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第478回 「どない」と「いらう」 大阪弁講座50

2022-06-24 | エッセイ
 区切りの第50弾をお届けします。引き続きご愛読ください。

<どない>
 「そういえば、「どない」という大阪弁があったけど、「どない」書こうかな」と思わず考えました。共通語だと「どのように」でほぼカバーできますが、大阪弁だともう少し幅広く使えます。

 まずは、「どのような」様子、状況であるかを訊く基本的な用法です。
 「商売のほう、「どない」でっか?」「まあ、ぼちぼちでんな」と、全国的にも有名な大阪の商売人同士のやりとりが思いつきます。ただし、相手の商売、経営状況がどうなのか、なんてまったく気にしてません。「こんにちは」の挨拶代わりに使うのがもっぱらです。大阪弁の教科書があれば、はじめの方に間違いなく載るであろう例文です。
「風邪ひいてるて聞いたけど、「どない」や」と体調を尋ねる気遣いもできます。
 また、双方の言い分が違ってたり、物事が紛糾したりした時には、
 「あっちはああ言う、こっちはこう言う。いったい、「どない」なってんねん」と、非難めいた調子で、事態の説明を求めるのもよくあるケース。

 「どのようなやり方、方法で」との意味合いで使う用法もあります。
 「この機械、「どない」したら動くんかいな(動くのかな)」と操作方法などを訊く単純な使い方がまずは基本。
 また、「えらいこと(とんでもないこと)してもた。「どない」しょ」と言えば、「どう誤摩かすか、知らんフリするか、責任転嫁するか」などロクでもない、その場しのぎの対処「方法」を考えあぐねている図が思い浮かびます。

 ちょっとした提案、助言にも使えるんですね。
「そないに(そんなに)1人で悩まんと、誰かに相談したら「どない」や」
親身になってというほどのものではないけれど、とりあえずのアドバイス、という感じで、使い勝手がよく、大阪人好みの言い回しです。

 「どないとなる」というと、(そう心配しなくても)どうにかなる、なんとかなる、というちょっと無責任で楽観的ななぐさめのセリフになります。
「この世の中で起きたことやろ。この世の中で「どないとなる」わ」

 最後に上級の使い方として、「~して「どない」する」というのがあります。まずは例文から。
「おまえは、教えてもらう立場や。それが、そないにエラソーな態度して「どない」すんねん」
 おまえは自分の立場をどう考え、どう振る舞うつもりやねん。しっかりせいよ、とまあ結構キツい言い方です。非大阪人の方は、あくまで知識として、お知りおきください。

 漫才の横山やすしさんのイラストです。「それが「どない」したちゅうねん(どうしたというのだー>大したことないやろっ」と、開きなおったようなセリフが聞こえてきそうです。


<いらう>
 大阪、関西以外で使われてるのをあまり聞いたことはありません。純粋の大阪弁か自信がなかったので、広辞苑で調べました。
「弄(いら)う」として載ってました。意味するところは、(1)もてあそぶ、いじる、さわる (2)からかう、おもちゃにする (3)手入れをする、修理する

 歴(れっき)とした日本語だということがわかって安心しました(?)けど、やっぱり大阪弁という感じがします。広辞苑でも「もてあそぶ、いじる、からかう」などの字義を採用していることからも、単に「さわる」とか「触れる」ではなく、悪意がこもってたり、乱暴に扱うニュアンスがあります。なので、否定的文脈で使うことが多いようです。

 「そないに雑に「いろうたら(さわったら)」あかんで。壊れるやないか。あんじょう(丁寧に)扱うてや」との例文が思いつきました。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。

第477回 ロンドンの地下鉄に乗ろう<旧サイトから>

2022-06-17 | エッセイ
 海外に行った時には、仕事での場合でも、時間、チャンスがあれば、鉄道(路面電車、地下鉄なども含めて)に乗るのをちょっとした楽しみにしてきました。「乗り鉄」といえるほどアツくはないですが・・・

 利用するためには、路線、運賃、切符の買い方などいろいろ情報をあらかじめ集めなければなりません。また、発車時刻、出発番線など現地での確認も欠かせません。乗車してからも、下車駅、乗り換え駅を乗り過ごしたりしないよう気が抜けませんし、ちゃんと目的地に向かってるのかな、などのドキドキ感もあります。
 そんなハードルを乗り越えて、実際に乗車することで、その国や都市を、ほんの少しだけ自分のものにできた、という満足感に浸り、思い出作りをしてきました。

 今回、<旧サイトから>の第10弾として話題にするロンドンの地下鉄は、訪れる機会が多かったこともあり、最もよく利用した鉄道といえます。なにしろ古い鉄道です。でも、それだからこそ便利で利用しやすいのはなぜか、を私なりに探ってみました。時節柄、海外旅行はままならいない状況ですが、英国の合理的精神の一端を読み取っていただければ幸いです。

★以下、<旧サイト>の本文です★

 昨秋(注:2012年)、久しぶりに、ロンドンを訪れる機会があり、充分な時間は取れませんでしたが、地下鉄乗車を楽しんできました。1863年開業という古い歴史を持ち、11路線、総延長402km、270の駅で、市内をカバーしているのが便利です。加えて、感じるのは、本当に利用しやすいなあ、ということ。なぜそうなのか、私なりに紹介してみます。
 赤い大きな丸に横一文字、その中に、「UNDERGROUND」(地下鉄)と書かれてある標識が、地下鉄への入口の表示です。


 そして、その入口ですが、普通は、道路の両側2カ所くらいしかありません。大きな交差点でも、その角4カ所くらいです。そして、階段を下りきったところが、すぐ、切符売り場と改札というシンプルな構造になっています。ただし、スペースは狭いところが多いです。
 日本のように、何十と入口があったり、乗換え通路が何カ所もあるのは便利なようですが、やたら歩かされたり、迷ったりとロクなことがありません。改札が1カ所で、切符売り場と一体になっているのは、当時の工事上の制約とはいえ、実に分かりやすく、便利です。

 ここで、切符の購入について触れておきます。日本の基準で言うと、ロンドンの地下鉄の値段は高いです。初乗りが500円くらいします。そのかわり、一日乗り放題の切符というのがあって、1100円くらいですから、2回乗れば、ほぼ元が取れるわけで、旅行者には、これがお奨めですね。駅の自動販売機で簡単に買うことが出来ます。

 さて、改札を抜けて、ホームに向かいましょう。ホームへのルートは、一つしかありませんのでご安心ください。いくつかの路線が乗り入れている場合でも、その路線ホームへのルートは一つだけです。長いエスカレーターを乗り継いだり、細い通路を歩かされたりすることもあります。でも、色分けされた路線表示にしたがって進めば、間違いなく目的のホームに出ます。

 ホームは、一つの島になっていますので、右か左か、表示を見て、目的の駅へ行く方を選ぶだけです。日本でよくあるように、地下道をくぐって、行き先側のホームへ、というようなことはありません。
 ただし、当時の工事上の制約でしょうけど、ホームは短く、狭いです。車両も6両くらいの編成です。ご覧のような状況です。


 その代わり、日本でのように、降りる駅での都合を考えて、乗る位置を考えたり、長いホームを歩かされたり、というメンドウからは解放されるのがメリットです。
 目的駅に着けば、「WAY OUT」(出口)の表示(乗り換える場合は、その路線の表示)に従って進めば、一カ所しかない改札、または乗換路線のホームに迷うことなく行き着きます。地上への出口も、さきほど書きましたように数カ所なので、せいぜい道路の反対側に出るくらいのことです。
 出入口は多い方が便利などという過剰で、貧乏性な日本的基準と比べて、なんとシンプルで快適なことでしょう。ロンドンを訪問する機会があれば、是非ご利用をおススメします。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。

第476回 テルアビブ事件ーひとつの解

2022-06-10 | エッセイ
 あれからもう50年になるのですね。新聞の特集記事を見て思い出しました。
 1972年5月30日に起きたテルアビブ事件のことです。日本赤軍の奥平剛士、安田安之、岡本公三の3人が、テルアビブのロッド空港(現ベングリオン空港)で銃を乱射した無差別テロで、死者26人、負傷者70人以上を出しました。現場となった空港(現在)です。


 奥平、安田の二人は、乱射後、手榴弾で自殺、生き残った岡本だけが裁判にかけられ、終身刑の判決を受けました。その後、釈放され、現在はレバノンに政治亡命中です。そして、パレスチナとイスラエルの対立というだけでは説明できない大きな謎が残りました。 
①一般市民の大量殺戮という政治的にはマイナス効果しか生まないような作戦が、②日本赤軍という世界的に見ればマイナーな組織によって、③テルアビブという地で、実行されました。その背景に何があるのか・・・私も含めて、事件を知る多くの人が抱く疑問です。
「独占スクープ・テルアビブ事件」(「思索紀行 下」(立花隆 ちくま文庫)所収)を読んで、極めて説得力に富む「ひとつの解」を得ました。当時、立花はたまたま中近東を放浪中で、週刊文春の依頼を受けて、岡本との面会、裁判傍聴、周辺取材などを行い、同年7月の判決直後に誌上に発表したものです。
 その解を先に言ってしまうと、「真の狙いはダヤン国防相の暗殺だっと」という衝撃的なものです。
 まずは組織の関与です。CIAや西側諜報組織は、「国際革命機構」という組織の存在をつかんでいました。日本赤軍のほか、PFLP(パレスチナ解放機構)、アイルランドのIRAなど世界の最過激組織を網羅し、強固な組織力、軍事力、豊富な資金力を誇る組織です。先ほどの、②なぜ日本赤軍が、③なぜテルアビブで、という疑問の背景に、この組織が浮かび上がってきます。また、事件直前の岡本ら3人の足取りからも、この組織と接触があり、なんらかの指示を受けていた可能性がある、とも立花は言及しています。

 いよいよ、①なぜ政治的にマイナス効果しか生まない作戦が実行されたか、の謎に挑まなければなりません。
 岡本の尋問には、国防省ナンバー3のゼービ将軍が当たりました。重大な事件ではありますが,これだけの高官が直接尋問するのは極めて異例です。イスラエル当局は、国際革命機構の関与を強く疑い、本当の狙いを必死に探ろうとします。そのため、ゼービと岡本は、その情報と、岡本の自殺用ピストルとの交換協定にサインまでしています。その協定書は、関係者了解のもと、保管責任者の名は切り取られて、法廷に提出されました。

 取材を続ける立花は、現地の情報通からある情報を得ます。それは、「当局がこんなに必死になっているのは、ダヤン暗殺計画が真の狙いじゃないかと考えてるからなんだ」(同)というもの。その情報通はそれ以上のことを明らかにしてくれませんでした。しかし、この情報で、それまでばらばらであった情報が「ダヤン暗殺計画」へと収斂します。
 まず、先ほどの協定書で切り取られた保管者の名前は、岡本が心情的に信頼を寄せ、国家を代表できる人物とすれば「ダヤン」しか考えられません。尋問に立ち会っていた可能性もあります。種々の情報も総合し、本人も、当局も、ターゲットはダヤンであるとの確信を得ていたはずです。

 では、銃乱射事件とは何だったのでしょうか?
 ダヤンを空港に呼び寄せるための前段の作戦だった、とすれば謎は解けます。ダヤンは、仕事熱心で、重大な事件などがあれば、自ら率先して乗り込む習性がありました。事実、この時も、25分後には、現場にかけつけています。しかし、彼の自宅なり、国防省からこんな短時間に駆けつけるのは無理ですから、暗殺を狙うグループは、彼が空港の近くにいることを掴んでいたはず、と立花は推理しています。
 イスラエル当局も、ある程度の情報は得て、警戒していたのでしょう。暗殺は実行されませんでした。本当に暗殺計画はあったのか、暗殺団が現地にいたのか、についての確証はありません。間接的ですが、立花は2つの事実を取り上げています。

 まずは、「事件直後にベイルートのPFLP本部が発表した声明である。その中で、ロッド空港にはPFLPのゲリラ5人が事件当時おり、それぞれの任務を果たして無事帰還したというくだりがあった」(同)という記述です。真偽を別にして、ひとつの重要な情報には違いありません。
 さらに「事件後に開かれた国会で、あの事件を未然に防げなかったのかという討論があったのだが、その中で、ある国会議員が「諜報機関では、あの事件に関して一つの手落ちがあったことを認めている」という発言をしている事実である。」(同)とあります。
 「一つの手落ち」という言葉が重いです。ダヤン暗殺計画については、ある程度、情報は得ていたものの、「もうひとつ」の乱射事件の情報が、欠落していたことを暗示していますから。

 立花は記事をこう締めくくっています。「こう考える(それまでの一連の推理、推論を指します:芦坊注)以外は解釈がつかないナゾが多すぎると思うのである。むろん、ことの真相がどうであったかは知るよしもないのだが・・・・」(同)プロの取材力、推理力に脱帽です。
 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。

第475回 椎名誠のアイスランド

2022-06-03 | エッセイ
 国の名前で随分損をしているなぁ、と思うのが「アイスランド」です。北ヨーロッパの北大西洋上に位置する島国で、すぐ北に、で~んと「グリーンランド」というデカい国が控えています。実際はこの国のほうが「氷の国」と呼ぶのにふさわしい北極圏の国です。ヨーロッパからの移民を推進する山師のような人物が、あえて「緑の国」と名付けたとも言われています。
 最近、椎名誠の「アイスランド 絶景と幸福の国へ」(椎名誠 小学館文庫)を読んで、副題にもあるように、この国が、その名前とは裏腹に、いろんな意味で豊かな国であることを知りました。2014年、3週間かけて行われた旅行を追いながら、3つの切り口で、ご紹介することにします。

★幸せで安全な国★
 面積は本州の半分ほどで、人口は約36万人(2020年)です。北の一部は北極圏に入りますが、メキシコ湾からの北大西洋海流のおかげで、首都レイキャビクでも、冬場の気温は5度くらいと東京並み。そして、夏も20度を超えることはほとんどありません。まずまず快適な環境といえます。質素で清潔なその街並みです(同書から)。


 軍隊はありません。警官は銃を携行していません。殺人事件もほとんどなく、旅行中、パトカーを見かけたことは一度もない、と椎名は書いています。道路の制限速度が90kmというのに驚きました。昼間でも点灯が義務付けられているとはいえ、自己責任が徹底しているオトナの国です。
 消費税率は25%と高いです。でも、6歳から16歳までの義務教育は無料、医療費も無料(歯科は有料)とキチンと国民に還元されています。
 さて、そんな国での暮らしを人々はどう思っているかのデータが紹介されています。コロンビア大学が国連の支援を得て行なっている「世界幸福度レポート」の2013年版によると、1位デンマーク、2位ノルウェー、3位スイスなどについで9位だというのです(2020年は4位。ちなみに日本は43位)。
 目先の便利さ、快適さとは一線を画する「幸せな」暮らしぶりが想像されます。この国では、10人に1人が本を出版する「出版大国」だ、というのを別の本で読んだことがあります。高い教育水準と暮らしの余裕があってこそ、なのでしょう。

★エコな国★
 この国には、原発、火力発電所はありません。水力と地熱発電で電気を作っています。「火山の国」にふさわしく7つの地熱発電所を持ち、必要量の29%をまかなっています。その内のひとつを椎名も訪問していますが、コンピュータ化が進み、あまり人員はいません。「いったんシステムを作ってしまうと、発電エネルギーである地熱は限りなく噴出されてくるからだろう。」(同書から)
 発電に利用されたあとの熱い湯はパイプで各家庭に送られます。60度ほどで入ってきた湯は、キッチン、風呂、床暖房などに利用され、20度ほどになって出ていく仕組みです。料金は月額6千円ほどとリーズナブル。冬の暖房費の節約にもなる合理的なシステムです。
 椎名が訪問した一家では、地熱を利用して、パンを作っていました。庭の一角に1メートル四方くらいの穴があけられています。そこにパン生地を入れた缶を置いておくだけです。24時間するとほかほかのパンが出来ます。時間はかかりますが、エコで、なかなか美味しそうです。
 
★ワイルドな自然もある国★
 世界各地を冒険、探検してきた椎名ですから、この国のワイルドな自然も堪能しています。
 氷河が削り取った険しいフィヨルドを探訪した後、彼が目指したのは、アイスランド最西端の地、ラウトラビャルクです。切り立った断崖が14キロも続くところで、444メートルと一番高い崖の際に立ちました。一番上にポツンと見えるのが椎名です(同書から)。


 ロープとか注意書き看板などの無粋な人工物は一切ありません。自然保護と「自己責任」です。淵は、岩がもろくなっていたり、風向きが急に変わることもあります。「自分の精神や正常なバランスを保てるギリギリのところまで縁に寄っていくことにした。自分の中で危険信号がキリキリいいだす直前まで行って崖の下を覗き込んだ。」(同書から)あの椎名にしてこの緊張ぶり。ちょっと頬が緩みました。

 最後のハイライトは、当然「火山」です。ジュール・ベルヌの冒険小説「地底探検」で、その火口が地底への入り口と設定されたスネッフェルス山(標高1500m)へ登頂しています。富士山をだいぶなだらかにしたような山容で、麓まで氷に覆われています。アイゼンを装着しての日帰り行程で、ベルヌの愛読者である椎名にとっては、ひときわ感慨深い登山だったようです。

 いかがでしたか?なかなか魅力的な国ですねぇ。それでは次回をお楽しみに。