頭が真っ白になったから強くなれた

頭が真っ白になるほどの出来事の中でも特に忘れられないのがある。
夫婦と男女の事務員をおいて細々と事業を始めて間もない時のこと。
男の子が家庭の事情で辞める事になって、
大きな機械の操作を一手に引き受けてくれていたので、引き継いでくれる若い人を募集した。
今と違って世の中には仕事が溢れそう簡単に求人は来ない。
今日来てすぐできるという仕事じゃないので人選には慎重を期した。
１ヶ月間マンツーマンで教えてもらい、これなら大丈夫でしょう。安心した。
それから３ヶ月、本人は一生懸命やっているつもりなんだけど、何かが足りない。
言葉も足りないし気迫も足りない。仕事に対する積極性もない。
若いからかと言い聞かせ教えても仕事に気持が乗らないようで、言われた事しかしない。
これでは早晩困ることになると、もうひとり増やそうと求人広告を出した。
その明くる日その男が無断欠勤した。
アパートに電話しても繋がらない。病気でもしたのかと心配で何度かかけていたら
やっと電話を取って言った言葉が「辞めさせてもらいます」
寝耳に水とはこのこと？
１ヶ月もかけて教えてすでに３ヶ月、どうにかこうにかやってきたのに電話一本で済む事か！？
理由が‥今朝の広告見ました。自分に無断で求人募集したのが気に入らない。
その時だわ、頭が真っ白になった。あの機械誰が動かす？仕事は山積み！
お客さんに迷惑かかる、困った！たすけて～！心が悲鳴上げた。
もう何にも考えられなくて、頭を抱えた。
その内怒りが湧いてきていっそアパートに乗り込んでぶん殴ってやろうかとも思った。
幸いな事にアパートが何処なのか知らなかった。
１２月２４日の事だ。
夜は子供達を連れて隣町のイルミネーションを観に行く約束していた。
すぐさま機械のメーカーに電話して、こういう事情で動かせなくなった。
応急でもいいから教えてくれないか？と懇願したら
この地区担当の人が快く応じてくれすぐ来てくれた。
詳しい事情を話すと、「分かりました。これから年末年始休みなしで奥さんに教えましょう」
驚いたのは私！エェェェ～私に！？
「こういう機械を本当に覚えきって欲しいのは経営者の方にです。社長はその間がないでしょうから奥さん！覚悟してください。僕が責任持ってお教えします。」
そして溜まっている仕事を捌いてくれ、明けた２５日から特訓が始まった。
夜１０時まで機械とにらめっこ。疲れる～なんていう間も無かった。
何度も聞き返すわけ行かないので細かくメモを取りながら１月１日だけは休んでお正月も返上。
人間その気になればなんとかなるもので、２週間ほどで大体を覚え、
担当の人も２日毎、３日毎、一週間毎、２週間毎と足げく通ってくれ事なきを得た。

捨てる神ありゃ拾う神あり。
感謝してもしきれない人は以後も何度か助けてくれた。
定年で退職されてどうされてるやら‥
彼の自宅がある町に出かけるたび優しい顔を思い出す。

あれからの私は本当に強い人になった！できない人間をポンポン首にもした。
その分頑張って働いた。
近頃は、もういいよね、優しい人生歩みたい。と思う。