Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

[講演ノート]子どもと悪口

今日は馬の話をしましょう。皆さんは馬が好きですか? 馬についてどう思いますか? 強そう、早そう、たくましそう、かっこいい・・・など、よいイメージをもっているのではないでしょうか。けれど、馬は日本ではあんまり人気がないんです。馬鹿、じゃじゃ馬、頓馬、馬子にも衣装(馬や子どもにでも衣装を着せれば立派に見える、の意)、馬の骨などなど。なぜ馬はこうまでして「バカ」にされなければならないのでしょうか。(ドイツでは、馬ではなく、豚がバカにされています。例えば「豚犬Schweinhund」や「豚ネズミSchweinigelがバカになります)。豚、かわいいのにね。

さて、今子どもたちからこうした悪口がなくなりつつあります。最近、保育園で3歳の女の子からこういう悪口を聞きました。「しめ!」。なんだと思いますか? 「死ね」といっているのです。3歳の子が「死ね」ですよ。どういうことなんだろう?と思い、もう少し聴いてみると、「キライ」という意味でその子は「しめ」を使っていました。当然「バカ」という言葉も使っていますが、あまり悪口を子どもの口から聞くことはありませんでした。

皆さんは日頃、どんな悪口を使っていますか?

今どきの若者たちが愛用する悪口は、大方のところ、五つしか残っていません。伝統的なバカとアホを除くと、ムカツク、ウザイ、キモイ、シネ、キエロ、以上の五つです。これ以外に悪口を知っている人はいますか? 是非教えてください。

現代的な悪口をよく見てみると、ちょっと不思議な傾向があることが分かります。バカとかアホという言葉と、ムカツク、ウザイ、キモイという言葉と、シネ、キエロという言葉にはちょっとした傾向があります。分かりますか? 何が違っているでしょう?

バカやアホというのは、「お前は馬と鹿の区別ができないほど頭が悪い」、「お前は阿呆者だ」というふうに、相手を貶めて、攻撃しているのです。悪口は本来相手を攻撃するものなのです。お前はピーマンだ、お前はナスだ、お前はハゲだ等々。相手を自分のきらいなものに喩えたり、相手の欠点(実は個性?)を指摘したりして、攻撃するのです。チビ、デブ、デカ、タンソク、手長ザル、ホクロ等々。

ところが、今使われているムカツクとかウザイとかキモイといった言葉は、相手を攻撃しているように見えて、実は相手を全然攻撃していないのです。自分の気持ちを述べているだけなのです。「僕は(君のことを)むかつく」、「僕は(君のことが)うざったい」、「僕は(君が)きもちわるい」、と。でも、どこがどうどのようにむかつくのか、うざったいのか、きもちわるいのか、何も言っていないのです。(言われたほうとしてもたまったもんじゃありません! どこがどうむかつくのかが分からないので、どこをどうしたらいいのか分からないのです! ピーマンだったら、中身(心)をいっぱいにすればいいのです。ハナタレだったら、ちゃんと鼻をかめばいいのです!)

また、シネやキエロというのも同じように、相手を攻撃しているわけではなく、命令しているだけなのです。シネというのは、死になさいということで、キエロというのは消えなさい、ということです。これは悪口ではなく、命令・指令です。しかも究極の命令・・・ いじめの場合、こういう言葉が発せられますが、それはいじめが強者と弱者の関係になっているからです。上からの命令は絶対なのです。対等な口ゲンカとは違います。

このように、現代の悪口はもはや悪口ではないのです。

悪口は相手のことを攻撃する言葉です。あるいは、相手を何かに喩えて間接的にキライと言うことです。「うんち!」とよく子どもは言いますが、それは、「お前は僕が嫌いなウンチなんだぞ!」ということです。「キライ」とまではいかないけれど、このままいくとキライになっちゃうぞ!と叫んでいるのです。これはその子からの「警告」です。ピーマン、かぼちゃ、ニンジン、うんち、しょんべんなどなど。

しかし、今の子どもたちはそういう悪口を言わなくなっています(言えなくなっているのかな?)。そして、非常にあいまいな言葉かすごく直接的な言葉しか使わなくなりました。どうしてでしょう? どうしてみんな悪口を言わなくなったのでしょう? かつて日本にはたくさんの悪口がありました。オタンコナス、ハゲチョビン、クルクルパー、アンポンタン、ノータリン、ジャリッパゲ、オカチメンコ(御徒面子)などなど。

昨日の新聞やTVで聞いたのですが、最近学校での校内暴力が急増しているそうです(小学校では80%増し!)。どうしてだと思いますか? そうです。子どもたちは相手を攻撃する言葉をもっていないからです。言葉での攻撃ができなくなると、人間は手が出てしまいます。言葉で自分の怒りを爆発できない人は、爆発して、キレてしまいます。誰が子どもたちから悪口を奪ったのでしょう? 

そして、最後に。もしあなたが保育者や教師や親だったら、子どもが悪口を言ったとき、どうしますか? 止めますか? 怒りますか? それとも誉めますか? 無視しますか?

僕だったら・・・ おっと、今日の話はここまでにいたしましょう。その答えは今後見つけていってくださいね。さようなら。

参考 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081121-00000012-san-soci

PS.
上のサイトの河上さんの「自由や個人を重んじて子供を一人前扱いする社会的な風潮が強まり、難しいこと、つらいことに挑戦させる機会も減った。教師と対等だとの雰囲気が広まり、指導に我慢できず暴力で反抗してしまう。子供同士でも欲望が抑えられずに、すぐ手を出してしまう」とか、「自由を大事にするのも結構だが、それだけでは子供の自立は難しい」とかの説明って、僕的にはナンセンスかな、と。逆に、今の子どもの方が、口を奪われ手しか出せなくなった子どもの方が「つらい」んですよ。欲望が抑えられないんじゃなくて、抑えすぎているんですよ。自由なんて子どもに与えられていないんですよ。悪口を封じられてきて、子どもたちもどうしていいか分からないんですよ! 

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