Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

翻訳「どれだけの子が赤ちゃんポストに預けられたか」Bild 5月9日の記事

2017年5月9日の「BILD」誌の記事です。

ドイツで最も有力な週刊ジャーナルの一つです。(頂点はSpiegelかな、と)

僕もドイツに行くと、必ず駅の売店で買って読む雑誌の一つです。

この記事が出る2か月ほど前に、ハンブルク・シュテルニパルクの赤ちゃんポストに一人の女の子の赤ちゃんが預け入れられました。その子の名前はズューセ・アンナちゃん。アンナちゃんは、あと一週間ほどで「養子縁組」に出されることになるそうです。Bildは、5月8日に、この子の母親に最後の呼びかけを行いました。(その記事はこちら!アンナちゃんの動画も掲示されています

アンナちゃんの動画はこちらをクリック

それを受けての話が、以下の文章となっています。

元の記事はこちら


ズューセ・アンナだけのケースではない
SÜSSE ANNA KEIN EINZELFALL

どれだけの子が赤ちゃんポストに
預けられたか?
…そしてその後どれだけの母親が子を引き取りにきたか?

Wie viele Kinder kommen

in die Babyklappe?
… und wie viele Mütter holen ihr Kind dann doch noch zurück?

2017年5月9日16時50分
09.05.2017 - 16:50 Uhr

今年の2月、母親によってハンブルクの赤ちゃんポストに預け入れられた小さなアンナの件が動き出す。つまり、アンナの母親には、問い合わせに応じる時間があと一週間しかないのだ。それが過ぎると、この赤ちゃんは養子に出されることになる!
Der Fall der kleinen Anna, die im Februar von ihrer Mutter in einer Hamburger Babyklappe abgelegt wurde, bewegt. Denn Annas Mama hat nur noch eine Woche Zeit, sich zu melden – sonst kommt das Baby zu Adoptiveltern!

*****

ハンブルク:どれだけ多くの子どもたちがドイツでこのかわいいアンナの運命と同じ道を辿っているのか? どれだけの赤ちゃんが赤ちゃんポストに預け入れられているのか。そして、どれだけの母親が自分の子をその後引き取りに来ているのか?
Hamburg – Wie viele Kinder in Deutschland teilen das Schicksal der süßen Anna? Wie viele kommen in die Babyklappe – und wie viele Mütter holen ihr Kind dann doch noch zurück?

ドイツ全土の信頼できる現実的な数字はない。だが、はっきりしているのは、赤ちゃんポストの需要は大きい。民間団体シュテルニパルクはそのパイオニアで、2000年に最初の「民間の」赤ちゃんポストをハンブルクに設置した。
Verlässliche aktuelle Zahlen für ganz Deutschland gibt es keine. Klar ist jedoch: Die Nachfrage nach Babyklappen ist groß. Der Verein Sternipark war Vorreiter, richtete im Jahr 2000 die erste „private“ Babyklappe in Hamburg ein

その後すぐに、ベルリンのヴァルトフリーデ病院と共に、ドイツで最初のクリニックが追随した。首都ベルリンだけでも、今や5つの赤ちゃんポストが存在している。そうこうしている間にも、ドイツ全土で93の赤ちゃんポストができた-ここでその全体が分かる-。その担い手の多くが、病院、民間団体、教会などである。
Kurz danach zog mit dem Krankenhaus Waldfriede in Berlin die erste Klink in Deutschland nach; allein in der Hauptstadt gibt es nun fünf Babyklappen. Mittlerweile sind es bundesweit 93 – eine Übersicht ist hier zu finden. Träger sind Krankenhäuser, Vereine oder auch die Kirche.

預けられた子どもの半分以上が自身の身元を知らない
Mehr als die Hälfte der abgegebenen Kinder kennt seine Herkunft nicht

2011年、最初の、そしてこれまでで唯一のドイツの赤ちゃんポストについての包括的な研究が公開された。ドイツ青少年研究所の報告によると、10年の調査期間の中で、278人の新生児が赤ちゃんポストに預け入れられた。これは、統計上、年間27人の子ども以上に相当することになる。ただし、この数値は、この研究に協力した一部の赤ちゃんポスト設置者だけによるものなので、強い注意が必要であろう。
2011 wurde die erste und bislang einzige umfangreiche Studie zu Babyklappen in Deutschland veröffentlicht. In zehn Jahren Erhebungszeitraum wurden nach Angaben des Deutschen Jugendinstituts 278 Neugeborene in einer Babyklappe abgelegt. Das entspricht statistisch mehr als 27 Kindern pro Jahr. Die Daten sind allerdings mit großer Vorsicht zu betrachten, da nur ein Teil der Babyklappen-Betreiber bei der Studie mitgemacht hat.

預け入れられた子どものうちの152名が匿名のままに留まり、引き戻されず、養子縁組に出された-ゆえに、全体の半分以上ということになる。それ以外の子どものケースにおいては、子どもの身元は伝えられたとされている。
152 der abgegebenen Kinder blieben anonym, wurden nicht zurückgeholt und zur Adoption freigegeben – also mehr als die Hälfte. In den verbleibenden Fällen konnte die Identität des Kindes ermittelt werden.

後者(152人の子ども以外の子ども)においては、養父母か部分的養子縁組(Teiladoption)のいずれかが取り決めらるか、あるいは、再度母親が子どもを引き取った。こうしたやりとりは、ほとんどの場合、ただちに行われ、その他のケースにおいても、出産から一か月の間に行われた。
Hier wurde entweder eine Pflege oder Teiladoption vereinbart, oder die Mütter nahmen die Kinder wieder zu sich. Dies geschah in manchen Fällen sofort, in anderen erst Monate nach der Entbindung.

この研究の実施者たちは、該当する当事者の女性たちと語ることのできた最初の人たちである。そのコンタクトは、多くの母親たちが、自分の子どもが大丈夫かどうかを知るために、赤ちゃんポストの匿名ホットラインを通じて問い合わせ、また以後相談員とのコンタクトを継続していたから、成立した。
Die Macher der Studie waren die ersten, die mit betroffenen Frauen sprechen konnten. Der Kontakt entstand, weil sich viele Mütter über die anonymen Hotlines der Babyklappen meldeten, um zu erfahren, ob es ihren Kindern gut geht und auch weiterhin mit den Beratern in Kontakt blieben.

母親からの問い合わせのない子や、赤ちゃんとのコンタクトを断念した母親の子たちは、縁組家族のもとに引き渡された。児童相談所の報告によると、2000年から2009年の間に、376名の子どもたちが匿名で生まれ、そのうちの45人しか、再び母親の元に引き戻されていなかった。
Die Kinder, deren Mütter sich nicht meldeten oder überzeugt werden konnten, Kontakt zu dem Baby aufzunehmen, wurden in Adoptivfamilien vermittelt. Laut Angaben des Jugendamts wurden 376 Kinder zwischen 2000 und Ende 2009 anonym geboren, davon wurden nur 45 wieder von ihren Müttern zurückgenommen.

そもそも赤ちゃんポストはどのように機能しているか?
Wie funktioniert so eine Babyklappe überhaupt?

赤ちゃんポストは、情緒的に(極めて)例外的な状況下にある女性たちに、感情的な困窮(悲劇:Misere)からの打開策となる可能性を与えることだと考えられている。打開策のねらい(アイデア)は、とりわけ児童殺害を予防することにあった。
Babyklappen sollen Frauen, die sich in einer emotionalen Ausnahmesituation befinden, die Möglichkeit geben, einen Ausweg aus der gefühlten Misere zu finden. Ausgangsidee war, vor allem Kindstötungen vorzubeugen.

赤ちゃんポストの創設者たちは、最初、あらゆる売春女性、ドラッグ中毒女性、あるいは低年齢の女子たちが来るだろうと推測していた。だが、そうではなかった。むしろ、あらゆる階層の女性たちが来て、率直に多くの不安に苦しんでいた
Die Initiatoren der Babyklappe vermuteten zunächst, dass die Zielgruppen vor allem Prostituierte, Drogenabhängige oder Minderjährige sein würden. Doch dem ist nicht so: Vielmehr kommen die Frauen aus allen Gesellschaftsschichten und sind schlicht von Ängsten geplagt.

多くの女性たちが、妊娠を最後まで隠していた。そして、いずれの場合も、赤ちゃんを預け入れる際に誰にも見られたくなかった。ゆえに、赤ちゃんポストの多くが、病院の人通りの少ない場所に設置されている。
Viele haben die Schwangerschaft bis zum Schluss verborgen und wollen auch bei der Abgabe des Neugeborenen auf keinen Fall gesehen werden. Deshalb sind Babyklappen oft an weniger frequentierten Stellen der Klinik platziert.

赤ちゃんポストの扉の背後には、温められたベッドを取り付けた台(テーブル)がある。ここに、赤ちゃんが置かれることになる。それ以外に、母親のための「インフォメーションペーパー(様々な情報が書かれたフライヤー)」があり、また、母親が自分の子を望む場合に自分を示すことのできる「証明書」もある。
Hinter der Tür zur Klappe befindet sich ein gepolsterter Tisch mit meist beheiztem Bett, auf welches das Baby gelegt werden soll. Außerdem finden sich dort Informationspapiere für die Mütter und auch ein „Ausweis“, welchen sie vorzeigen kann, falls sie doch zu ihrem Kind möchte.

手を放すと、扉はゆっくりと閉まり、もはや外からは扉を開けることはできなくなる。数分後に、赤ちゃんが保護されたことを支援者に知らせるアラームが発動する。
Wird die Klappe losgelassen, schließt sich diese langsam und kann dann nicht mehr von außen geöffnet werden. Wenig später wird ein Signal ausgelöst, das Mitarbeiter benachrichtigt, die das Baby in ihre Obhut nehmen.

年齢が判明した子どもたちのおよそ73%が、預け入れの時点で、生後24時間以内の赤ちゃんで、20%が生後一日~七日以内の赤ちゃんだった。
Rund 73 Prozent der Kinder, bei denen eine Altersangabe möglich war, lebten zum Zeitpunkt der Abgabe noch keine 24 Stunden, 20 Prozent waren ein bis sieben Tage alt.

権利に関してはどうなっているのか?
Wie ist die rechtliche Lage?

ドイツ基本法によれば、子どもたちは、「自分の由来(血統・家系:Abstammung)を知る権利」(自身の由来を知る権利:児童の権利に関する条約第八条「締約国は、児童が法律によって認められた国籍、氏名及び家族関係を含むその身元関係事項について不法に干渉されることなく保持する権利を尊重することを約束する」)を有している。しかし、この条項は、情報の自己規定(ドイツ基本法第二条第一項)における一般的な人格権によって骨抜きにされるのだ。
Kinder haben laut Grundgesetz ein Recht darauf, ihre eigene Abstammung zu kennen („Recht auf Kenntnis der eigenen Abstammung“, Art. 8 UN-Kinderrechtskonvention). Doch dieses wird von dem allgemeinen Persönlichkeitsrecht auf informationelle Selbstbestimmung (Art. 2 Abs. 1 im Grundgesetz) ausgehebelt.

具体的に言おう。もし母親が差し迫った理由から自分の個人情報を示したいと思わず、親が誰かを子どもに知られたくないと思うならば、その母親にそのことを強要することはできないのである。
Heißt konkret: Wenn die Mutter aus zwingenden Gründen keine Angaben zu ihrer Person machen will und nicht möchte, dass ihr Kind weiß, wer seine Eltern sind, kann sie nicht dazu gezwungen werden.

他にどんな選択肢があるのか?
Welche Alternativen gibt es?

►匿名出産:子どもを秘密裏に医療的ケアのない状態で出産して、その後に赤ちゃんポストに預け入れるよりも明らかによいのが、匿名出産という選択(可能性)である。この匿名出産においては、母親になる女性は自分の子を病院で出産することになるが、自分の個人情報もコンタクト情報も提示しなくてよい。
► Anonyme Geburt: Deutlich besser, als das Kind heimlich ohne medizinische Versorgung zur Welt zu bringen und dann in der Babyklappe abzulegen, ist die Möglichkeit der anonymen Geburt. Hierbei gebärt die werdende Mutter ihr Kind im Krankenhaus, doch sie muss weder ihre Personen- noch Kontaktdaten angeben.

►内密出産:2014年5月より、「妊婦支援の整備と内密出産の規制に関する法律」が施行されている。内密出産とは反対に、内密出産・秘密出産で出産した女性は、自分のデータを記した封書を残して去らなければならない義務を負っている。この封書は、(養子縁組に出されることになるであろう)子どもが16歳になった時に引き渡されることになる。
►Vertrauliche Geburt: Das Gesetz zum Ausbau der Hilfen für Schwangere und zur Regelung der vertraulichen Geburt gibt es seit Mai 2014. Im Gegensatz zur anonymen Geburt haben die Gebärenden bei der vertraulichen oder auch geheimen Geburt die Pflicht, ihre Daten in einem versiegelten Umschlag zu hinterlassen. Diese werden dem Kind – sollte es zur Adoption freigegeben werden – mit 16 Jahren übergeben.

►アンナの母親がそれでも問い合わせたい時、母親は「捨て子プロジェクト」の電話番号に電話をすることもできる。
►Falls sich die Mutter der kleinen Anna doch noch melden möchte, sollte sie die Nummer vom Projekt „Findelbaby“, 0800 45 60 789, wählen.

►電話支援:絶望した妊婦のための無料・24時間対応可能な電話支援が行われている。更なる情報および匿名相談については、www.geburt-vertraulich.de.で確認することができる。
►Hilfetelefon: Es gibt es ein kostenloses, 24 Stunden erreichbares Hilfetelefon für verzweifelte Schwangere (0800 40 40 020). Weitere Informationen sowie anonyme Beratung gibt es unter www.geburt-vertraulich.de.


10日ほど前の記事です。

少し興味深いのは、「児童の権利に関する条約」の8条と、赤ちゃんポストで問題となる「出自を知る権利」とはバッティングしない、という話です。

日本でも、児童福祉の研究者たちが、「児童の権利に関する条約」や「出自を知る権利」を盾にして、「こうのとりのゆりかご」を批判しています。

けれど、そもそも児童の権利関する条約で言われている権利が脅かされているわけではない、としたら、、、

そうしたら、「出自を知る権利」は、赤ちゃんポスト問題においては、問題にならない、ということになります。

また、フランスでは、毎年(内密出産ではなく)匿名出産が、合法的に、800~900くらい行われているといいます。

本当に、出自を知る権利は、赤ちゃんポストの問題に適用させられ得る問題なのでしょうか!?

そこは、もっと理詰めで考えたいかな!?

あと、アンナちゃん。

もうあれから1週間経ったし、養子縁組に出されちゃったかな!?

アンナちゃんのこれからの幸せをはるか異国の日本から祈っています。

 

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