生きていることはそれだけで
素晴らしい。
人はでも、そのことを普段、
意識しないように生きている。
あるいは、知らないで生きて
いる。
知らないで生きている人も、
一緒に
ごたまぜに この世界にいる。
奇跡の中に私たちはいるのだ。
そのことを、たまには思い出したい。
そのひとカケラでも私はだれかに
手渡したくて、その素晴らしさの
中にいるという奇跡を
一瞬でも感じさせたくて、私は
今日もまだ、見ぬあなたに
会いたくて生きている。
生きていることはそれだけで
素晴らしい。
人はでも、そのことを普段、
意識しないように生きている。
あるいは、知らないで生きて
いる。
知らないで生きている人も、
一緒に
ごたまぜに この世界にいる。
奇跡の中に私たちはいるのだ。
そのことを、たまには思い出したい。
そのひとカケラでも私はだれかに
手渡したくて、その素晴らしさの
中にいるという奇跡を
一瞬でも感じさせたくて、私は
今日もまだ、見ぬあなたに
会いたくて生きている。
母はよく、言っていました。
つらいことなど、何もなかった。
あなたを産んでよかった。楽しい
ことばかりだった。
けれど、たったひとつだけ、つ
らくてたまらなかったことがあ
って、それは、あなたが生まれ
たその夜に、わたしのそばには、
誰もいなかったということ。
同じ部屋に入院していた人には、
ご主人がつっききりで寄り添っ
ていて、生まれたばかりの赤ち
ゃんを抱いて、涙を流して喜ん
でいた。それをすぐそばで見て
いたときだけが、つらかったと。
それまでずっと、記憶の底で眠
っていた母の言葉が、なぜだか
急に思い出されて・・・。
https:/
はらはらとこぼれ落ちてくるのは
あの年の記憶だけだ。
今はもう、痛みは感じない。そこ
にはひと粒の涙も、ひとかけらの
悲しみ宿っていない。あのひとの
記憶は愛よりも優しく、水よりも
透明な結晶となって、わたしの心
の海に沈んでいる。
この十二年のあいだに、わたしは
いくつかの恋をした。
ただ、どんなに深い幸せを感じ、
それに酔い痴れている時でも、
わたしの躰の中に一ヶ所だけ、
ぴたりと扉の閉じられた、小
部屋のような領域があった。
扉を無理矢理こじあけると、
そこには光も酸素もなく、
植物も動物も死に絶えた、
凍てついた土地がだけが
広がっている。
だからうっかりドアをあけた
人たちは、酸素と息苦しさに
身を縮め、わたしから去って
いく。離婚の本当の原因は、
もしかしたらわたしの方に
あったのかもしれない。
こんな言い方が許されるな
らば、わたしは誰かに躰を
赦(ゆる)しても、心を救
したことはなかった。
https:/
根こそぎ自分をどこかに持って
いかれるような、心許ない感覚。
心許ないのに、それは限りなく
純粋で、石のように確かだった。
千夏ちゃん、教えて。
これって、恋なの?
わたしはこれから、どこへ向かっ
て、走っていけばいい?
次の瞬間、天井からまっすぐに、
答えが降ってきた。
「カノちゃん、想っているだけ
じゃだめだよ。想いは行為に変
えて、示さなければ、相手に
伝わらない。伝わらない想いは、
生きてる想いじゃない。
そんな想いを後生大事に抱えて
いたって、結局ミイラになって
しまうだけだよ」
千夏の声だった。
行かなくては、と、わたしは思
った。
あのひとに会いに行かなくては。
今、行かなかったら、わたしは
一生後悔する・・・。