去年の秋から、障害者権利条約にからんだ活動を続けています。
今日はとうとう、「プシケおおた」さんの研修会に出張して、学習会講師までやるはめに。
それと、「おおたジャーナル」の2月号に関連記事を書くことになったので、ここに転載することにしました。まあ、障害者権利条約については、ネットで検索してもいろんな人のコメントがあるでしょうが、これも参考になれば・・・と思います。
障害者権利条約という革命
大田区障害者権利条例案を作ってしまう会 茂野 俊哉
2008年5月3日、国連で障害者権利条約が発効した。前年の2007年に署名していた日本政府は、条約の批 准に向けて国内法の早急な改正を求められている。
■条約は何を求めているのか?
50条にわたるこの条約は、締約国(われわれの場合、日本)に対して大きく2つの転換を求めている。
1つは、「医療モデル」から「社会モデル」への障害の定義の変更。
2つ目は、それに伴い、「合理的配慮」を求め、これを怠ることを差別とすること。
実はこれは大変なことなのだ。
■医療モデルを根拠とした
障害者差別の正当化の現状
現在の日本では、障害者は「差別されているが、差別じゃない。」日本の障害者には他の者との平等を 基礎として権利を主張することが、事実上できない。もっと言えば、障害に基づく差別は、日本では差 別ではない。そんなことがあるか、と思うかもしれない。根拠がある。それが、日本が採用してきた「 障害の医療モデル」である。
障害とは個人の機能障害のことであり、障害によって受ける不利益は基本的に仕方のないことであり、医療やリハビリによ って機能障害を改善したり「克服」したりすれば不利益は解消される、つまり、障害による差別は差別じゃないというのが医療モデルの立場なのだ。
■「社会モデル」と
「合理的配慮の欠如は差別」という宣言
障害者権利条約は、「社会モデル」への変更を求めている。障害とは、機能障害のことではなく、機能障害を理由として他の者との平等を妨げようとする態度や環境に関する障壁との相互作用であることを確認した。つまり、障害を障害たらしめているのは社会だということ。車椅子の子どもが地域の小学校に通えないのは、歩けないからじゃなく、学校がエレベーターも車いす用トイレも作らず、彼を拒絶しているからだということ。
「合理的配慮」とは、障害のある人が他の者との平等を基礎として、すべての人権および基本的自由を享有しまたは行使することを確保するための必要かつ適切な変更および調整であるとされる。前にあげた具体例でいえば、エレベーターと車いす用トイレを作ることにあたる。条約は「障害に基づく差別」を禁止しているが、この差別には、「合理的配慮を行わないことを含む」と明示されている。
■条約は、日本の障害福祉に
根本的変更を求める
現在、日本では障害者の権利を否定し、恩恵を与えてきた。この行政施策と背景にある法制度は、障害者権利条約を上位法制に持つことで、根本から違法なものとしてひっくり返されることになるのだ。
まず、他の者との平等を基礎として、権利が確認される。そして合理的配慮を求める。怠ったもの、あるいは制度には差別の認定がされる。差別を是正すべきという大きな声がおこる。そうした流れが起こるだろう。
これを革命といわずして何と言おう。
■でも、条約を批准しても
解決じゃない
でも、残念ながら、違法で差別的な日本の障害福祉の諸制度を、一度に変えることなんてできはしない。多少の手直しの後、まずは条約の批准があり、それ以降、条約の趣旨に合うようにひとつづつ制度が変更されるということにしかならない。それがどこまできちんと行われるか、それは力関係というしかない。条約に沿った形での、地域の、現場の具体性を積み重ねた突き上げはどうしても必要だ。
その際に、深刻な問題がある。それは、障害福祉に関わる人々が「障害者の権利」になじんでいないということ。実際、前の政府は「権利は障害福祉になじまない」として、一切法改正をせずに批准だけしようとして障害者団体等の反対にあった。そんな行政はもちろん、実際は、当事者、家族、支援者、みんなが、抑制を強いられ限定された恩恵のくびきに長くつながれていたから、「障害者の権利」にとまどってしまっている。
僕は大田区自立支援協議会の障害福祉サービス部会に、要請を受けて参加している。先日、「医療的行為」について論議があった。特別支援学校や更生施設などで、酸素や胃ろう、吸引などの「医療的行為」が必要な子供が、行政から支援をうけられず、施設サービスから結果的に排除されている現状が報告された。で、必要な解決策として親が望むのが、「医療的行為」に対応できる施設が区内にひとつでもできること、なんだそうだ。
僕は言った。「他の子どもと普通にいられるために医療的行為が必要なら、そこで保証するべきでしょう。それは、合理的配慮ですよね。医療的行為を受けられるのは、権利ですよね。行政には保障する義務がありますよね。」
参加している区の職員は言った。「石を投げるのは勘弁してください。」
大田区では、障害者の権利を語ることは、まだ、石を投げることに等しいのだそうだ。
■障害者に権利はある。
それを確認することから、始めよう。
そんな大田区の状況を変えるために、まず、障害者にとって権利とは何か、確認し共有していく作業をしていこうと考えた。そして、その手段として「大田区障害者権利条例案を作ってしまう会」http://www.geocities.jp/kenrijouyaku_oota/を立ち上げた。毎月1回の学習会で条約のカテゴリをひとつづつ共有し、そして来年にも、大田区に条例案を掲げたいと考えている。以下の呼びかけ文のもと、まだ小さいが、活動を開始している。
------------------
大田区障害者権利条例をみんなでつくろう
障害者権利条約の学習活動が、活性化してきています。日々の「困ったこと」の積み重ねに対処していく、現在の障害福祉のあり方だけでは、状況は「ツギハギ的」になり、結局、障害当事者の生活は、行政予算や地域状況に振り回されてしまっています。障害者権利条約への期待は、障害当事者と支援者、家族が、そんな事からの脱出を求めているからではないでしょうか。
一方、障害を持つ人の権利とは何なのか?わかりきった話のようで、実はちゃんと確認してきていないのではないでしょうか。障害福祉の領域で「権利」という言葉が語られるとき、行政も関係者も、一様に当惑している場面によく出会います。
権利条約の批准に向け、これから国内法は改正作業に入っていきます。
そして同時に、日本では、地方分権が加速的に進んでいく兆しがあります。
今、地域の中で、地域で生活をしている障害当事者や家族の視点で、地域で保障されるべき権利はなにかを確認していく必要があると私たちは考えます。
個人が達成するべきこと、地域が達成するべきこと、国が達成するべきこと、そんなことをみんなで明確にしていく作業をしましょう。
次のような学習作業と行動を提案します。
1 障害当事者の権利って何なのか、確認しよう。
2 自治体の条例って何なのか、勉強しよう。
3 条例案を作ろう。
4 大田区に提案してみよう。大田区民にアピールしよう。
まず、学習と作業を中心とした活動をスタートさせることを考えています。
大田区障害者権利条例案を作ってしまう会準備会
呼びかけ人:茂野俊哉/岡田あい子/宮原映夫/濱口正義/中村和利
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なお、僕の主宰するインターネットラジオ「オープンセッション」http://voiceblog.jp/opensessionでも、去年の11月、障害者権利条約の特集の蒲田駅前公開収録を4回にわたって組んだ。こちらもぜひ聞いてみてください。
今日はとうとう、「プシケおおた」さんの研修会に出張して、学習会講師までやるはめに。
それと、「おおたジャーナル」の2月号に関連記事を書くことになったので、ここに転載することにしました。まあ、障害者権利条約については、ネットで検索してもいろんな人のコメントがあるでしょうが、これも参考になれば・・・と思います。
障害者権利条約という革命
大田区障害者権利条例案を作ってしまう会 茂野 俊哉
2008年5月3日、国連で障害者権利条約が発効した。前年の2007年に署名していた日本政府は、条約の批 准に向けて国内法の早急な改正を求められている。
■条約は何を求めているのか?
50条にわたるこの条約は、締約国(われわれの場合、日本)に対して大きく2つの転換を求めている。
1つは、「医療モデル」から「社会モデル」への障害の定義の変更。
2つ目は、それに伴い、「合理的配慮」を求め、これを怠ることを差別とすること。
実はこれは大変なことなのだ。
■医療モデルを根拠とした
障害者差別の正当化の現状
現在の日本では、障害者は「差別されているが、差別じゃない。」日本の障害者には他の者との平等を 基礎として権利を主張することが、事実上できない。もっと言えば、障害に基づく差別は、日本では差 別ではない。そんなことがあるか、と思うかもしれない。根拠がある。それが、日本が採用してきた「 障害の医療モデル」である。
障害とは個人の機能障害のことであり、障害によって受ける不利益は基本的に仕方のないことであり、医療やリハビリによ って機能障害を改善したり「克服」したりすれば不利益は解消される、つまり、障害による差別は差別じゃないというのが医療モデルの立場なのだ。
■「社会モデル」と
「合理的配慮の欠如は差別」という宣言
障害者権利条約は、「社会モデル」への変更を求めている。障害とは、機能障害のことではなく、機能障害を理由として他の者との平等を妨げようとする態度や環境に関する障壁との相互作用であることを確認した。つまり、障害を障害たらしめているのは社会だということ。車椅子の子どもが地域の小学校に通えないのは、歩けないからじゃなく、学校がエレベーターも車いす用トイレも作らず、彼を拒絶しているからだということ。
「合理的配慮」とは、障害のある人が他の者との平等を基礎として、すべての人権および基本的自由を享有しまたは行使することを確保するための必要かつ適切な変更および調整であるとされる。前にあげた具体例でいえば、エレベーターと車いす用トイレを作ることにあたる。条約は「障害に基づく差別」を禁止しているが、この差別には、「合理的配慮を行わないことを含む」と明示されている。
■条約は、日本の障害福祉に
根本的変更を求める
現在、日本では障害者の権利を否定し、恩恵を与えてきた。この行政施策と背景にある法制度は、障害者権利条約を上位法制に持つことで、根本から違法なものとしてひっくり返されることになるのだ。
まず、他の者との平等を基礎として、権利が確認される。そして合理的配慮を求める。怠ったもの、あるいは制度には差別の認定がされる。差別を是正すべきという大きな声がおこる。そうした流れが起こるだろう。
これを革命といわずして何と言おう。
■でも、条約を批准しても
解決じゃない
でも、残念ながら、違法で差別的な日本の障害福祉の諸制度を、一度に変えることなんてできはしない。多少の手直しの後、まずは条約の批准があり、それ以降、条約の趣旨に合うようにひとつづつ制度が変更されるということにしかならない。それがどこまできちんと行われるか、それは力関係というしかない。条約に沿った形での、地域の、現場の具体性を積み重ねた突き上げはどうしても必要だ。
その際に、深刻な問題がある。それは、障害福祉に関わる人々が「障害者の権利」になじんでいないということ。実際、前の政府は「権利は障害福祉になじまない」として、一切法改正をせずに批准だけしようとして障害者団体等の反対にあった。そんな行政はもちろん、実際は、当事者、家族、支援者、みんなが、抑制を強いられ限定された恩恵のくびきに長くつながれていたから、「障害者の権利」にとまどってしまっている。
僕は大田区自立支援協議会の障害福祉サービス部会に、要請を受けて参加している。先日、「医療的行為」について論議があった。特別支援学校や更生施設などで、酸素や胃ろう、吸引などの「医療的行為」が必要な子供が、行政から支援をうけられず、施設サービスから結果的に排除されている現状が報告された。で、必要な解決策として親が望むのが、「医療的行為」に対応できる施設が区内にひとつでもできること、なんだそうだ。
僕は言った。「他の子どもと普通にいられるために医療的行為が必要なら、そこで保証するべきでしょう。それは、合理的配慮ですよね。医療的行為を受けられるのは、権利ですよね。行政には保障する義務がありますよね。」
参加している区の職員は言った。「石を投げるのは勘弁してください。」
大田区では、障害者の権利を語ることは、まだ、石を投げることに等しいのだそうだ。
■障害者に権利はある。
それを確認することから、始めよう。
そんな大田区の状況を変えるために、まず、障害者にとって権利とは何か、確認し共有していく作業をしていこうと考えた。そして、その手段として「大田区障害者権利条例案を作ってしまう会」http://www.geocities.jp/kenrijouyaku_oota/を立ち上げた。毎月1回の学習会で条約のカテゴリをひとつづつ共有し、そして来年にも、大田区に条例案を掲げたいと考えている。以下の呼びかけ文のもと、まだ小さいが、活動を開始している。
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大田区障害者権利条例をみんなでつくろう
障害者権利条約の学習活動が、活性化してきています。日々の「困ったこと」の積み重ねに対処していく、現在の障害福祉のあり方だけでは、状況は「ツギハギ的」になり、結局、障害当事者の生活は、行政予算や地域状況に振り回されてしまっています。障害者権利条約への期待は、障害当事者と支援者、家族が、そんな事からの脱出を求めているからではないでしょうか。
一方、障害を持つ人の権利とは何なのか?わかりきった話のようで、実はちゃんと確認してきていないのではないでしょうか。障害福祉の領域で「権利」という言葉が語られるとき、行政も関係者も、一様に当惑している場面によく出会います。
権利条約の批准に向け、これから国内法は改正作業に入っていきます。
そして同時に、日本では、地方分権が加速的に進んでいく兆しがあります。
今、地域の中で、地域で生活をしている障害当事者や家族の視点で、地域で保障されるべき権利はなにかを確認していく必要があると私たちは考えます。
個人が達成するべきこと、地域が達成するべきこと、国が達成するべきこと、そんなことをみんなで明確にしていく作業をしましょう。
次のような学習作業と行動を提案します。
1 障害当事者の権利って何なのか、確認しよう。
2 自治体の条例って何なのか、勉強しよう。
3 条例案を作ろう。
4 大田区に提案してみよう。大田区民にアピールしよう。
まず、学習と作業を中心とした活動をスタートさせることを考えています。
大田区障害者権利条例案を作ってしまう会準備会
呼びかけ人:茂野俊哉/岡田あい子/宮原映夫/濱口正義/中村和利
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なお、僕の主宰するインターネットラジオ「オープンセッション」http://voiceblog.jp/opensessionでも、去年の11月、障害者権利条約の特集の蒲田駅前公開収録を4回にわたって組んだ。こちらもぜひ聞いてみてください。
「権利なんて強い言葉を使うと、一般の人はひいてしまう」って関係者から聞く事がありますが、なんかズレている気がします。