たしか教室の黒板の上に、
誠実、清潔、整頓という
文字が掲げられていたけ。
げんき、ゆうき、のんき。
こんな教訓なら、もっと
素直に育ったのに。
彼は、自分の持っている
すべての優しさを注ぎ込む
ようにして、微笑んだ。
その微笑みは、わたしだけ
に向けられているようにも
見えたし、わたしを通り越
して、
宇宙の彼方を彷徨(さまよ)
っている惑星の住人に向け
られているようにも見えた。
わたしたちはグラスを合わ
せた。カチッ、と音がして、
何かがつながり、もう二度
としないと決めていた恋が、
控え目に始まった。
心細いような、心許せないような、
こんな嵐の夜には、どこからかあ
の人の声が聞こえてくる。
時間も距離もかるがると超え、わ
たしはあの頃に連れ戻されてしまう。
―――大丈夫だよ。キミはなにも、
心配しなくていいから。
―――俺に任せておいて。何もかも
ちゃんとするから。
―――キミは俺の大事な宝物。簡単
に別れないよ。
わたしを弄んだ、なつかしい、わた
しの昔の恋人。
あれは、あまりにも手痛い失恋だっ
た。そえゆえに、それはガラスに刻
まれた文字のように、わたしの心に
残っている。痛みは、静かな嵐のよ
うにやってきて、樹木をたまわせ、
木の葉を震わせ、わたしの根源を
揺るがせようとする。
でも、大丈夫、絶対に、大丈夫。
言い聞かせながら、わたしはひとり、
暗闇の中で、嵐が通りすぎていくの
を待っている。どんなに激しい雨が
降っても、わたしはもう「過去」を
迎えに行ったりしない。
わたしの心はさらわれていかない。
吹き飛ばされはしない。わたしに
は今、愛しい待ち人がいる。
ひとつだけ願いが叶うとしたら。
金か。愛か。才能か。
いっそ透視能力。予知能力。
世界的なヒーローになるとか。
なるなら透明人間の方が、い
や、私利私欲に走らず世界の
平和を・・・・。
そうか。まずは、
いくつも願いが叶うように、
願えばいいのか。
https://www.youtube.com/watch?v=mHrjM6oVez0