「17日黙祷させられたじゃないですかぁ」
話し出したのはうちの店のパート@31歳既婚。
おととい 入店先のスーパーでは
当日出勤の従業員一同 正午に黙祷したそうだ。
わしはその日休みやったので
スパワールドの いっぱいテレビの並んだ休憩所で
「学校へ行こう」の涙そうそうを聞きながら
隣に映るNHKの野島断層の図を見てた。
あらまー うちの家断層の真上やんかいさ
そら潰れるわなー なんて感心しながら。
パートの話は続く。
「で、思い出したんですけど、
地震のとき大学の寮にいたんですよー。
どこも水なんか出ないじゃないですか。
でもうちの寮は貯水タンクが立派だったんで 水が出たんですよ。
でも近所は出ないから 川へ水汲みに行ったりしてて大変やったんですよ。」
ほうほう。
うちもしばらく 近所のスーパーの寮の廊下で寝かしてもらってたなあ。
エレベーターの前がうちの陣地でさ。
でもあそこ入れてくれてなかったら 死んどるぞ、たぶん。
「うちに水あることがわかったら
近所の人来ちゃって大変でしょう?
だから私が寮母さんに言って 寮生にも近所にバレたら大変だからって
みんなで水出ることわからないようにして
トイレも出来るだけ 静かにしようねって 大変だったんですよ。」
え?
言ってることの意味がわからず黙ってると
「それをね、一緒に黙祷したパートさんに言ったらね、
あなたは昔からよく頭が廻るのねって 言われたんです。」
こいつの言わんとすることが さっぱりつかめんわしがアホなのか?
お構いなしでありがたいお話は続く。
「なんか地震のとき大変やったみたいなこと
パートさんが言ってたんですけど どうやったんですか?」
なんでそないに嬉しそうに聞くんだろうな?
まあ、ここは神戸の店じゃないし、このパートはもともと大阪のひとやし
そういう感覚が普通なんかな。
しかたなく ドリフのコントみたいに全壊やで。と言ったら
「へ~(笑) 」
今更こいつに説明しそうになってる自分に腹がたってきた。
興味本位な方には お得意のネタでさっさと締めるに限る。
風呂入れないから 大阪へ風呂入りに行ったら浮いた話。
みんな綺麗なかっこして歩いてるなかに
三つ編みにリュックでさー
髪なんか 三回ぐらいシャンプーしないと 泡立たへんやん。
「ほんま神戸から来た子ってすっぐわかったもんねー、
あったあった、そういうこともねー(笑)」
あったあったで 適当に盛り上げて 後は急に違う話をふって
強引に地震の話を終わらせてしまうのだ。
そういえばパートさんさー
あなたは頭廻るのねー の後に なんか言ってなかった?
最近元気なくて困るんよー すぐ私はダメだダメだって話になるからねー…
神戸に地震があったのは もうえらい昔の話。
今更こんなこと延々書いてる自分にも
なんだかなあ ちょっと納得行かないとこもあるんやけどさ
まだ神戸で働いてた頃
毎年1月17日が来るたびに、うちの店のやつらはみんな
うちの店に来るお客さんたちから
それぞれの 「あのとき」の事を少しずつ聞いてきた。
わしらが聞かなくても 勝手になんとなくそんな話になるのだ。
あの時どうしてた? から話を始めて
この人ならわかってくれるかどうか もう一回確認する感じで
当たり障りのないところを少しだけ 世間話っぽく。
わしらはそれを 聞いてるだけ。何にも言えないよね。
しゃべったあと ほとんどのお客さんが
照れ臭そうにちょっと笑って またねって帰っていったなあ。
もちろんたいていのひとは 普通に そんな話いっさいなしで
いつもとおんなじなんやけど。
不幸自慢なんてしたくないし
わけわかんないひとに わかるわかる言われても
どうしていいか困っちゃうから
みんなあんまり話すことはない「あのときのこと」。
10年てさ。
その間に 世間じゃ 次から次から災害や 不幸な事件や
いろんなことがいっぱい起きて
わしらにもいろんなことがあって
なんだか今思うと 10年前ってほんと遠い。
でもいまだに 忘れたくっても忘れられないひとが
まだまだたくさんいるんちゃうかなあ。
大事なとこは
見せないで 自分らの中に ちゃんとしまってあるからね。