★★★ 芦坊の書きたい放題 ★★★

   
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第474回 ヘンな生物たち2ー造物主の気まぐれ

2022-05-27 | エッセイ
 前回(第465回ー文末にリンクを貼っています)に引き続き、パート2をお届けします。「へんないきもの」(早川いくを 新潮文庫)をネタ元に、造物主のきまぐれとしか思えない変な生物たちの話題をお楽しみください。

★ザトウムシ★
 パート2もインパクトのある生物からいきましょう。まずはご覧ください。


 一体これは何でしょう、ってクイズにしたくなります。長い脚を杖のようにしてあたりを探る様子から、「座頭市」ならぬ「座頭虫」と呼ばれています。この脚に、触覚、聴覚、雌雄の認識などの感覚器官が集中しています。クモのように見えますが、ダニの一種です。世界に2000種いるといわれ、日本にいる種の脚は18センチにもなり、世界最大です。
 脚の感覚を総動員して、昆虫やクモなどのほか、植物性のものもエサにします。集団でゆらゆらしていることが多いです。少しでも大きく見せようという工夫なのでしょうが、健気な生き方です。

★メダマグモ★
 クモといえば「網」ですが、このクモは、投網(とあみ)で使うようなコンパクトな網を、夜間30分ほどで作ります。格別に暗視能力が高く、ご覧のように、エサが近づくと、パッと網を広げて捕獲します。


 体長は2~2.5センチほどで、南アメリカ、アフリカ、オーストラリアの森林に棲息します。その糸の強度は、同じ太さの鋼鉄の5倍で、伸縮率はナイロンの2倍です。こんな素材を人工的に作る研究が続けられていますが、いまだに実現していないとのこと。こんなところにも自然界の驚異がありました。

★ヤツワクガビル★
 画像は、この生き物の「食事風景」です。手前のミミズを、のたうちまわりながら呑み込もうとしています。


 ラテン語みたいな名前ですが、「ヤツワ」は、八つの輪、つまり体節が八つあることを示しています。「クガ」は「陸」で、ヒルの仲間では珍しく陸生です。画像は白黒ですが、実物は、毒々しい黄色と紺のツートンカラーで、体長は最大で40センチにも及ぶ日本最大級のヒルです。なんだか同士討ちみたいな食事風景で、見る方は食欲が減退しそうになります。

★ウロコフネタマガイ★
 入口というか出口というか、ウロコのようなものが見えていますが、これが身をびっしり覆っている巻貝です。


 このウロコの素材がなんと硫化鉄で、磁石を近づけるとくっつきます。2003年に、海底2500メートルの地点で発見されました。有毒の硫化水素を含む熱水が噴き出している地獄のようなエリアです。ところがここには硫化水素を酸化してエネルギーを得るバクテリアが多く棲息しています。そのため、この巻貝も含めて結構多くの生き物が密生しているのです。住めば都、ということなのでしょう。それにしても、ここまで重装備しなければならないワケは謎です。

★ヒライソガニ★
 最後はほっこりできる生き物を紹介しましょう。


 2003年に三重県の小学生が見つけました。最初は、マジックでいたずら描きしてるとおもわれたそうですが、脱皮してホンモノと確認されました。造化の神さまも、時にはこんな遊び心を発揮してくれるんですね。おかげで最後を楽しく締めくくることができました。

 2回にわたりお届けしましたが、いかがでしたか?前回(第465回)へのリンクは、<こちら>です。合わせてお楽しみください。

 それでは次回をお楽しみに。

第473回 タイタニック沈没は陰謀?

2022-05-20 | エッセイ
 1ヶ月ほど前、なにげなく新聞のテレビ欄を見ていると、夜の10時の時間帯に、Eテレでちょっと気になる番組が目にとまりました。「ダークサイドミステリー E+」との番組タイトルに続けて「陰謀!?タイタニックは沈められた?謎の真相に迫る」とあり、なかなかそそります。天下のNHKですから、まんざら根も葉もない中身でもなかろうと付き合いました(2022年4月19日放映)。果たして陰謀はあったのか、なかったのか、その報告です。

 まずは、一般的な事実関係のおさらいです。タイタニック号は1910年に、北アイルランドのベルファストの造船所で建造されました。全長269m、幅28m、4万6000トン、当時、世界最大規模を誇り、建造費は220億円(現在価値、以下同じ)です。また、船底は二重で、船倉部分の内部は15もの隔壁で仕切られるなど、極めて安全性が高く「不沈船」とも呼ばれていました。
 1912年4月10日、イギリスのサウサンプトンを出航し、処女航海で向かう先はニューヨーク。4月17日に到着の予定です。
 事故が起こったのは、4月14日の深夜でした。氷山に衝突し、船腹に大きな亀裂が入り、わずか2時間40分で沈没しました。乗客、乗員2200人中、1500人が死亡という大惨事でした。

 さて、陰謀説派の主張に耳を傾けてみましょう。主導したのは、ロビン・ガーディナー(1947-2017年)なる人物です。事故原因を調査する査問委員会の中で、タイタニック号を運営するホワイト・スター・ライン社(英国)が、この船に500万ドル(150億円)もの保険をかけていたことが明らかになりました。保険金目的の事故ではないか、との疑惑を抱いたのです。

 陰謀説派が持ち出したのが、船のすり替えという大胆な仮説です。実は、タイタニック号と同時期に、隣のドックで「オリンピック号」というほぼ同形、同規模の船の建造が進んでいました(客室数でタイタニックがわずかに上回っていました)。そして、オリンピック号は、タイタニック号より1年ほど早く就航していたのです。しかし、最初の数ヶ月で、過失による海軍の巡洋艦とのひどい衝突事故、スクリューの脱落事故などを起こし、運営会社の経営を圧迫していました。
 そこで、運営会社の社長イズメイが考え出したのが、両船のすり替えだ、というのが陰謀派の主張です。事故続きのオリンピック号をタイタニック号だと偽って沈没させれば、保険金が入ってきます。手元には、新品の豪華客船タイタニック号が残る、という仕掛けです。両船の画像です(右がタイタニック(同番組から))。確かによく似ています。動機としてはあり得る話です。



 陰謀説派は、査問委員会で明らかになったこんな事実も援用しています。
 事故の当夜、あたりを航行している船から、大きな氷山があるから注意するようにとの無線連絡が、タイタニック号にも入っていました。ところが、その報告を受けたスミス船長は、乗船していたホワイト・スター・ライン社のイズメイ社長には伝えず、独断で全速前進を命じたというのです。わざと氷山に衝突させようという意図があった、との言い分です。確実に沈没するという保証はありませんし、自身と社長の命がかかっています。ちょっと無理がありますね。
 番組では、こう説明しています。当初は、ニューヨークへの到着を17日の朝と予定していました。しかし、スピードをあげて、深夜に到着すれば、新聞の締め切り(午前3時)に間に合い、当日、大々的に報道され、PRになる、というのが社長の意図でした。それを知っていた船長は、警告を無視し、船足を急がせたというわけです。こちらの方が、説得力がありますね。
 一方、陰謀説派は、運営会社の親会社であるモルガン財団のオーナーであるJ・P・モルガンが、出航直前に乗船をキャンセルした事実も怪しいと主張します。でも、当時は怖い病気であったインフルエンザにかかったから、というのが事実のようです。

 そんなこんなで、陰謀派の主張がだいぶ揺らいできたところへ、陰謀を否定する決定的な証拠が出ました。タイタニック号の事故を研究している作家・科学者のチャールズ・ペレグレーノ氏が見つけたのです。(撮影時期は番組では明らかにされていませんが)海底3800メートルに沈む船のスクリュープロペラに「401」という数字がはっきり読み取れました。
 実は、陰謀説派がすり替えたと主張するオリンピック号は、400番ドックで、そして、タイタニック号は、すぐ隣の401番で建造されました。そして、そのドック番号が、それぞれのプロペラに刻まれたことがわかっています。ですから、沈没した船は、タイタニック号に間違いなかったのです。

 事故のその後です。タイタニック号には、イギリス商務省が安全性を認め、乗客、乗員の半分程度用の救命ボートしか用意されていませんでした。それが、多大な犠牲につながったとの反省から、安全対策が見直されたのです。全員用の救命ボートの設置、氷山の監視などの安全対策を義務付けた国際条約の締結へ至ったことを番組では伝えていました。尊い犠牲を払った上での安全対策です。
 歴史を書き換えるような新事実はなかった、との結論に、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。これに懲りる(?)ことなく、引き続きご愛読ください。
 それでは次回をお楽しみに。

第472回 エッセイで「しりとり」

2022-05-13 | エッセイ
 読んだ本からのネタを中心にやりくりして、(エッセイのつもりで)続けているこのブログ。
 やっぱりプロは違うな~、とため息が出たのは、「青豆とうふ」(和田誠/安西水丸 中公文庫)という「しりとりエッセイ集」を読んだ時です。一方のエッセイの最後の話題を、もう一方が、しりとりし、書き継いでいきます。イラストだけでなく、エッセイでも健筆をふるわれたお二人ですので、「しりとり」というシバリをものともせず、楽しい話題がうまくつながって、十分に堪能しました。

 その「しりとり」に、芦坊(ろぼう)こと私も勝手に相乗り(割り込み?)しました。で、その前に、本のタイトルの由来です。
 安西が、村上春樹と食事をしながら、今回のエッセイ集のタイトルを考えてくれと頼みました。「そんなことは、とても、とても」といいながら、ふと「青豆とうふ」という言葉が村上の口から出たのです。それは彼がその時食べていたもので、そのユルさが安西の気に入って「それいただき」で決まりました。「青豆とうふを食べてくれていてよかったと思います。納豆つくねきんぴら添えだったらどうなっていたでしょう。」(同書から)との前書きに、思わず頬が緩みました。さて、しりとり例のご紹介です。

★ここから安西水丸★
 和田(WADA)という名は、アイウエオ順だと最後、アルファベット順でも終わりの方です。それであまりいい思いをしたことがないという和田の体験談を受けて、安西も、本名が「ワタナベ」なので同じ思いを共有したと書き出し、自身のペンネームへ話題を展開します。
 平凡社という出版社に入社し、そこにいた嵐山光三郎(本名は、「祐乗坊英昭」というゴツイもの)からペンネームを名乗るようすすめられます。祖母の実家が「安西」であり、小さい頃、自宅のモノに「水」を丸で囲った印を付けていたのを思いだし「水丸」にしたといいます。こんなイラストを載せています(同)。嵐山から「そよ風吹之進」と「椿咲之助」という名前を提示されて、断るのに苦労したと明かしているのがちょっと笑えました。


 
★ここから「芦坊」の相乗り★
 ブログタイトルで使っている「芦坊」はもともとは私の俳号です。いきつけの店の句会用に自分で考えました。お店でよく冗談半分で「オレって、芦屋の坊っちゃんだから・・・」と言っていたのにちなんでいます。「ろぼう」と3文字なのも言いやすかったようで、お店ではすっかり定着しました。ググっても、今のところ、私のブログがトップにヒットします。結構ユニークな名前だったんだと、気に入っています。

★ここから和田誠★
 ペンネームの話題を受けて、和田は、得意の洋画のジャンルで、スクリーン・ネーム(俳優名)の蘊蓄(うんちく)を傾けます。また、若い音楽関係者で「和田誠」という同姓同名の人物がいて、本も出したりしていたので、ちょっとした混乱があったことなども書いています。
 そして、奥様で料理研究家の平野レミさんの「レミ」(本名です)に関わる「粋な計らい」に話が及びます。
 夫婦でニューヨークに滞在中「レミ」という名のイタリアンレストランに入りました。ウェイトレスに店名の意味を訊ねると「ゴンドラ漕ぎ」との答えが返ってきて、メニューにもその絵が描いてあります。ウェイトレスに記念に欲しいと申し出たのですが、答えはノー。売って欲しいと頼むのですが、これもノー。「実は、妻の名前がレミなんだ」と言うと、彼女からこんな返事が返ってきました、
「メニューはあげられません。売ることもできません。でも、あなたが持って行くのを見ないでいることはできます」(同)う~ん、確かに「粋な計らい」ですね。

★ここから安西水丸★
 しりとりで、海外旅行にまつわるこんな体験を描いています。観光ビザで入国し、ニューヨークで仕事していた時のことです。3週間経って、国外退去の通達が来たので、移民局に出向いて、滞在延長の手続きが必要になりました。簡単には認めてもらえませんから、病気を理由にするつもりでした。順番が来て、書類を出し、緊張しながら理由を切り出そうとすると・・・
 「「メッツのファンかい」葉巻を灰皿に置いた係員が言った」(同)といいます。安西がウィンドブレーカーの襟にニューヨーク・メッツ(メジャーリーグ)のピンバッジを着けていたのに係員が気がついたのです。「「俺もメッツのファンなんだ」係員は握手を求めてきた。パンパンとスタンプが延期申請の書類に押された。なんと半年も延期してくれたのだった。」(同)
「粋な計らい」というか、「古き良きアメリカ」を彷彿とさせるエピソードですね。

 厚かましく相乗りしながら、しりとりエッセイの一部をご紹介してきました。いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。

第471回 英語界の最新事情 英語弁講座37

2022-05-06 | エッセイ
 英語に限らず言葉は生きものです。一時的な流行で終わってしまう「短命な」新語もある一方、社会的な意識が変わる中で、意味合い、用法、受け入れられ方などに変化が起きているものもあります。変化の背景にも触れながら、英語という言葉の最新事情の一端を探ってみました。参考にしたのは、「英語の新常識」(杉田敏 インターナショナル新書)です。難しい単語は出てきません。最後までお付き合いください。

★三人称単数の" they " ★
 まずは、ジェンダー(gender=社会的、文化的な性差別)への取り組みです。女性の社会進出が進む中で、"man”が付く職業名の言い換えはすっかり定着しています。
" business man -> business person(実業家)" 、" fireman -> fire fighter(消防士)"、
" police man -> police officer(警察官)"などという具合です。
 女性だけが未婚か既婚かで呼び方が変わる(Miss(ミス)とMrs.(ミセス))のも問題とされ、1970年代頃から、Ms.(ミズ)という呼称が広く使われています。それでも性差という問題は残るというので、男女共用で使えるMx.(発音はmiks(ミクス))という言葉が広まりつつあるといいます。
 さて、英語の三人称単数代名詞は、男性なら " he " 、女性なら " she " です。でも、男女で代名詞を使い分けるのはおかしいという意見があり、また、性が多様化する中で、本人がどちらを使って欲しいのか、という問題もあります。なら、いっそう、 三人称複数の "they" を単数でも使ってしまおうという流れが出来つつあるというのです。いろいろ試行錯誤が続いています。

★スポーツのチーム名変更★
 人種のるつぼといわれる米国では、人種的偏見は抜きがたいものがあり、呼称を巡る議論も熱いです。日本語の「黒人」、英語では " black "という呼称には、肌の色で差別する響きがあって、使いづらく感じます。 " African American (アフリカ系アメリカ人)" という言い方が、1980年代頃から広がってきました。でも、カリブ海諸国やヨーロッパから移民してきた人たちも多いです。また、奴隷出身であることに誇りを持っている人たちもいます。" Black " と大文字にする工夫も広まりつつあるようですが、それなら、おれたちも " White ” と表記しろ、という人たちもいて、こちらも試行錯誤のようです。
 さて、アメリカの先住民の人たちは、長らく " Anerican Indian(アメリカン・インディアン)"
と呼ばれてきました。元はといえば、インドに到達したとのコロンブスの勘違いに端を発し、軽蔑的な響きがあります。先住民族との意で、" Native American(ネイティブ・アメリカン) " がもっぱら使われます。
 そんな流れの中で、つい最近、チーム名を変えたのが、アメリカン・フットボールのワシントン・レッドスキンズ(WASHINGTON REDSKINS)です。 "redskin(赤い肌)" は先住民への蔑称だとしてずっと以前から変更を求められていました。新たな名前は "COMMANDERS(コマンダーズ(司令官))です。新旧のチームロゴがこちら。新しいロゴ(右)はずいぶんすっきりしましたね、長い道のりでした。


★大文字もピリオドも使わないーネット時代の英語★
 重たい話題が続きましたので、PC、ネット関連の軽いテーマを取り上げることにします。
 1980年代の後半、ノートパソコンが普及しだしました。その時、それで大学などでの講義のノートを取ることの是非がアメリカで問題になったといいます。授業中にネットサーフィンやゲームに耽るというマナー以前の問題もあります。でも、機械的に講師の一言一句を打ち込むことにばかり集中して、話の中身を理解したり、考えたりするのが後回しになる、というのがより大きな問題になりました。講師によっては、持ち込みを禁止にしている方も多いとのことで、なるほどと感じました。
 文章にも変化が現れています。大文字と小文字をシフトキーを押して切り替えるのが面倒と感じる人が増えたのです。「私」を表す" I (アイ)" も小文字の " i " で済ませ、ピリオドも打たない、というのがそれです。アップルの創業者、かのスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)が19歳の誕生日の前日に書いた手紙がオークションで落札されました。その書き出しは、
 i do not know what to say と始まっていて、全文、ピリオドは一切使っていません。アポストロフィも抜きで do not などとしています。彼自身の名前も、steve jobs と小文字でサインするほどの徹底ぶりです。いかにも彼らしい先見性とこだわりだな、と感心しました。

★95歳のヤング★
 「高齢者」をどう呼ぶかは、洋の東西を問わず微妙です。さすがに、" old " は避けて、
" senior(シニア)" とか " elder(エルダー)"とかの言葉が好まれるようです。
 私の経験です。少し前のこと、アメリカのTVニュースで,英国のエリザベス女王が95歳の誕生日を迎えたことを伝えていました。それを伝えるキャスターがいわく、" She is 95 years YOUNG. "
 年齢を表す記号としての"old" を使わず、そこまで気を遣う?と思わず頬が緩みました。

 いかがでしたか。差別意識や偏見を持たないことが基本中の基本です。その上で、心ない言葉使いで人を傷つけないための(あくまで現時点での)情報として参考にしていただければ幸いです。

 それでは次回をお楽しみに。