かつて学生時代、「いつか大学の先生になったら、私的な勉強会をしたい」、と願っていた。僕自身、学生時代に色んな勉強会や研究会に顔を出していた。どの会も個性があり、色んな特徴をもっていた。どの会でも学ぶべきものがたくさんあり、そこにいる人たちのパワーに度々圧倒された。だから、いつか自分も自分の研究会を作って、学びあいたいなぁと願っていたのだ。
そんな願いは昨年やっと実現した、というか、願いをかなえるべく動き出した。運よく、素晴らしい学生たちに出会い、学生ら(=卒業生)と共に「第三日曜日の会」を始めることができた。まだ「これ!」という自分らしさははっきりとは見えていないが、元気で、熱くて、深くて、楽しくて、重くて、軽やかで、、、そんな会にしていけたら、と思っている。
「第三日曜日の会」という名前は僕が勝手につけたものじゃない。僕が尊敬する人がかつて同名で私的研究会を行っていた。その名前をお借りした、というか、気持ち的に引き継いだって感じだ。でも、それだけじゃ発展性がないので、「スルメイカ」というかわいい言葉をくっつけることにした。スルメイカのように、噛めば噛むほど味が際立ってくるような研究会になれば、、、という思いが込められている。と、同時に、軽やかにやっていこうという願いも入っている。
今回は、一周年記念ということで、特別ゲストにくるくるレインボーを考案した梅本さんを招いての3時間半だった。
僕と元教え子という関係だけでは見えてこない何かがあるんじゃないか、と思い、無理を承知でお願いした。梅本さんは本当に魅力的な方で、僕自身、彼女のファンでもある。僕が元教え子に教えるという関係性ではなく、僕と元教え子が共に学ぶという方向性を作るうえでも、一つの大きな出来事であった。
今回は、いつもの家庭支援センターのHさんの発表、そして、くるくるレインボーの教授法、くるくるレインボーの意味について議論を行った。いつもより、実践発表は少なかったが、普段出来ない体験ができたと思う。もちろん、おもちゃや玩具のエキスパートの梅本さんとの対話だけに、話はおもちゃ論、玩具論、教育論など、多岐にわたった。最後まで楽しく、有意義に学ぶことができた。
Hさんの発表は毎回いい議論に展開している。今回は、とある子どものお母さんの一言をめぐる議論。 その子はやんちゃで、いつも体操着を泥だらけにしてしまう。幼稚園でもかなり元気な子どもで、通園する時の服も体操着も本当にいつも泥だらけにしてしまう。お母さんは、そんな子どもの活発さに振り回されて疲れているのか、イライラしがち。毎回の洗濯もたいへんだろう。イライラはかなり溜まっているようだ。そんなお母さんがセンターでHさんに対して、「幼稚園の先生はうちの子どものことでイライラしたりしないのでしょうか? いつもイライラしてしまう自分がダメなんでしょうか? Hさんはイライラしませんか?」、と語ったようだ。
この言葉がHさんにはとても印象的だったみたいだ。それに対して、色んな人の意見が飛び出た。その中で多かったのが、「お母さんはHさんに普段思っていることを話したのだから、まずお母さんのイライラ感を受け止めてあげること」、という助言だった。もしかしたら幼稚園の先生もイライラしているかもしれないし、していないかもしれない。でも、それは本質的にはどうでもいいこと。センターの職員としては、まずお母さんのイライラ感を受け止め、お母さんに安心を与えることがまず第一に必要なことだ、と。
一般的には、幼稚園の先生の代弁をして、「大丈夫ですよ。お母さん。子どもは服を汚すのが仕事です。だからきっと先生もイライラしていないと思いますよ」、というようなアドヴァイスがいいのだろう。だが、この会では、そういう「模範的回答」を与えることはしたくない。それよりも、お母さんと共に存在するプロとして、お母さんの悩みや葛藤をしっかり受け止め、それを言語で明確にしていくことが重要なのだ。そういう方向に話が展開していった。
続いて、梅本さんのお話と「くるくるレインボー」の教授法について。
最近、梅本さんは児童の専門家、プロフェッショナルということの大切さを感じている、という話を聴かせていただいた。たとえ若い実践者であっても、プロとして親たちと接してほしい、親たちは自分の子どもを育ててはいるが、子ども全体のかかわり手ではない、たくさんの子どもをみることはやっていない、保育者や教師の方が多くの子どもを見る目がある、だから、親よりも一歩先のところで子どもをしっかりと見て、親たちを支えてあげてほしい、そのようなメッセージを頂いた。
くるくるレインボーの教授法はなかなか興味深いものだった。くるくるレインボーはおもちゃとして楽しむ分にはとても楽しいし、見ているだけで嬉しい気持ちになる。だが、その作り方を教えるとなると、かなりたいへんな作業だ。くるくるレインボーはシンプルながらも、かなり複雑なことをしている。幼稚園の子どもや小学生ならば、くるくるレインボー作りは結構たいへんなものだ。それをどのようにして子どもたちに教えるか。教える立場からくるくるレインボーを作り、言葉かけのポイントや子どもがどこに躓くか、といったお話をしていただいた。
今回は第三日曜日の会特別編ということで、二つの発表のみだったが、どちらも充実した内容だったと思う。今回は梅本さんのご友人で都内の児童館の館長さんにもお越しいただき、貴重なアドヴァイスもいただいた。
やっぱり若輩先生とは違う経験のあるお立場からの助言は、明快で、心にすっと入ってくる。アドヴァイスもより実践的で、「ほ~」と思うところも多々あった。
7月にはスザンネさんが来日し、この第三日曜日の会でお話してくださる予定だ。これからも色んな企画をしていきながら、実践者のレベルアップを目指していきたい。もちろん僕自身のレベルアップが重要なのだが・・・