で動く年寄りのハンマー打ち。
これこそがまさに職人というものではないでしょうか。
【KSBC】神戸スポーツボクシングクラブ
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