唐突だが、1990年代前半、こんなメイン役物を搭載した台と、対峙した記憶はあるだろうか。
上段、下段と二つの「垂直回転体」があって、それぞれが「三つ穴」振り分け式になっている。
また、画像では確認しづらいが、下段回転体下のステージに、「三つ穴クルーン」がある。
さらにいえば、役物入賞の直後、上段ステージで3つの入賞口による最初の振り分けが待つ。
そして、これら回転体を取り囲むように、左右にデジタルランプが付いている。
この時代、こういった「複数の関門」を有する台は多く存在したが、上の役物を見てパッと機種名を答えられる人は、それなりの「変人」であろう(笑)。
まぁ、あまり引っ張っても仕方ないので、さっそく答えを明かすと…
1993年に豊丸から登場した2回権利物「タイムボカン」(賞球…6&13)
と、機種名を挙げても、やっぱりピンとこない人もいるだろうか。当時の豊丸がいくら「プッシュ」していたとはいえ、結果的には「マイナー機」で終わったのだから…。
92~93年(平成4~5年)の時期、豊丸は、実に多彩な権利物・一般電役を登場させた。
ビッグウェンズディ、スーパーボウル、ルネッサンス、パチキング、ボンバーガール、スノージェット、ヤングマン、ドンパッパ、ドンパッパ2など…。
上記の中には、ゲーム性の秀逸さや強い連チャン性で、人気を博した「ヒット機種」もある。それに比べて、この「タイムボカン」の設置率や知名度は、残念ながら低かったといえる。
ただ、たとえマイナー機でも、この回転体役物の独創的アイディアは、大いに評価すべきと思う。
(本機のゲーム性)
天左横の命釘を抜けた玉は、センター役物入賞後に、複数の振り分け関門を通る。
上段ステージには、左・中・右と3つの入賞穴があり、役物に入賞すると、まず何れかの穴に入る。
ここでの振り分けは単に1/3ではなく、9割弱が中央穴、残り1割強が左又は右、という感じだった。
本機の特徴は、上段ステージで左・中・右どの穴に入ったかにより、その後の役物内のルートが大きく変化する点だ。
まず、メインの中央穴に入った場合、その下の二つの「3つ穴回転体(垂直型)」による振り分けを経て、各々が1/3の関門を突破すると、下段ステージの三つ穴クルーンに到達する。
上下二つの回転体は、上(緑)が「HOP」、下(黄)が「STEP」となっている。中央穴に入った場合、「HOP」⇒「STEP」の順で、2つの関門を順に通過する必要があった。上下回転体ともに穴は3つで、セーフ穴は赤く縁どられた「鍵穴」1つのみ。残り2つのハズレ穴に捕まると、その時点でアウトとなる。中央穴のルートから下段クルーンに到達する確率は、1/3×1/3で1/9。因みに、「HOP」回転体は、鍵穴(セーフ穴)が真上を向いた時に一瞬停止する。即ち、中央穴から落下するタイミングが重要。なお、回転体は上が反時計回り、下が時計回りと言う風に、互い違いに回っていた。
次に、右穴に入った場合、「HOP」回転体を通らず、役物右サイドから「STEP」回転体に向かう。関門が1つ減る訳だから、中央穴入賞時よりも断然有利となる。やはり、回転体の鍵穴入賞で関門を通過。右穴ルートのクルーン到達率は1/3。先述の通り、中央穴に比べて、右穴には入りづらい。
そして、最大のチャンスが、上段の左穴に入った場合である。コチラも入賞率こそ低いが、左穴に入ると、「HOP」「STEP」の回転体を通らずに、役物左サイドから下段ステージに直接向かう。このルートの下方には、「JUMP」と書かれている。振り分けゼロでクルーンに辿りつくので、到達率は100%となる。
このように、同じ役物に入った場合でも、最初(上段)の振り分け次第で、その後のルートがガラリと変わったのだ。アナログな玉の動きを、十分堪能できる構造だった。上段ステージや回転体の振り分け率には台ごとのクセもあり、上段で左穴に入り易い「クセ良台」も存在した。
こうして3ルートの何れかを経て、下の三つ穴クルーンに到達すると、最後の振り分けが待つ。クルーンの奥二つはハズレ穴だが、手前穴に入った玉は、真下の一時貯留ポケットに入賞。このポケット入賞で、「HOP」「STEP」両脇にある左右のデジタル(ランプ)が変動する。
左右のランプは5つづつ縦に並び、左ランプには「1~5」、右ランプには「6~0」の番号が、それぞれ付いている。ランプが「2~4」又は「7~9」の位置(ピンクのゾーン)で停止すれば、貯留ポケットが左に回転してVゾーン入賞、権利発生となる(ランプが外れると、右回転してハズレ)。表面上は3/5で当りだが、内部のデジタル確率は1/5となっていた。
もちろん、最後のクルーン振り分け率も、役物のクセや、台のネカセが大きく影響した。
権利発生後は、右打ちで消化。盤面右上の回転体と、右下の電チュー式アタッカーを連動させて、出玉を稼ぐ。
1回目の権利が終わったら、通常打ちに戻す。 2回目権利時は、デジタル(ランプ)を回せば100%大当りするので、回転体とクルーンの振り分けさえ通過すればOK。ただ、デジタルを回すのに手こずる場合も多く、1回目の出玉をかなり削られてしまう事も。また、アタッカーが13個戻しなので、2回権利消化時の平均出玉は「3200~3500個」といったところ。
なお、大当り中は、元祖タイムボカンではなく、「ヤッターマン」を彷彿とさせるようなBGMが流れた。まぁ、同じタイムボカンシリーズなので、問題ないが(笑)。
また、当時の豊丸権利物といえば、強力な「連チャン性」がウリだったが、本機もデジタルが連チャンで当る事がたびたびあった。2回権利なので、ワンチャンスでの大量出玉もそこそこ期待できた。
さて、前半部分で、当時の豊丸は本機のような回転体役物を「プッシュ」していた、と書いた。
実は、タイムボカンが登場する少し前、「タイムスリップI」というほぼ同じ役物を使用した権利モノが、先行機種として出ていたのだ。
豊丸・1回権利物「タイムスリップI」(1993年) (タイムスリップIの役物)
この回転体役物は、タイムボカンではなく、コチラが「初代」であった。
賞球「6&12」で、デジタル確率はタイムボカンと同じく1/5。
デジタル(ランプ)は、やはり左側が「1~5」、右側が「6~0」。コチラは、ランプが「3」又は「8」で止まると権利発生となる。デジタル確率は1/5で、表面上確率と同)。役物やクルーンの振り分けは、タイムボカンと同じ。
ただ、役物への入賞ルートがタイムボカンと違い、天左横を通過した後、さらに役物真上の命釘(首っ玉)を抜けないと役物には入らない。また、コチラは「1回権利」で12個戻しの為、出玉は1800個と少ないが、やはりデジタルに連チャン性があった。
一方、現金機タイムボカンには、CR機Verも存在した。「CRタイムボカンV」である。
豊丸・CR1回権利物「CRタイムボカンV」(1993年)
・賞球…5&15
・現金機版「タイムボカン」と同タイプの回転体役物を搭載
・天横からの入賞ルートも「タイムボカン」と同じで、天左横の命釘を抜ければ必ず役物に入る。
・下段クルーン手前穴入賞でランプ変動。ランプが「3」(左側)又は「7」(右側)で停止すると大当り。
・「7」で当った場合は、次回までの確率変動に突入。
・デジタル確率は1/18
・連チャン性は不明。
さらに、タイムボカンには、権利モノではなく「一般電役」の兄弟機も存在した。「一番出世」である。
豊丸・一般電役「一番出世」(1993年)
・賞球…7&15
・出玉…約2400発
・タイムボカンと同タイプの回転体役物を使用。振り分けシステムも同じ。
・但し、役物入賞ルートはタイムスリップIと同じ(天横⇒役物真上の命釘を抜ける必要アリ)
・コチラは相撲がモチーフ
・盤面には「龍雷山」(左)と「虎ノ穴」(右)という、二人の力士が描かれている。恐らく架空。
・下段クルーン手前穴入賞で、デジタル(ランプ)変動。
・ランプは左右ともに「一、三、五、七、九」の5つ(三と七のみピンク、他は緑)。
・左右ランプが「三・三」或いは「七・七」の左右同数字で止まれば大当り。
・デジタル確率は1/13(2/25とするデータもあり)
・デジタルの連チャン性あり。
コチラは上段回転体が「小結」、下段回転体が「大関」。また、下段に直接向かう左ルートの途中には、「横綱」とある。いかにも和風だが、回転体の間には「OH-SUMO」の英字もあって怪しげだ。
このように、「タイムボカン」と同じ回転体役物を用いた機種が、タイプを変えて複数存在した訳だ。豊丸が「プッシュしていた」と言った意味が、これでお判りだろうか。これらを登場順にまとめると…
・タイムスリップI(1回権利)デジタル1/5、連アリ
・タイムボカン(2回権利)デジタル1/5、連アリ
・一番出世(一般電役)デジタル1/13、連アリ
・CRタイムボカン(CR権利物)1/2確変
これだけ集中的に兄弟機種を出しながら、この垂直回転体に対するファンの認知度は低かった。
そういえば、1993年というと、例の「ダービー物語事件」で業界が大揺れした年。同年の後半には、連チャン機に対するホールの扱いが、かなりデリケートになっていた。そういった業界の流れも、これら各機種の設置率に影響したかもしれない。「台は面白いが、登場時期が悪かった」という事か。