教育や保育や福祉は、根本的に、理論と実践が未分離の状態にある、というのがある。理論家と実践者が、うまく区別できない、というのが、教育、保育、福祉の大きな特徴なのである。大学では、元実践者や有資格者が教壇に立つことも少なくない。教育学部では、元校長が教育法規の講義を担当していたり、保育学部では、元保育士や現園長が保育原理を教えていたりする。社会福祉学部では、ソーシャルワーカー(社会福祉士)の資格をもつ人が社会福祉を教えることが多い。(*もちろん、他の学部でもそういう傾向は見られないことはない。経済活動家が経済学部で講義をしたり、企業のエンジニアが工学部の教授をしていたりということは多々ある)
こうした傾向は、一方で「分かりやすさ」や「具体性」をもたらすことになるが、他方で「理論(理論化)の軽視」をもたらすことになる。そして、「実践者のみが実践を語ることができる」という前提がますます強化されていくことになる。というのも、実践者が高等教育機関に入り込むことで、「理論家は不要」という前提が出来上がってしまうからだ。特に、実践に依存傾向の強い教育、保育、福祉の学科の学生は、「理論とは何か」ということを知ることなく現場に出てしまうことが多々ある。フィーリングと感情(熱意)だけで現場に出てしまうのである。
本来、理論とは、現象からの遠ざかりであり、現象から距離をとって、言語で現象を語ることでもある。言語化は、理論化の一条件と考えていい。教育、保育、福祉の学科は、この言語化(つまり理論化の条件)の方法を学生たちにきちんと提示できていないように思うのである(元実践者の講義は自らの体験を語る傾向が強い)。また、これらの学科に属する学生たちも、分かりやすくて、具体的なことのみに関心を払い、「実用性」や「即効性」にばかり目を向けるようになってしまう。
そして、そんな学生たちが就職していく現場では、物事を色んな角度から見てみる、自分の行為から自分自身を遠ざけて考えてみる、ある一つの事柄に関してどこまでも深くつっこんで再検討してみる、そういう不断の内省活動はあまり保障されているとは言いがたい。そもそも、現場そのものがそうした内省活動を得意としていないのである(例外的にそうした内省活動を重視している現場もないこともないが、その内省そのものをさらに突き詰めている現場はほとんど見られない)
【第三日曜日の会】は、まさにこうした『内省活動』を行い、自らの実践や他者の実践をどこまでもディープに捉え直して、日々の実践の再理解と、自分の行為をきちんと説明できるようになることを目指していきたい。教育や保育や福祉の世界は、やはり生の実践の場に「理論」は隠れ潜んでいる。既成の学問知や妥当性を得た一般的解釈をエポケーして、自分の行為にはどんな意味があったのか、どんな理屈が潜んでいるのか、といったことを見出していきたい。そういう内省は、自分自身の新しい課題の発見につながるし、日々のルーチン化を防いでくれる。
本来、理論(テオリア)とは、分からないことが分かることではなく、分かっていることが分からなくなることである。分からないからこそ、分かるように努力するものであるし、また、分からないからこそ、日々の実践がその答えを探す営みに変わっていくのである。僕なんか、教育であれ、福祉であれ、ドイツ語であれ、分からないことだらけ。分からないからこそ、奮起するのであり、マンネリ化しないのである。一番恐ろしいのは、日々の実践に埋もれてしまい、自分のやっている行為が「分かりきってしまう」、「慣れきってしまう」ということではないだろうか。喩えて言えば、戦場で戦いに慣れきってしまい、人を殺すことに対して鈍化し、何も感じなくなってしまうことこそが、一番恐ろしいことなのではないだろうか。
【第三日曜日の会】は、そうした日々の≪慣れ合い≫から距離をとり、実践者自身の内省を助け、実践者同士の対話を作っていく、そういう会にしたいと思う。そして、既成の理論や価値観を疑い、新しい理論の発見を目指していこうと思う。
*こうした会をやることは、僕の勝手な趣味ではなく、僕自身の新しいパースペクティブの発見という知的好奇心からきている。「やりたいなあ」じゃなくて、「やらねば!」なのである。まあ、堅い事はともかく、細々と、末永くやっていきたいと思う。来られる卒業生(あるいは関係者)は是非来てくださいね★)
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