となりのトトロ - 風の通り道 ピアノ
道尾秀介という人、その比喩的表現が素晴らしい。
例えば、
「ぎゅうぎゅう詰めの本棚は、一冊抜き出しただけでホッと息をついたように見えた」
こう文章化されると、誰しも過去にある記憶が蘇ってきて、その映像が浮かぶ。
そして、妙に頷いてしまう。
だが、そいつをこう見事に表現出来る人間はそうはいない。
だからこそ、物書きになるにはこうした特殊な才能を必要とするのだろう。
そういう意味では、彼は物書きとして優秀なんじゃないだろうか。
そうした瑞々しい感性と表現力に支えられた本作は、「スタンド・バイ・ミー」と「となりのトトロ」を足して2で割ったような味わい。
落涙させられる部分もあり、読み手は心地良く読み進められる。
ちょっと引っ掛かるのは、「往事」と「現在」の交錯。
「往事」を明朝体、「現在」をゴシック体で区別することで切り替えてはいるが、全編を通して第一人称は「私」。
これがどうも、現在の「私」が「往事」の「ボク」を語ってるようなイメージになる。
言い方を変えれば、俯瞰した物語。
「スタンド・バイ・ミー」がそうした作りだった。
(後に小説家に成った主人公=リチャード・ドレイファスが車中で過去を振り返るシーンから、その映画は始まる)
これは、時を交錯させながら、スイッチングの展開でいいんじゃなかろうか?
それと、誘拐という事件に絡める必要性はあったろうか?
無限の可能性を秘めた子供の頃の甘酸っぱく、狭い領域での体験を綴っただけでも充分読者は感銘を受けたように思う。
何故なら先述したように、その瑞々しい表現力が「何気ない日常」を描くだけでそれを読み応えのある作品に仕上げると思うから。
実はワタクシメ、道尾秀介の作品に触れるのはこれが最初。
ナイルのレビュー等によれば、どうやらミステリーが得意の人らしい。
勿論、それはそれでいいのだが、折角こうした秀でた才能を持っているのだから、そこから離れたテイストの作品群があっていいと思う。
そういう意味でも、今後の彼の作品に期待したい・・・
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