今日、「闇の子供たち」という映画を見た。この映画は、僕の人生の中で、最も心に響いた映画となった。とにかく痛くて、思わず目を背けたくなるような映画であった。
この映画を見て、強く思ったこと、それは、
教育、福祉、保育他、子どもにかかわるすべての人たちが絶対に見るべき映画だ、
ということだ。「子ども」という存在の危うさやもろさや弱さや非力さを、あらためて知ることのできるすごい作品である。
この映画の舞台は、タイと日本。近くて遠い国だ。
日本人にとっては結構身近な国でもあるだろう。うちの元教え子の一人はタイが大好きでよく遊びに行っていた。気軽に行ける海外とあって、人気の高い国の一つだ。
が、その一方で、われわれはタイのことをあまり知らない。観光地や名物についてはよく知っているが、タイの政治、社会、文化、教育、福祉などになると、よほど興味のある人以外はほとんど無知なのではないか。
そんな近くて遠い国タイで、実際に起こっていること。しかも、日本人に決して無関係ではない闇の事実。真実。それを赤裸々に、見たままに、可能な限りリアルに表現してくれている。
そのリアルな事実(映画の中身)が、僕らに「見ろ!」と迫ってくる。決して感情移入してみることのできない内容に、僕らは「可愛そう」ということさえできない。僕らもその当事者になる可能性が十分にあるからだ。「可愛そう」とは言えず、それでいて、どうしようもなくなる。やるせなくなる。それが、この映画のねらいかもしれない。
児童売買だけだと、きっとこれほどまでに説得力はなかっただろう。児童売買自体はとても重大かつ深刻な問題であるが、それだけだと、きっと恐らく多くの人は自明のこととして理解してしまうだろう。だが、この映画は、児童売買の問題に、臓器移植という現代の深刻な生命倫理の問題をぶつけることで、独自の雰囲気を作っている。
内容については、上の予告を見れば十分だろう。(上の内容そのものである)
この映画の問題性は、映画の内容が、僕ら自身、十分に当事者になり得る、ということであろう。傍観者的な立場であれば、「違法の臓器移植は悪である」と声高々に言うことができる。だが、それが自分の愛する家族であったとしたら・・・
また、もし自分の友人や家族や親戚が、異国で女性を買っていたとしたら、もしそれが子どもだったとしたら・・・(その可能性は十分にあり得る。)
つまり、この映画は、自分を度外視して見れない映画なのだ。自分が当事者になった時に、直面せざるを得ない問題なのだ。
この映画がもしヨーロッパやアメリカの映画だったら、それなりに自分を度外視してみることが出来たかもしれない。けれど、この映画のすごいところは、日本人とタイの人々がメインキャストだ、ということに尽きる。僕ら世代のHERO江口さんが主人公になっている。この主人公の新聞記者の人間の複雑さも、またこの映画をよりリアルにさせてくれている。
生命倫理の問題としては、結構前からこのことについては多く議論されてきた。医療技術が発展すればするほど、こうした闇のビジネスが生じることは自明のことだ。が、それが自分に直面した時、僕らはどれほどの理性を持ち合わせているだろうか。
この映画は、是非とも見るべき作品だと思う。こういう作品こそ、映画ならではのものであるし、CMのないスクリーンで見るべきであろう。
*蛇足*
最後の桑田さんの曲は、蛇足だと思った。桑田さんのこの曲自体はとても素晴らしい曲だと思うが、これは映画の最後に入れてほしくなかった。音なしでよかった。CMで使う分にはいいけれど、映画での挿入するタイミングが悪すぎた。桑田さん、ごめんなさい。