Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

平和への教育➀ Colabo問題から考える「福祉不要論」と「平和の危機」

昨年末~今年にかけて、話題になった『Colabo』。

この問題そのものについては、他の人の論に任せたい。

話がかなり細かい話になっていて、この問題に固着している人に勝てそうもないから。

以下、この問題を僕なりの視点で考えていきたい。

すなわち「平和への教育」という視点である。

***

今、日本は大きな岐路に立たされている。

戦争を知らない世代の人たちの間で「中国脅威論」が浸透している。

本当に中国が日本にとって脅威なのかどうかは問わない。そうではなく、「多くの日本人が中国のことを恐れている」という日本人の集合的無意識の話である。

その代表例が「尖閣諸島」である。尖閣諸島は、日本の領土であり、その領土が今、中国によって脅かされている。そして、尖閣諸島を奪った後、次は沖縄を取りにくる、という「恐怖」が日本人の多くの間で共有されつつある。

本当に多くの日本人が中国を恐れているのかも問題にはしない。言説として「中国は日本を侵略しようとしている」という考えがネット上に溢れ、それを知った人が戦々恐々としているのではないか、と。

同時に「ロシア脅威論」も浸透しつつある。「ロシアはウクライナの後、北海道を奪いにくるのではないか」という恐怖を煽るような言説がネット上に多く見受けられる。

実際に、ロシアのウクライナ侵攻を毎日見せつけられている(純朴な)日本人は、「もしかしたら本当にロシアは北海道を侵略するかも」と恐れを抱く可能性はなくはないだろう。

この「中国脅威論」「ロシア脅威論」が、今の日本の「空気」となって蔓延している。

そんな流れの中で、国会閉会後に自公政権で(国会での議論を通さずに)決めたのが、防衛費の増額である。

一応、どういう内容になっているのかを見ておこう。


政府は新たな「防衛力整備計画」で2023年度から5年間の防衛力整備の水準を今の計画の1.6倍にあたる43兆円程度としていて、防衛省は計画の初年度にあたる2023年度予算案を「防衛力抜本的強化の元年予算」と名付けて公表しました。

それによりますと2023年度予算案の防衛費は過去最大の6兆8219億円で2022年度の当初予算と比べて1兆4000億円余り多く、およそ1.3倍と大幅な増額となりました。防衛費の増額は11年連続です。

重点的に増額が図られた分野では、装備品の維持整備費に2022年度の1.8倍となる2兆355億円、弾薬の取得に3.3倍となる8283億円、自衛隊施設の整備費に3.3倍となる5049億円が計上されています。

また、装備品の研究開発に3.1倍となる8968億円、自衛隊員の生活や勤務環境の改善費に2.5倍となる2693億円も盛り込んでいます。

このうち「反撃能力」を行使するために敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」として、アメリカの巡航ミサイル「トマホーク」の取得に2113億円、国産のミサイル「12式地対艦誘導弾」の改良開発・量産に1277億円を計上するなど重点的に予算を盛り込んでいます。

引用元はこちら


こうした防衛費の増額を支えているのが、上の「中国脅威論」や「ロシア脅威論」であることは、どの立場の人であれ、同意してくれると思う。

ただ、その防衛費の増額の決定に対して、不安に感じている人も少なくない。それに加え、今回の増額は憲法違反なのではないか、という声も上がっている。

日本国憲法の第9条の➀「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」、②「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」に、今回の防衛費増額の決定が抵触するのかどうか。

これも、きっと多くの人が頭を悩ますだろう。上の「スタンド・オフ・ミサイル」が「戦力」にあたるのかどうか、これも、恐らくは「霞が関文学」「霞が関用語」でうまくはぐらかされることだろう。

その是非もここでは問わない(問うても、結論は見えている)。

以上、➀中国・ロシア脅威論の蔓延、②防衛費の増額による軍事力の強化、この二つが今の日本の「空気」の中で、推し進められている。

自公政権を支える熱心な有権者は、この二つを肌で感じ、投票にでかけることだろう。他方で、自公政権に批判的な有権者は、この二つに対して異を唱えつつ、投票にでかける人とでかけない人が多数いる。

これが、今の日本の「分断」の大きな根であろう。

こうした背景の中で、Colabo問題も考える必要があるのではないか。

***

Colaboは、2013年に立ち上がったNPO法人である。創設者は、1989年生まれの仁藤夢乃さん。

このColaboは、「青少年支援」「女性支援」「少女の自立支援」を行うNPO団体であり、その支援内容としては、他の支援団体とそれほど大きな違いはない。若い女性支援を行っている団体は、他の先進国にも無数にある。赤ちゃんポストを創設したSterniParkも、同じような支援を行っている非営利団体(現在は株式会社)だった。

国内にも国外にも無数の類似のNPO法人があるが、このColaboは、創設者の仁藤夢乃さんの強烈なカリスマ性故に、よくも悪くも、多くの話題を振りまいてきた。

彼女の言動は、かなりラディカルで、進歩主義的で、フェミニズム的で、僕から見ても「過激」である。そのため、一方で熱烈な信奉者が集まるが、その一方で彼女を嫌悪する人も多数生まれている。(おそらく仁藤さんはこれを確信的にやっていると推測する)

ここでは、彼女がいいか悪いかも問題にしない。好きな人は熱烈に好きだろうし、嫌いな人は吐き気がするほど嫌いだろう。それはどうしようもないことだ。好き嫌いは必ずあるし、思想も個々人の自由である。

このColabo問題で、今、叫ばれ始めているのは、「NPO法人ってヤバくないか?」、「NPO法人の会計はどうなっているんだ?」、「公的資金をNPO法人は食い物にしていないか」、といったことである。

今や「赤い羽根福祉基金」や「赤い羽根共同募金」まで、厳しい批判の目が向けられている。

これがエスカレートすれば、福祉事業を行うすべての民間団体が疑念の目を向けられることになりかねない。「NPO系の福祉団体って、金儲けじゃないの?」、「結局、貧困ビジネスだよね。感じ悪い」、「福祉なんてやっている奴って、結局金のためなんじゃないの?」といった疑念が増大すれば、ますます「福祉」の動きが停滞することになる。事実、仁藤さんを擁護する福祉関係者たちにも、批判の目が向けられている。

こうした中で醸成されるのが「福祉不要論」(ケアマネ不要論、社会福祉協議会不要論etc.)である。

もともと「生活保護」に消極的な日本で、更に「福祉不要論」が生まれてくるとなると、いったいどうなるのであろうか。これが、この記事での「問題提起」である。

***

上述した➀中国・ロシア脅威論、②防衛費増額による軍事化と、この「福祉不要論」を重ねてみると、どういうことが見えてくるだろうか。

それは、【福祉(保育・介護・女性支援等)に使うお金を減らして、それを防衛費に当てよ】という考え方である。子どもや女性や高齢者に税金を使う余裕など、今の日本にはない。だから、それらをカットして、防衛費に当てよ、という考え方が広まる危険性が、2023年の今の日本にはあるのではないか。

福祉は、軍事化する国においては「邪魔な存在」である。福祉の思想は、軍事化する上でも足かせとなる。福祉が目指すのは「すべての人の幸せ」であるが、軍事国家になれば、そんな「キレイゴト」「美辞麗句」は不要のものとなる。もちろん「人権」や「生命の尊厳」も邪魔なものとなる。

歴史的にも、今の日本の福祉制度は、敗戦後に(必要に迫られて)設計されたものである。戦争の被害者(被害児・被害女性・被害軍人)の救済(戦後処理)のために、福祉のインフラが作られた。言わば、戦争の「後始末」を福祉が担ったのである。

戦争中に「福祉」を訴える人はいない。国の存亡がかかっているときに「弱者の救済を」と叫ぶ声にまともに耳を傾ける人がいるとは、誰も想像しないだろう。

福祉は、戦争の後に叫ばれるものである。ひっくり返せば、「戦争中は、福祉は叫ばれない(叫ぶことができない)」ということである。軍事国家や戦時中の国家に、市民的な福祉活動が充実している国があるだろうか。

戦争は、国を守ると同時に、国民を死に導く行為である。国を守り、国民を死に。

僕が懸念するのは、Colabo問題がこうした「福祉不要論」に発展し、「国民の生活を守る」という理念が消えてなくなることである。

国民の生活が不安定になればなるほど、人はますます思考停止状態になり、大きなもの(権威、軍事力、国力、独裁)にすがるようになる。

そうした「すがる人」が増えれば増えるほど、今の政権(男性中心の自公政権)の支持が高まることになる。皮肉なもので、「福祉サービスが弱体化することで、生活が不安定になる人(主に男性)が増え、その不安定な人たちが不安定さ故に、ますます福祉サービスを切り捨てて、更に生活が不安定な人(主に女性)を叩き、軍事費倍増をもくろむ政権を支持するようになる」、という現象が起こる(と考えることができる)。

ブルーハーツ的に言えば、「弱いものたちが夕暮れ 更に弱いものを叩く」だ。そこにアドルノの見解を加えれば、「弱いものたちは、自分より弱くて且つ自分より幸せそうに見えるものを叩いて、権威主義の奴隷となる」、か。

これは、ヒトラー政権を生み出した第一次世界大戦後のドイツとよく重なる。

Colaboや仁藤さんを叩いている人たちのネットでの「書き込み」を見ていると、その人たちもきっと大変なんだろうな(根本的には、幸せではないんだろうな)と思う。どこまで生活が苦しいかは分からないけれど、その人自身がWellにbeingしているようには思えない。

とはいえ、彼らを見ると、そこまで生活に困窮しているようにも見えない。仁藤さんを訴えている暇空茜さんのツイートを見ていると、ゲームや漫画などを楽しんでいるお姿も見られる。

ここでふと思い浮かぶのが、「普通の人びと」という言葉である。

この本でも出ているけれど、ドイツのヒトラー政権を支えたのは、この時代に新たに生まれた「公務員たち」だった。

この「公務員」という言葉は、「象徴」であり「シンボル」である。

この言葉で言わんとしているのは、「決して上流階級ではなく、決して裕福ではない、しかし、現状として貧困ではなく、現状では不遇・不幸でもない、自力で中間層にまで昇りつめた人たち」である。

そういう人たちは、自分が手に入れた今のポジションを守るために、現状の勢力や体制に加担する。頑張って手に入れた「中間層」という立場を守ろうとするのである。

こうして、「貧困層」と「中間層」に支持されるのが「現政権」ということになる。(今の自公政権を支えている人びとの内訳についての研究も探してみたい)

*古くは、たとえば「社会諸階層の政治的態度と政党支持」という論文がある。

この状態が続くと、➀中国・ロシア脅威論と②防衛費の増額がエスカレートして、「福祉不要論」が全国的に広まっていき、自律的なNPO団体がどんどん消えていく可能性もある。

もちろん「不正受給」はあってはならないし、「貧困ビジネス」を肯定することもできない。そこはしっかり襟を正していかなければならない。

ただ、そうした話が膨らんで、「NPO悪玉論」や「福祉不要論」が多くの人に共有され、「弱者になったのは自己責任でしょ」という考えが広まると、福祉制度を維持することも、発展させることもできなくなる。その分の予算を防衛費にまわせ!という意見も増えてくる。

それは、国家に頼らない自律した市民団体の動きを失速させることにもつながる。

もともと「市民」という考え方が絶望的に弱い日本において、ギリギリのところで(人々の善意によって)活動を展開させてきたのが、日本の市民団体(民間団体・非営利団体)である。

そうした市民の取り組みが、国家の補完にもなるし、国家のアンチテーゼにもなってきた。国家(国、行政、政府)では手が届かないサービスを提供してきたのが、NPO系の市民団体である。

そういう市民団体を「つぶす」ことで、国の軍事化を加速させることができる。

今、「平和」という理念が消えかかっている。

平和を訴える人が「ヤバい人」に思えてくるような冷淡な時代を迎えつつある。

中井久夫さんの有名な言葉がある。


戦争を知る者が引退するか世を去った時に次の戦争が始まる例が少なくない。

『戦争と平和』より


この本は、圧倒的である。ものすごい迫力と凄みがある。

僕らは一人ひとりが、このことについて真面目に考える必要がある。

自分がしていることが「戦争につながることかどうか」を問う必要がある。

Colaboや仁藤さんを批判したり叩いたり罵倒したり冷笑したりしている人は、自分が何をしているのかを問う必要があるように思う(そう言われて、自分自身の行為を省みるとは思えないけど…)

自分がしていること(女性たちの自律的・市民的な活動を否定したり罵ったりすること)そのものが「次の戦争のはじまり」に向かう行為だということに気づいてほしいと願う。

戦争を知らず、平凡に生きている人たちの多くは、今ある「平和」のありがたさを実感できない。それを実感せずに、小さな世界で生きている。暇空さんのツイートを見ていると、「サブカル・アニメ文化の保守」「サブカル・アニメ文化における表現の自由」については強い情熱を感じるけれど、それ以上の理念(平和、女性の地位向上、基本的人権etc.)をそこに確認することはできない。

これは、彼ひとりの問題ではなく、教育の失敗として受け止めるべきだろう。「森を見ることができず、ひたする木しか見ようとしない」という人間を量産しているのだ。

森というのは、時間軸でいえば「歴史」であり、空間軸でいえば「世界地理」である。更に思想や哲学的にいえば、「平和」「生命」「公平性」「実存」「民主主義」「市民」「寛容」「反権威主義」等々である。

そうした視座をきちんと伝えきれていない教育こそ、最も問題視すべきだろう…。

ただ、その教育も、トンマ中のトンマのヒラメ政治家たちに完全に牛耳られている…

平和への教育②に続く。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「教育と保育と福祉」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事