第3章 ジェラシー
第一節 嫉妬
駿と沙羅は二人でつきあいはじめたが、岡田先輩以外の部員には内緒にしていた。
サークルの中で恋人同士ができるとほかの部員との仲がきまずくなるからという理由からだった、
ただ、みんなと一緒でも沙羅は常に眼の端で駿の姿を追い続け、駿もみんなの前では、わざと「松岡さん」と呼びながらもその呼び方には愛情があふれていた
そんな二人の目に見えない反応の変化に最初に気がついたのは、エリカと小百合だった。
そんなあるミーティングの日、順番に自分の持ってきた小説やポエムの最終チェックをしていた時だった。
エリカ「松岡さん・・・松岡さんに頼んでおいた片思いのポエム『眠れぬ夜に』の最終原稿がなくなっているんだけど・・・」
沙羅「え・・?きちんと提出しましたが・・・・」
後藤「え・・・僕も昨日、松岡さんから詩をもらったからちょうど挿絵もいれたし・・・部長からもOKでていたんだけど・・・」
冬美「それってこれのこと?」
冬美はさりげなく見たごみばこに入っている、原稿を取り出した。
沙羅が描いた詩と後藤さんが描いた挿絵の完了原稿の上にNGという文字がたくさん印刷してあった。
エリカ「どういうこと?これじゃ原稿にならないわよ・・・」
沙羅「私は・・・・きちんと」
サークルでは、出来上がった原稿をそれぞれの名前のついている引出しにいれて、保管をすることになっている。一応鍵はついてはいるがカギをかける人は通常いない。
同人誌は、できるだけ人間味をだすためにPCではなく手書きで小説や、ポエムを書き、それに後藤がイラストをいれたり、上杉が写真をはったりして手作りの原稿をつくるのであった。
エリカ「まさか自分でこんなNG文字をいれたとは思えないけど、大切な原稿の管理がなってないわ!!」
沙羅(いったいだれがこんなひどいことを・・・・)
駿「誰だよ!!こんなことしたの!!ひどすぎるんじゃないか!!」
後藤「そうだよ・・・・せっかく、松岡さんのポエムに合うように3時間もかけてイラストを描いたのに。」
エリカ「松岡さん、このポエムの原稿はある?」
沙羅「すみません。何度か手直しをして、部長にOKをもらったので、最終原稿は手元にないです。」というと、涙がポロポロとこぼれてきた。
エリカ「泣いている暇はないはずよ!!すぐに書き直して・・・思い出しながら・・・
挿絵は、後藤さんにもう一度書いてもらうわけにはいかないかから、レイアウトを考えて作成してね・・・」
というとエリカは踵をかえし、他の部員のほうを向いた。
エリカ「自分の原稿の管理はきちんとして!今日からきちんと各自鍵をかけること・・」
夏美「誰がやったかどうか調べないんですか?」
エリカ「犯人探しをしてもしかたないでしょ」
岡田「たぶん犯人はこの中にいる可能性もあるんだ・・・もちろん外部犯の可能性もないわけではないけど・・・部員を疑うのは部長としても抵抗があるから・・・」
エリカ「じゃあ・・・・最終原稿チェック、松岡さんを除いて始めるわよ・・・
じゃあ・・秋吉君から・・・」
駿「はい。」
「愛している」 (オリジナルポエム)
君に出逢って
恋を再び知り
逢瀬を重ねるうちに
愛を再び知り
同時に
逢えぬ日々の
寂しさを知る
でも
愛するが故
耐える気持ち育ててく
同じ
空をながめ
同じ
星に願いをかける
愛してる
その言葉の深さを知る
春美「いい感じやん。なんか本当に彼女の耳元でささやいているみたいで妬けちゃいそうやな・・・」
夏美「春美!そういうつっこみしないの・・・」
冬美「でも短いわりに彼女への思いがあふれていて、私好きだな・・・きっと駿君も彼女のこと考えてつくったんだろうなって感じ・・・」
エリカ「うん。だいぶよくなったわね・・・・それにこの上杉君の浜辺の写真もいいし」
岡田「駿君はOKだな・・・」
小百合「次は私の、小説をお願いします。」
小百合が小説を読み終わると水をうったように静かになった。
岡田「すごい・・・・本格的な推理小説だな・・・一個人としても・・・すごく続きが気になるよ・・・」
エリカ「素晴らしいわ・・・・一年生でここまで書けるなんて・・・私も負けてらんないわね・・・」
小百合「ありがとうございます・・・・すごくうれしいです。先輩方にそんなに褒めていただけるなんて」軽く小百合がシナを作ってほほ笑んだ。そして一瞬だが、沙羅のほうを見て、ほくそ笑んだ。
沙羅は必至に書いた詩を思い出そうとしたが、みんなの発表のほうに気が入ってしまって、
なかなか進まなかった。
その後も順番に、発表が終わった。事前に岡田がチェックしてOKを出しているものばかりなので、多少の手直しだけでそのまま、印刷にだせることになった。
岡田「じゃ・・・手直しは今日中に。手直しのない人は自分の引き出しに入れて鍵をかけて・・・・松岡さんどう?」
沙羅は、真っ白な原稿を目の前にして、涙があふれそうなのを我慢していた。
岡田「じゃ・・・これで解散。松岡さんはここの部室つかっていいよ。一人のほうが気楽だろうし。できあがったら、僕にポエムを携帯にメールして原稿を僕の家のPCにPDFにして送っといてくれるかな」
沙羅「はい・・・・」
エリカ「じゃ・・・解散よ・・・」
部長、副部長においだされるようにみんな部室からでたが、駿だけは沙羅のことが心配で何度も部室を振り向いていた。
小百合「駿・・・たまには一緒に帰ろうよ・・・私も車に乗せてほしいな・・・」
駿「悪い・・・小百合、ちょっと部室に忘れ物が・・・・」
小百合「松岡さんのこと?」
駿「いや・・・・」
小百合「一人で集中させてあげるのもやさしさなんじゃないの・・・」
駿「だけど・・・あいつ・・・わかったよ。小百合の家まで車で送ってやるよ・・」
駿はしぶしぶと車のキーをもって、小百合を家まで送り届けた。
その後、コーヒーを飲んでいくように強引に誘う小百合をふりきり、駿はコンビニに向かった。
第二節「我が愛する人々へ」
沙羅はまだ、真っ白な用紙をぼんやりと眺めていた。
沙羅は昔からあまり目立つ存在ではなかったので、学生時代にいじめる側にもいじめられる側にも所属をしたことがなかった。
なので、この仕打ちは、ある意味はじめての「いじめ、意地悪」だったのだ。
ふーっとため息をついた
沙羅「内部犯の犯行か、外部犯の犯行か?どちらにしても私が恨まれてるんだよね・・・」
またぽろぽろと涙がでてきた。
そんなとき「コンコン」と部室の扉をたたく音がした。
沙羅(駿?駿が来てくれたんだ・・・!)
喜び勇んで部室の扉を開けるとそこには、コンビニの袋をさげた後藤が立っていた。
後藤「中に入ってもいい?」
沙羅「はい」
後藤「部長に、許可とったから、まったく別のポエムを書いてもいいって
まだ、書けてないんでしょ?」
とてもとても不安で孤独だった沙羅には、今他人にやさしい言葉をかけてもらうとそれが、
きっかけになって涙線をとどめていた心の鍵が開き、とめどなく涙が流れてきた。
後藤「ご・・・ごめん・・・余計なことしちゃった?泣かないでよ・・・松岡さん」
沙羅「違うんです。私・・・・私・・・・」
後藤は何もいわずにハンカチを沙羅に差し出した。
沙羅「ありがとうございます・・・・」
後藤「こういうことってよくあるんだよ・・・僕も昔、美術部だったんだけど、部室に絵を飾っておいて・・・誰の絵をコンクールに出展するかの選考会の前の日に、キャンバスがめちゃくちゃに切り裂かれていたりして・・・・出る杭うたれる・・・でね」
沙羅「・・・・」
後藤「でも、これは僕と部長の見解なので、絶対に誰にも言ってほしくないんだけど。
たぶん松岡さんと秋吉君が仲いいんで、それに嫉妬してやったことだと思うよ・・・」
沙羅「だ・・・・誰が?」
後藤「それは、君が一番よくわかっているんじゃないのかな?」
沙羅「・・・・・」
後藤「そう・・・たぶん・・・小百合ちゃんだね。彼女も松岡君のこと好きみたいだから」
沙羅「私は、このサークルをやめたほうがいいのでしょうか?」
後藤「逃げちゃだめだよ。逃げたら負けだ・・・君は、とてもピュアでいい詩を書く。
それに松岡君のこともそんなに簡単にあきらめられるの?」
沙羅「・・・・・みんなご存じなんですか?私たちのこと」
後藤「一目瞭然だよ・・・みんな気づいているけどいわないだけ」
沙羅「すみません。」
後藤「謝る暇があったら、ポエムを完成しないと」
というと後藤は、3枚の挿絵をさらに見せた。
後藤「これは部長了承済み。まったく違う分野のポエムをこの挿絵にあったものを書いてごらん。書き終わるまで待っていてあげるから。元気だして・・・・
自分に負けちゃダメだよ・・・小百合ちゃんにも・・・好きならきちんと松岡君をつかまえておかなきゃね・・・」
沙羅「はい。」というと沙羅はその3枚の挿絵をじっとみつめてやがてペンをとりなおした。
【我が愛する人々へ】 (オリジナルポエム)
空を仰ぎ 満天の星を見つめなさい
そして星の中に自分を見つめなさい
人は皆 星より生まれた神の申し子
憎しみも妬みも
遠い昔はありもしなかった
星を星の海を見つめ
元来~もと~の姿に戻りなさい素直で純粋な心
すきとほった心の窓を開きなさい
海を見つめ
海と共に戯れなさい
そして海の中に自分の姿を探しなさい
人は皆、海より生まれた悪魔の申し子
仲間を傷つけ、おびやかし、のさばっていく。
海を、海の友に触れて
今の自分を洗いなさい
染み付いた汚れた心を洗い流し
ガラスの心を作りなさい
大地に立ち、母なる大地を踏みしめなさい
そして大地の下に生命~いのち~の源を見つけなさい
人はみな母なる大地より生まれた一つの生命体
互いの命を尊重し、互いの心をみつめなさい
喜びも悲しみも素直にうつしだせる
ガラスの心を持ちなさい
宇宙~そら~を見つめ
海と戯れ
大地を踏みしめ
そして生命~いのち~の唄を口ずさみなさい。
後藤「いい感じだ」
駿はさっきから、部室の前ではいるのを躊躇していた。
コンコンとノックをし、部室のドアをあけると
沙羅と後藤がそこにいた。
駿はショックだった・・・・
コンビニの袋をほおりだし、部室を飛び出した。
「狂おしいほどのジェラシー」(オリジナルポエム)
落ち込んでいた君をなぐさめようと
ノックをしてドアをあけると
聞き慣れた声と笑い声
君が誰かと語らっている
君が誰かと笑い合っている
狂おしいほどのジェラシーが
ひとつの作品を二人で覗き込み
熱心に話をしている二人
夢であって欲しいと願いつつ
頬をつねってみたけれど
心の痛みで現実と知る
声をかける勇気もなく
部屋を飛び出しし
雨の中を走りだす
猜疑心と不安な気持ちが
いつしか嫉妬の炎と化して
僕の心を焼き尽くす
雨に打たれながら心にひびが入っていく
息が苦しく
このまま雨の中で溶けていきたい
沙羅「駿!!!」
後藤「追いかけて行きな・・・この傘をもって・・・今いかなきゃだめだよ。
彼は、誤解したんだ・・・大丈夫、この作品は僕が、責任をもって仕上げるから」
沙羅「ありがとうございます!!」
というとコンビニのふくろと一緒に駿が、ほおりだした傘を二本持って雨の中飛び出して行った。
沙羅「駿!!駿!!どこ!駿!!!!」
沙羅はキャンパスの中を探し回った、傘をささなかったため沙羅の体は雨でぬれていった。
沙羅「駿・・・・」
駿はよく二人が一緒にお昼御飯をたべる芝生の丘の上で雨にぬれながら両足を抱えて座り込んでいた。
駿「沙羅・・・・」
沙羅「駿・・・後藤先輩は、挿絵をもってきてくくれただけで・・・・」
最後まで言わないうちに、駿は沙羅を抱きしめ、キスをした。
お互い雨に打たれて冷えた体のまま、心だけが燃え盛っているようだった。
駿はそのまま口を利かないまま、沙羅の手をずっとひっぱって駐車場に向かった
↑絵はいただきものです。転載しないで下さい。