ドイツで内密出産法が施行されたのが、三年前、2014年5月のこと。
あれから、三年が経った。
この4月は、内密出産に関する記事も多く書かれたようです。
この記事は、なかなか興味深い議論を展開しています。
赤ちゃんポスト発祥の地、ハンブルクの記事です!
赤ちゃんポストにせよ、内密出産にせよ、それらを必要としているのは、学生や風俗関係者なんだと再認識させられます。
望まない妊娠に苦しむ女性がどんな女性なのか、考えると、本当に色んな問題が見えてきます。
内密出産の三年-赤ちゃんポストはまだ必要か?
Drei Jahre vertrauliche Geburt: Ist die Babyklappe noch nötig?
Veröffentlicht am 15.04.2017 | Lesedauer: 3 Minuten
Seit Ende 2014 ist kein Baby mehr abgegeben worden
十分に隠れていて、人の視線からも守られている。ハンブルクのアルトナ地区の古い赤十字病院の建物の外側に、簡素なメタル製の扉が付いている。その扉の上部に、この扉の機能について書かれた大きな手紙が添えられている。絶望した母親たちに、ここで匿名で新生児を預け入れるチャンス(可能性)を与えているのである。この扉の背後には、カラフルなベッド用品を備えた温かいベッドがある。
Gut versteckt und vor Blicken geschützt, befindet sich an der Außenseite des alten Rotklinkergebäudes im Hamburger Stadtteil Altona eine schlichte Metallklappe. Darüber wird in großen Lettern auf ihre Funktion hingewiesen: Verzweifelten Müttern soll sie die Möglichkeit bieten, hier anonym ihr Neugeborenes abzugeben. Hinter der Klappe verborgen befindet sich ein Wärmebett mit buntem Bettbezug.
赤ちゃんを中に入れた後、この扉は再度開けることはできない。アラームが医療従事者に(赤ちゃんが預けられたことを)知らせ、まずカメラで、ベッドに置かれたものをチェックする。アルトナこども病院の理事アレックス・フォン・デア・ヴェンゼ医師は、「誰かがそこに何かを入れることは、これまでにもよくありました」、という。「しかしながら、(扉の)外の様子は、カメラでは確認できないのです。それゆえ、誰かがそこで子どもを預ける様子を監視している、というふうには恐れないのです」。だが、2014年末以降、一人の赤ちゃんもここに預け入れられていないのである。
Nach dem Hineinlegen lässt sich die Klappe nicht erneut öffnen. Ein Alarm informiert das medizinische Personal, das zunächst via Kamera prüft, was sich in dem Bettchen befindet. „Dass jemand da irgendwas hineinwirft, kommt schon öfter mal vor“, sagte Axel von der Wense (56), Leitender Arzt im Altonaer Kinderkrankenhaus. „Der Außenbereich ist jedoch nicht mit einer Kamera versehen. Es muss also niemand fürchten, dabei beobachtet zu werden, wie er ein Kind ablegt.“ Seit Ende 2014 sei jedoch kein Baby mehr abgegeben worden.
一連の嬰児殺しのために、すなわち出産後に直接的に新生児を殺害する行為のために、2000年、ハンブルクで最初の赤ちゃんポストが開設された。その後、本格的な(赤ちゃんポストの)ブームが起こった。その間、ドイツ全土でおおよそ100か所の赤ちゃんポストが出来た。ハンブルクには4つの赤ちゃんポストがある。だが、第一の赤ちゃんポストの運用開始と同時に、激しい批判もぶつけられた。「赤ちゃんポストでは、嬰児殺しは阻止できない。むしろ、赤ちゃんポストは、自らの責任を負うことなく、自身の子どもから解放される気楽で安易な解決策を親に与えてしまうことになる」、と。
Nach einer Reihe von Neonatiziden, also der Tötung von Neugeborenen unmittelbar nach der Geburt, eröffnete im Jahr 2000 in Hamburg die erste Babyklappe. In den darauffolgenden Jahren gab es einen regelrechten Boom: Mittlerweile gibt es bundesweit fast 100 Klappen, in Hamburg sind es vier. Doch zeitgleich mit der Inbetriebnahme der ersten Klappe meldeten sich auch Kritiker zu Wort. Neonatizide würden dadurch nicht verhindert, vielmehr sei die Babyklappe eine bequeme und einfache Lösung für Eltern, sich ihrer Kinder zu entledigen, ohne für sie die Verantwortung übernehmen zu müssen, bemängeln viele Experten.
ドイツにおける新生児殺害に関する公的な数字は明らかになっていない。「嬰児殺し(Neonatizide)は、特定の一犯罪構成要件に含み入れられず統計的にも個別に集計することができないので、数について言及することは不可能です」と、ハンブルク市政府大臣メラニー・レオンハルト(SPD)の担当官、エンリコ・イックラーは説明する。だが、児童支援団体Terres des Hommesは、メディア情報に基づいて独自の統計を作成している。それによると、赤ちゃんポストの創設以来、殺害される新生児数は減少していない。
Offizielle Zahlen zur Tötung Neugeborener in Deutschland gibt es nicht. „Da Neonatizide nicht unter einen eigenen Straftatbestand fallen und statistisch nicht gesondert erhoben werden, ist eine Nennung von Zahlen nicht möglich“, erklärt Enrico Ickler, Referent von Hamburgs Sozialsenatorin Melanie Leonhard (SPD). Das Kinderhilfswerk Terres des Hommes aber erstellt seit Jahren anhand von Medienauswertungen eigene Statistiken. Demnach gibt es seit der Einführung der Klappen keinen Rückgang von getöteten Neugeborenen.
赤ちゃんポストのオルタナティブ(別の選択肢)として、2014年5月1日に、「妊婦支援の整備と内密出産の規制に関する法律」が施行された。この法律は、母親の保護の必要性と自身の出自を知る子どもの権利をめぐる妥協案を示しているように思われる。母親が匿名のまま留まることのできる赤ちゃんポストへの預け入れとは異なり、内密出産で生まれた子どもは、16歳の時に、誰が実母なのかを知る権利を有している。連邦家族省によれば、この法の施行以降、308回の内密出産がドイツ全土で行われたという。
Als Alternative zu Klappen wurde am 1. Mai 2014 das „Gesetz zum Ausbau der Hilfen für Schwangere und zur Regelung der vertraulichen Geburt“ verabschiedet. Es soll einen Kompromiss zwischen der Schutzbedürftigkeit der Mutter und dem Recht des Kindes, seine Herkunft zu erfahren, darstellen. Anders als bei der Abgabe in der Babyklappe, wo die Mutter anonym bleiben kann, hat das Kind bei der vertraulichen Geburt im Alter von 16 Jahren das Recht zu erfahren, wer seine leibliche Mutter ist. Laut Bundesfamilienministerium gab es seit Einführung des Gesetzes 308 vertrauliche Geburten in Deutschland.
ハンブルクでは、妊婦は、(民間Vereinの)家族計画センター(Familienplanungszentrum)といったようなところに相談しに行くことができる。このセンターで支援を行っている心理士のマリーナ・クノップは、この12か月の間、内密出産に同伴してきた人物だ。彼女は言う。「支援を要する女性のうちの二人は、移民の背景をもたない大学生でした。他の女性は、赤色灯風俗街の移民女性でした」。
In Hamburg haben Schwangere die Möglichkeit, sich etwa beim Familienplanungszentrum beraten zu lassen. Die dort tätige Psychologin Marina Knopf berichtet, sie habe in den vergangenen zwölf Monaten drei vertrauliche Geburten begleitet. „Zwei der Frauen waren Studentinnen ohne Migrationshintergrund. Die andere Frau war eine Migrantin aus dem Rotlichtmilieu.“
この心理士は、赤ちゃんポストを認めていない。「赤ちゃんポストでは、赤ちゃんは救えない」、と彼女は言う。小児科医のヴェンゼもまた、「赤ちゃんポストに自分の子どもを預ける母親と、赤ちゃんを殺害してしまう母親とはオーバーラップしない」、という。だが、赤ちゃんポストの構想を固持する支援者もいる。「こうした(赤ちゃんポストのような)オプションがなかったら、更なる児童遺棄が起こっているだろう」、とヴァンズベック・アスクレピオス病院の医療従事者のフランツ・ユルゲン・シェルは語る。この病院の赤ちゃんポストには、2013年以降、10人の新生児が預け入れられている。
Die Psychologin hält nicht viel von Babyklappen. „Dadurch werden keine Babys gerettet“, sagt sie. Auch Kinderarzt von der Wense glaubt, „dass es keine Schnittmenge zwischen den Müttern, die ihr Baby in der Babyklappe abgeben und den Müttern, die ein Tötungsdelikt verüben, gibt“. Doch es gibt auch Befürworter, die an der Idee der Babyklappe festhalten. „Ohne solche Optionen könnte es mehr Aussetzungen geben“, sagt der medizinische Sprecher der Asklepios Klinik Wandsbek, Franz Jürgen Schell. In der Babyklappe des Krankenhauses wurden seit 2013 zehn Neugeborene abgegeben.
最後の一文に、また心が揺さぶられた。
2013年以降、10人もの赤ちゃんが赤ちゃんポストに預け入れられている。
内密出産がどれだけ充実しようとも、なお、赤ちゃんポストに赤ちゃんを入れる母親がいるんだ、と。
この問題には、きっと終わりはない。
男がいて、女がいて、そこに性的なものが介在する以上、ずっと起こり得る問題なのだろう。
もうすぐ、「こうのとりのゆりかご」も10周年を迎える。
日本では、この問題はほとんど議論されないままできた。
「国防」も大事だろう。「経済」も大事だろう。「政治家の不正疑惑」も大事だろう。
でも、それと同じように、「出産」や「育児」、それに関わるあらゆる問題も、また人間社会においてとても大事なことだと僕は思う。
もっともっと多くの人が、この国で暮らす「社会の片隅」にいる人に目を向けてほしいと願う。
それは、望まない妊娠に苦しむ妊婦だけじゃない。
社会の片隅で苦しんでいる人を放っておかない社会になってほしい。
不登校児、中退者、ひきこもり、精神障害に苦しむ人、失業者、貧困の母子家庭、風俗関係者、身寄りのない孤独な高齢者、外国から日本にきた労働者、移民…、そして、その関係者たち…。
すなわち、寄る辺なき存在。
僕らの社会には、決して表に出てこない人がいる。
そういう人に温かい目を常に向けられる国であってほしい。
先日、自殺未遂を何度も繰り返す夫をもつ女性と話をした。彼女もまた、誰にも相談できずに、思い悩んでいた。彼女を助けてくれる人はいない。夫も辛いだろうし、またその夫に連れ添う女性もまた地獄の苦しみだろう。
僕らは、もっと「誰にも言えずに苦しむ人たち」のことを想像すべきだろう。
なぜ、そんなことを言うかというと、誰もがそういう存在に(突如)なり得るからである。
「自分には関係ない話だ」と、話を突っぱねることもできるだろう。でも、今は関係なくとも、突然、その「当事者」になる、ということも多々ある。自分が不登校でなくても、自分の子や自分の身近な子どもが突然学校に行かなくなることはある。離婚なんてしない!と断言していた人のパートナーが突然いなくなることもある。この人は私を絶対に裏切らないと信じていた相手が突如消えることもある。昨日まで元気だったのに、突然「うつ」や「統合失調症」に苦しむこともある。身近なパートナーが突然自殺することもあるだろうし、遠い未来に、僕らも戦争を経て、どこかの国に「難民」として逃げる可能性もなくはない。
僕らは、常に「社会の片隅」に立つ可能性をもっている。
だから、まだその片隅にいない僕らが、真剣にこの問題に向き合わなければならないのだ。
また、もうその片隅にいない僕らが、この問題に向き合わなければならないのだ。
それが、「成熟した社会」を生きる僕らの使命なんだと思う。