今回は、とりわけアメリカ人がこだわるというか、偏愛する「ファースト・ネーム」について書いてみます。
英語の敬称にミスター(Mr.)、ミス(Miss)、ミセス(Mrs.)というのがあると、昔、習いました。今どきは、未婚、既婚を問わず使えるミズ(Ms.)なんていう言い方も定着しているようです。
エラい人、年上の人、あまり親しくない人などに対しては、敬称を使うと教えられ、それが常識だと思ってましたが、ヨーロッパを別にして、アメリカ人に限定していうと、面と向かった場合、お互いの立場を超えて、ファースト・ネームで呼び合うというのが、圧倒的に好まれる、と断言できます。ファーストネームのサインです。
初対面の人と、一通りの挨拶が済めば、「私をジョンと呼んでくれ」などと、ファースト・ネームを確認しあうのが、儀式のようになっています。ファースト・ネームで呼び、呼ばれることが何より大事なんですね。
アメリカのニュースなんかを見ていても、メインキャスターと、レポーター、コメンテーターとかが、頻繁にファースト・ネームで呼び合ってます。
お堅いはずのニュース番組なんだけど・・・・と、日本人には、どうも違和感があります。
なんで、アメリカ人はファースト・ネームにこだわるんでしょうか?
奴隷制が存在していたころ、雇い主に対して、敬称をつけて呼ぶことを強要した歴史的後ろめたさが原因だ、という説があります。
平等主義(あくまでタテマエですけどね)を基本とし、常にフレンドリーさを、確認し合わないと居心地が悪いのがアメリカ人のようです。そして、それを呼称として演出する道具が、ファースト・ネーム、というわけです。
確かにそういう歴史的なこともあるのでしょう。でも、私なんかは、こと「呼称」に関しては、英語が「不自由な」言語という一面を持っているから、とも考えています。
日本語で、相手をどう呼ぶかは、実にバラエティーに富んでいます。「あなた」、「あんた」、「おまえ」、「おまはん」、「あんさん」(この辺は関西系ですが)。姓にでも、名(ファースト・ネーム)にでも、ニックネームにでも「さん」「ちゃん」を付けて呼べる。歌舞伎町だとほぼ全員が「社長」か「大将」。さらには、「部長」「課長」「マスター」などのように、職位、職業で呼ぶこともできる。お互いの親密度で、使い分けるのが日本流で、距離感さえ間違わなければ、便利な言語です。
それに対して、英語で、日常的に使う二人称の代名詞は、you(ユー)一本しかないんですね。だからといって、会話のなかで、相手のことを、youだけで呼び続けるのは、他人行儀、というか、お互いの距離感を縮める気がないような印象を与えて、どうもマズい。
今更、敬称も堅苦しい。でまあ、落ち着くところが、代名詞としては、"you"を「適当に混ぜて」使わざるを得ないとしても、ファースト・ネームを「基本として」呼び合おう、という妥協案ではないか、と愚考しています。
"What do you think about this,Jim?”(ねえ、Jim、このことについて、どう思う?)
のような具合ですかね。とにかく相手のファースト・ネームを覚えておかないと、スムーズな会話にならないわけで、パーティーなどに限らず、アメリカ人との付き合いは大変そうです。
そんな相手の名前を思い出せない時に使える便利な表現を、最後にご紹介。
"What was your name again?" (お名前、なんとおっしゃいましたっけ?) 過去形で訊くのがポイントですね。以前、聞いた覚えはあるのですが、思い出せなくて・・・というシグナルを送って、という訳です。使わずに済むのが一番ですが・・・・
いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。