自転車を止めて、ちょっとかが
んで、
鍵をはずすという「君」の一連の
動作を見つめながら、そばを通っ
た。
その存在を全身で感じながら、け
れどそんなことは少しも態度に
表さずに、歩き去った。ほんとう
は、立ち止まって、彼の視界を
ほんのわずかでも揺らしたかった
のに・・・。
自転車の鍵をはずすのにかかる
時間の長さ。一瞬というほど短く
はないけれど、あれこれ考えたり
勇気をふりしぼったりできるほど
長くはない。
「あっ」と思ってから「ああ」と
心のなかでため息を
つくまでの、小さなドラマ。
“午後ひとり自転車の鍵を
はずしいし
君の視界に立ち止まれざりき“