Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

小室直樹「数学教育の徹底こそが資本主義を育てる」

新自由主義(Neoliberalism:経済的自由主義)の立場から学校教育を論じる人って、具体的には誰なんだろう? 

市場原理主義的で、小さな政府、民営化、規制緩和、競争肯定、勝ち組・負け組をすべて肯定する立場の人。大きな政府、福祉国家、社会主義、共産主義の対抗軸となっている人たち・・・

ふと思い浮かぶのは小泉元総理。彼はかなり徹底した新自由主義者だった・・・のかな。「労働者派遣法」の規制緩和によって、たくさんの非正規雇用の労働者が増えた、というのは有名な話。不況真っ只中の今、その非正規雇用の人たちがいとも簡単に首を切られている。新自由主義がいきつくところは、「弱肉強食の論理」なんだと思われる。竹中氏や森永氏もこの中に入るのかな。故永田氏も、新自由主義の一角と思われていたようだ参考)。

***

こうした新自由主義者たちによって、学校教育から「ゆとり」が消えた、そう考えてよいだろう。彼らからすれば、「社会はそんな甘いものじゃない。小さい頃から、現存の資本主義社会・産業社会の精神を与え、弱肉強食の論理を教え、企業戦士としての基本を教化せねばならぬ」、と言いたいのであろう。「ゆとりなんてとんでもない。子どもにゆとりを与えたら、勉強などするわけがない。そうすれば、産業社会にとって優秀な人材がリクルートされない。優秀な人材(=企業戦士)がリクルートされなければ、≪豊かな国日本≫が保障されなくなるぞ。国や社会の繁栄のためにも、ますます子どもを縛りつけて、資本主義的産業社会の基本を教えなければならない、数学、理科(特に物理学、化学など)を徹底させねばならぬ」、と。(山崎正和のエリート教育論も同じ方向性かな?!参考

*この手の論理の人って、「ゆとり教育」の根本を理解してくれていたのかな。本当に優秀な人間を育てるために「ゆとり教育」を目指した、という事実を。。。

この論理で、2006年に「中央公論」にてその当時の「ゆとり教育」を厳しく凶弾したのが、小室直樹氏であった。

小室の論理は極めてシンプルだ。資本主義を徹底するためにも、厳密な意味で資本主義といえる国になるためにも、まずは数学教育を徹底させよ!、というものだ。彼は、「資本主義を社会の前提として考えるならば、数学教育は最も重要な教育と言ってよい」(p.68)、とはっきり書いている。

そして、2006年のこの論文で、彼はこう述べている。「資本主義が完全になるためには、全ての人が数学の論理を完璧に使っているかどうかが、重要になる。数学教育を見る限り、日本は資本主義ではない」(p.71)、と。これは、それ以前に、文部科学省が中学校学習指導要領から二次方程式の公式をはずしたことを受けての発言だ。二次方程式は、経済数学の基本中の基本だ、と彼は主張していた。

では、どうしたら資本主義が存立するのか。「資本主義が存立するためには、理論が必要であるが、その理論が貫徹するようになるためには、まずイノベーションを実現させることが実践的には必要だ。イノベーションはより高い理論性、厳格性を実現させなければ具体化しないからだ」(p.73)、というのが彼の見方である。そして、そのイノベーションのためにも、「数学をはじめとする論理性の追求」が極めて重要なのだ、と結論付ける。

すごい議論だが、これが新自由主義的な教育観なのだろう。≪資本主義の存立のために教育を徹底せよ≫、これはある種ものすごく正論である。今の社会は資本主義社会だ。しかも、今や、グローバルな資本主義社会に入っている。がゆえに、数学的思考、数学的論理はたしかにますます必要であろう。

でも、この小室の論理は、少しも「ゆとり教育」の思想とバッティングしないはずなのだ。教える内容を削減したのも、じっくりと考える時間を子どもや学校に与えるためであった。余裕のないカリキュラム、がんじがらめのカリキュラムからの解放は、学びの豊かさを保障するための手段であったはずなのだ。

ゆとり教育は、数学的な論理的思考を否定していないはずなのだ。丸暗記をやめて、子どもが実感をもって豊かに学びを楽しむことを保障しようとしたはずなのだ。だが、新自由主義の人たちは、それを、怠け、怠惰、つまりは遊んでいるだけだ、と見なしたのである。そういう人には是非ホイジンガの「ホモ・ルーデンス」を読んでいただきたい。遊びは、労働や勤勉に反する言葉ではない。

とはいえ、世論的には、本日、「ゆとり教育終焉」が知れ渡ってしまった。再び、詰め込み教育、受験戦争激化にならないことを祈るばかりだ。。。

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